翌日には梶木から連絡があり、正式に依頼を受けることになった。ただ、クリスマスまでには数日あり、それまでは凛風の相手もしてほしいと頼まれた。

 気がすすまない再会だったが、凛風の豊かな表情に気分がほぐれていき、気づくと小一時間は他愛もない話で盛り上がっていた。

「なあ、やっぱり辛いのか?」

 頃合いをみて、聞きたかったことを口にする。凛風が死にたい理由を考えてみたが、思いつくのは不自由な体ぐらいだった。

「こんな体でも、辛くはないんだよ。本も映画も動画も見放題だし、こうして竜也くんと話もできるしね」

「だったら、なんで死ぬつもりなんだ?」

「大事な存在がいるからかな」

 明るく語る凛風の表情に、憂いの陰は欠片も見えなかった。だから余計に、凛風の言っていることがわからなかった。

「さっぱり意味不明なんだけど」

「うん、私もさっぱり意味不明かな」

 さらりと返した凛風だったが、はぐらかしていることだけはわかった。

「それより、竜也くんはなんで便利屋なんかしてるの?」

 さりげなく話を変えてきた凛風の問いに、胸の中がさわつき始める。自分のことを話すのは、捨て子になってからは勉強するより嫌だった。だから聞き流そうとしたが、凛風の真っ直ぐな眼差しにほだされて仕方なく俺の状況を説明した。

「そっか。なんか、辛いこと聞いてごめんね」

「いいんだ。捨て子になったのは俺のせいでもあるし、それに、継父とはそれなりにうまくやってるしな」

 押し黙る凛風に、つい嘘が口から出た。ただ、捨て子になった理由に嘘はない。離婚に反対し、家を出ようとする母親に反抗して継父と残ると言ったのは俺だった。

 結果、母親は弟と妹だけを連れて家を出ていった。置いていかれるとは思っていなかった俺は、結局継父と暮らすことになり、今もなお母親からは一切連絡はなかった。

「でもな、時々思うんだ。この空を自由に飛べたらなって」

 薄いカーテンの先に広がる冬の空を見ながら、愚痴をこぼす。俺は、ずっと捨て子の鎖に縛られたままだ。継父に捨てられないかと怯えながら暮らす毎日。そこには将来の夢や希望はなく、ただがんじがらめの今日を生きる以外に選択肢はなかった。

「私は鳥になりたいとは思わないけど、自由に空を飛んでほしい人がいるかな」

「なんだよそれ。どういう意味だ?」

「え? あ、ううん、なんでもない」

 慌てて顔を横に向けた凛風が、無理矢理話を終わらせてくる。一瞬、凛風の本音が見えたような気がしたが、それ以上なにも言わなくなった凛風からはなにも知ることはできなかった。