◇
「はーいどうもこんにちはー」
突然の聴き慣れぬ声に、わたしははっと振り向く。
先ほどよりも色彩の明度がうっすら落ちたようなオペ室の中は、なんの匂いも音もしない。
それどころか。気がつけば。
動いているものが、何もない。
スタッフも。時計も。すべてのメーターもモーターも。
かろうじて動いているのは、モノポーラをいまだ持ったまま細かく震えているこの手と。
そして。
いつの間にかわたしの背後に立っていた、黒い人影だけだった。
ーー人影?
ーーしかも、黒い?
「あれ、驚いちゃった? そりゃそうだよね驚くよねー」
青緑色の術衣を着た医療従事者以外が入れるはずもない、このオペ室という空間に、真っ黒なスーツ姿の妙にひょろりと背の高い男が忽然と現れていた。