「ねえ神崎。リボンってさ、絶対に解けないように結べたりする?」
「できなくはないけど。なんで?」
不思議そうな彼の声を聞きながら、私はさっきのお客様とのやりとりを思い返していた。
『わ、お客様のピアス、めっちゃかわいいですね。リボン型ですか?』
『えへへ、これ、誕生日に彼から初めてもらったプレゼントなんです』
「……いや、なんか記念として欲しいな、って。神崎のリボン結び、まじ芸術だから」
「変なやつ。別にいいけど。……あ、じゃあさ、ちょっと待ってて」
突然バックヤードに入っていった神崎が、何かを持って戻ってきた。
「そんなにリボン好きなら、簡単に解けない結び方教えるよ」
その手には上品なオフホワイトの包み紙に、金色のリボンが掛かっている箱が乗っていた。同じフロアのアクセサリー屋さんのものだ。
「え……?」
「今日くらいしか渡すチャンスなかったから。シフト的に」
今までありがとう。そう言って差し出された箱のリボンを見て、私は気がついた。
「これ、自分でリボン結び直した?」
「よくわかるな。店員さんが結んでくれたんだけどさ、ちょっとゆるくて」
じゃあ、いったん解くよ。そう言って神崎がリボンに手をかけた瞬間、私は叫んだ。
「だ、だめっ! 解いちゃだめっ! 折角の造形美がっ!!!」
「……何言ってんの? 大体解かなきゃ中身も見れないよ?」
「だって勿体ない」
「いや、そんなん何回でも結んでやるから」
「……あのー」
遠慮しいしい、という声がふいに聞こえて、私たちはそちらを振り返る。