「ごめんなさい私、空気読めてません……?」


 そこにいたのは手に文具店の紙袋を抱えた、さっきのお客様だった。


「わ、すみません! ええとラッピング、こちらでよろしいですか?」


 慌てふためいた私たちがネクタイの箱を差し出すと、お客様はふわっと笑った。


「うわ、本当に綺麗。確かにこれ、リボン解きたくなくなるかも。お姉さんの気持ちわかります」


「……恐縮です」


 そして店先までお見送りに出た私に、お客様は「あの」と手招きをした。


「お姉さん、あのね……」




 キスをするときのマスクの外し方を伝授された私が、それを実践すると決心するまでに費やしたのは、本日の閉店までの、あと一時間。




〈了〉