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お祖父ちゃんの家には、私たちの方が早く着いたみたいだった。

玄関には、道忠さんとお祖父ちゃんが、待ち構え、

居間で、私と紫紺様、櫻葉さん、お祖母ちゃんが待っている中、
お母さんとお父さんは、やって来た。

『何をしに来られたんですか?』

『忍葉に会いに来たの。私が間違っていたわ。誤ってやり直そうと言いに来たのよ。
だから、合わせて頂戴。』

『母親の貴方は、接近禁止令が出ているんですよ。わかっていますか?』

『大丈夫よ。話せばわかってくれる。忍葉は、そんなものすぐ取り下げるって言うはずよ。』

『母親が謝るって言ってるんだから、状況が違うだろう?親と和解できた方がいいに決まってるだろう。合わせてやってくれ。それとも、忍葉の幸せを奪う気か?』

『忍葉様は、和解される意思はございませんよ。今まで、言わなかったから、
もう関わりたくない。これ以上、周りの人に迷惑をかけないで欲しい。
とご両親に仰りたいそうです。

その為に、今回だけ、お会いになるそうです。くれぐれも誤解しないで下さい。』
そう言って道忠さんは、両親を連れて来た。

『まあ、忍葉。目や髪の色が濃くなったって本当だったのね。花紋が現れて、アザも消えたんですって?
そちらの方が忍葉の花王子の紫紺様?

今までお世話になって申し訳ありません。

お母さん、知らなかったから、誤解して悪かったわね。

貴方は生まれた時から、神獣人のトップの花姫だったのに。

やっぱり私の子だったのね。

紫紺様、忍葉とは、一緒に住みたいので、中央区管内に早く家を用意して下さいね。

もう誤解は解けたから、帰りましょう。忍葉。』

お母さんの出鱈目な言い分に怒りで体が震えた。

『お母さん、何を言っているの‼︎
私は、もう関わりたくもない。帰りません。

それに今日、美咲はどうしてるの?』

『何言ってるの?親と関わりたくないなんて許されるわけないでしょ。
謝っているんだから、もういいでしょ。』

『美咲は、どうしてるの?って聞いているでしょ。』

『あんな子知らないわよ。
翔君も、愛想を尽かしたし、花紋も消えたわ。もう二度と現れることは無いそうよ。』

『花紋が消えたってどういうこと‼︎』

『そんなこと、どうでもいいじゃない。元に戻らないんだから。知ったってどうにもならないわよ。

それより、お母さん、美咲にはすっかり騙されて、酷い目に遭ったわ。あの子ったら、何にも家のことしないし…、その点、貴方は本当にいい子だったわ。毎日、お手伝いしてくれて…。

ちゃんと改心したことがわかったでしょう。さあ、早く帰りましょう。』

お母さんが理解できないと思ってきたけど、一体なんなんだこの人は‼︎と思った。

『花紋が消えるなんて‼︎美咲が辛い時に何をしてるの‼︎お母さん。』

『あんなことをしたあの子の自業自得でしょ。知らないわよそんなの。』

『お母さんが美咲をあんな風に育てたんでしょ。それを花紋が無くなったからって見捨てて、私が花姫だって認めなかったくせに、花紋が出た途端に、手の平を返して‼︎
貴方が母親で、恥ずかしい。』

『親に向かって何を言っているの?』

『それくらいにしとけ。晶子。
改心したからって、急に謝って、すぐに受け入れられるものでもないだろう。
今日のところはまた、来る。ゆっくり考えろ。忍葉。』

『改心なんかしてないし、謝ってないでしょ。何を言っているの?お父さん‼︎

もういい。私にとって親は、紗代ちゃんたちだから、私、紗代ちゃんたちの養女になる。

道忠さん、この人たちの子であることを法的に全て抹消できる。
って言ってましたよね。そうします。
関わりたくないと言っても通じないなら、
子じゃなくなるしかない‼︎』

そう言うと、ずっと手を握っていてくれた紫紺様の手を引いて、
『もういい。ここに居たくない。』
と言うと、紫紺様が、

『行こう。』
と言って手を引いて連れ出してくれた。

『何を言っているの?私は、貴方の母親でしょ。』

『そうだぞ。俺たちは、親子なんだ。そんな簡単に、縁が切れるわけない。』

『簡単じゃないぞ。
お前たちが、十数年、親らしいことをしてこなかった結果だ。自業自得だ。馬鹿息子。
もう帰れ。2度と来るんじゃない。』

『裁判所に養子縁組の申し立てをしますので、裁判所から、通知が来たら、出廷して下さい。それでは、お引き取り下さい。』

後ろからまだ、屁理屈を並べ立てるお母さんたちの声と、冷静なお祖父ちゃんや道忠さんの声が聞こえていた。

外に出ると、紫紺様が用意していた車に乗った。

暫く呆然としていた。

少しずつ正気を取り戻して来て、このままじゃいけないと思って、重い口を開いた。

『私、紗代ちゃんたちが、私が小さい頃に養子縁組をしようとして、一緒に住んでたお祖父ちゃんに、阻止されたって、それで、ここに住めなくなったって聞いて、迷惑かけちゃいけないって…、我慢してた。本当は、紗代ちゃんたちの子になりたかったのに…。

さっき思わず口にしたら、自分の中で帳尻が合う感覚がした。
私にとって、親はずっと沙代ちゃんと和君だったって。そうするのが自然だって思った。

迷惑をかけるかもしれないけど、養子縁組をしたいって紗代ちゃんたちにお願いしたい。

それから、紫紺様の家に入るって決めた。

私が居る場所は、紫紺様の隣だから、そこに居たい。そこで地に足つけて生きていけるようになりたい。根なし草みたいに漂っているような今のままでいたくない。

いつも追い詰められないと何も決められなくてごめんなさい。

私、紫紺様の側に居たい。いていい?』

紫紺様が抱きしめて、
『ああ、いい。いいに決まっている。いてくれないと困る。決めてくれてありがとう。』
と言ってくれた。

胸の中に居ることが、心地良かった。

目的もなくただ、走っている車の中でこれからどうしていくかを、紫紺様と話し合って決めた。

紫紺様の家に入ると決めた途端に、すぐに入って、紫紺様の家や神獣人の社会に、花姫としてしっかり根づきたいと思った。

ずっといつお前は、要らないと見捨てられるか、怯えて生活をしていたんだと思う。

そこに居ていいい。と思って、安心して生活をしたことがない。急激に、自分の立っている足元を確かなものにしたいという気持ちが高まった。

それと、行くことで、お母さんたちが居場所を聞きつけて押しかけたりして、迷惑をかけるんじゃないかと思って、行ってみたいと言えなかった紗代ちゃんの家に行きたいとお願いしてみることにした。

電話でお願いして、養子縁組のことも頼みに行きたいと言ったら、明日、行けることになった。

それからお祖父ちゃんの家に帰って、

お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに、紫紺様の家に入ると決めて、

急だけど、明日、紗代ちゃんたちの家に行って、養子縁組のお願いをしたら、そのまま紫紺様の家に行くことにしたと伝えた。

迷惑をかけると思っているなら、気にすることはない。いたいだけいていいと、お祖父ちゃんたちは言ってくれた。

私がここに居たら、いつまたお母さんたちがくるかわからない。確かに迷惑をかけたくないと思う。

だけど、それよりも、新しい生活に今は、根付きたいという気持ちが強くなった。

そうしているうちに、
安心して遊びに来れる未来も来るかもしれない。今は、そう思えるから、そうしたい。

と言うと、お祖父ちゃんたちは、わかってくれた。