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「はーいどうもこんにちはー」


 突然の聴き慣れぬ声に、わたしははっと振り向く。


 先ほどよりも色彩の明度がうっすら落ちたようなオペ室の中は、なんの匂いも音もしない。


 それどころか。気がつけば。


 動いているものが、何もない。


 スタッフも。時計も。すべてのメーターもモーターも。


 かろうじて動いているのは、モノポーラをいまだ持ったまま細かく震えているこの手と。


 そして。


 いつの間にかわたしの背後に立っていた、黒い人影だけだった。


 ーー人影? 


 ーーしかも、黒い?


「あれ、驚いちゃった? そりゃそうだよね驚くよねー」


 青緑色の術衣を着た医療従事者以外が入れるはずもない、このオペ室という空間に、真っ黒なスーツ姿の妙にひょろりと背の高い男が忽然と現れていた。