家に帰るなり、待ってましたとばかりに継父が今日の結果を聞いてきた。シャッター街の片隅にある事務所兼住宅のボロアパート住まいの継父にしたら、今回の依頼料は地球が滅びても手にしたいようだった。
「なんだか変な依頼だったよ」
男二人暮らしでは狭苦しい部屋に座るなり、今日の内容を報告する。正直受けたくない内容だったが、継父の様子を見るかぎり依頼を断ることはできそうになかった。
報酬以外に興味を示すことはなかった継父は、「そうか」とだけ告げると、禿げた頭をかきながらいつものようにだらしない腹を揺らして横になった。
――まったく、あんたが仕事しろよ
自分の部屋に戻りながら、心の中で舌打ちをする。普段からほとんど会話のない継父との関係は、決して良くなかった。とはいえ、面と向かって文句を言える勇気もない。ニ年前、実の母に捨てられた俺には、継父を頼る以外に生きるすべがないからだ。
――なんか、疲れたな
部屋にこもり、ベッドに横になって今日のことを思い返す。便利屋の仕事には、まともなものはほとんどない。だからこそ、継父のような堕落した人間にも仕事がくるのだが、今日のような依頼は特に異常だといえた。
――凛風、どんな気持ちで生きてたんだろうな
ぼんやりと天井を眺めながら、全身麻痺の凛風のことを考えてみる。梶木の説明によると、凛風は生きているのではなく生かされているということだった。
その理由は、凛風が十八歳になった時点で結婚させるためらしい。簡単に言えば政略結婚みたいなもので、凛風はその道具にすぎないとのことだった。
だから、高額な費用を投じても凛風を生かしている。そう語った梶木の苦悶の表情に、ただならぬなにかを感じた。だが、ただの便利屋でしかない俺には推し量るすべはなかった。
――俺だったら、どうするんだろうな
無邪気に笑う凛風の顔に、自分を重ねてみる。生殺与奪権を他人に握られている点は、凛風に近いものがある。継父にも捨てられたらと思うと怖くてなにも考えられなくなる俺は、いくら手足が自由とはいえベッドに縛られた凛風と同じような気がしてならなかった。
――やっぱり、受けるしかないか
自殺ほう助というとんでもない依頼。できれば受けたくなかった。でも、断る勇気も継父にたてつく勇気もない俺には、黙って流されるしかなかった。
フッと息をつき、仕事以外に連絡のないスマホを手に取ると、唯一いまだに連絡をしてくる幼なじみのメッセージを開いてみた。
『中学の集まりがあるから、竜也も参加してね』
何度も送られてきたメッセージを眺め、結局なにも返信しないまま画面をオフにする。参加したい気持ちはあったが、今の俺を知っている連中には会いたくなかった。
捨て子になったとたん、俺に向けられた奇異の視線。
それらから逃げるように人生を踏み外した俺には、その眼差しに抗う勇気もすべもなかった。
「なんだか変な依頼だったよ」
男二人暮らしでは狭苦しい部屋に座るなり、今日の内容を報告する。正直受けたくない内容だったが、継父の様子を見るかぎり依頼を断ることはできそうになかった。
報酬以外に興味を示すことはなかった継父は、「そうか」とだけ告げると、禿げた頭をかきながらいつものようにだらしない腹を揺らして横になった。
――まったく、あんたが仕事しろよ
自分の部屋に戻りながら、心の中で舌打ちをする。普段からほとんど会話のない継父との関係は、決して良くなかった。とはいえ、面と向かって文句を言える勇気もない。ニ年前、実の母に捨てられた俺には、継父を頼る以外に生きるすべがないからだ。
――なんか、疲れたな
部屋にこもり、ベッドに横になって今日のことを思い返す。便利屋の仕事には、まともなものはほとんどない。だからこそ、継父のような堕落した人間にも仕事がくるのだが、今日のような依頼は特に異常だといえた。
――凛風、どんな気持ちで生きてたんだろうな
ぼんやりと天井を眺めながら、全身麻痺の凛風のことを考えてみる。梶木の説明によると、凛風は生きているのではなく生かされているということだった。
その理由は、凛風が十八歳になった時点で結婚させるためらしい。簡単に言えば政略結婚みたいなもので、凛風はその道具にすぎないとのことだった。
だから、高額な費用を投じても凛風を生かしている。そう語った梶木の苦悶の表情に、ただならぬなにかを感じた。だが、ただの便利屋でしかない俺には推し量るすべはなかった。
――俺だったら、どうするんだろうな
無邪気に笑う凛風の顔に、自分を重ねてみる。生殺与奪権を他人に握られている点は、凛風に近いものがある。継父にも捨てられたらと思うと怖くてなにも考えられなくなる俺は、いくら手足が自由とはいえベッドに縛られた凛風と同じような気がしてならなかった。
――やっぱり、受けるしかないか
自殺ほう助というとんでもない依頼。できれば受けたくなかった。でも、断る勇気も継父にたてつく勇気もない俺には、黙って流されるしかなかった。
フッと息をつき、仕事以外に連絡のないスマホを手に取ると、唯一いまだに連絡をしてくる幼なじみのメッセージを開いてみた。
『中学の集まりがあるから、竜也も参加してね』
何度も送られてきたメッセージを眺め、結局なにも返信しないまま画面をオフにする。参加したい気持ちはあったが、今の俺を知っている連中には会いたくなかった。
捨て子になったとたん、俺に向けられた奇異の視線。
それらから逃げるように人生を踏み外した俺には、その眼差しに抗う勇気もすべもなかった。