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いつの間にか眠っていだけど、眠るのが遅かったせいか今日は、いつもより遅く目が覚めた。

朝、身支度を済ませて台所へ行ったら、味噌のいい匂いがした。

『お祖母ちゃん、起こしてくれたら良かったのに。』

『あら、おはよう。忍葉。ご飯の用意ができたら、ちゃんと起こすつもりでしたよ。』

『そうじゃなくて。朝ご飯の支度しなきゃ。』

『忍葉は、子どもなんだから、支度しなきゃいけないことはないわよ。
朝、起きたらご飯が出るのが、子どもの醍醐味なんだから。楽しみなさい。』

『…えっ?…子どもの醍醐味?』

『ええ。そうよ。』

お祖父ちゃんの方を見ると、

『お祖母ちゃんは、いいこと言うなぁ。確かにそうだ。
冬なんか寒いだろ?布団から出るのが嫌で、起きても、丸まって布団の中にいると、味噌汁の匂いや焼き魚の匂いがしてきて、
その後、お袋の足音がしてきて、来るぞ。来るぞ。と思って、布団に丸まっていると、

『早く起きなさい。』
ってパーンって、襖開けて、布団引き剥がされて、起こされるんだ。

お袋も旅館の女将をしていたし、兄弟が多かったからな。朝、布団引っ張りあうのが、お袋と遊んでいるみたいで、楽しかったよ。忍葉もやったらいい。楽しいぞ。』
と笑った。

『お祖父ちゃんそんなことしてたの?』

『みんなしてたさ。子どもは、そういうもんだ。無理にとは言わんが、忍葉は夏休みなんだし、ゆっくりしに来たんだから、朝、ゆっくり寝てても、誰も文句は言わんし、こっちが、文句が言いたくなるぐらいのんびりするぐらいが、忍葉には、丁度いいと思うぞ。』

『充分、ゆっくりしてると思うんだけどな。』

『そうか。そうか。良いことだ。さあ、ご飯にしよう。忍葉。』

『うん。』

用意されたご飯を食べながら、確かに、起きて味噌汁の匂いがするのは、幸せな気持ちがしたなと思った。

銚子が済んだ頃、紫紺様が来た。

お祖母ちゃんが、
『片付けはいいから、紫紺様と散歩でもしておいで。』
と言ってくれたので、一緒に散歩をした。

この一週間で色々、覚えた場所を、手を繋いで、一緒に見て歩いた。

楽しくていつの間にか、はしゃいでいた。

『少し元気になったみたいで安心した。顔色もいいし、一段と可愛い。』

不意をつかれて真っ赤になった私の頭を、紫紺様が、可愛いものを見る目をして撫でている。

固まって動けなくはならなくなったけど、ストレートに褒められる?のも、スキンシップにも慣れるにはまだまだ時間がかかりそう。

それに紫紺様には、私がどう見えているんだろう?

『暑くなってきた。そろそろ戻ろう。忍葉。』

『うん。』

毎日、電話で、その日あったことを話していたけど、話したりなくて、話しながら、歩いていた。

紫紺様のスマホが鳴った。

画面を確認すると、
『ちょっと待ってろ。』
と言って電話に出た。

『まだ、声を掛けていないんだな。なら、そのまま、来させて、居ないことを確認させた方がいい。』

『ああ、そうだ。そうしてくれ。
それから、こっちに車を回してくれ。その間、忍葉とドライブする。じゃあ、頼んだ。』

紫紺様は、電話を切ると、

『忍葉、両親が、祖父母の家に向かっているそうだ。追い返したら、いつまた、やって来るかわからないから、そのまま、来させて、祖父母に忍葉は帰った。と言って、両親に中を確認させるように頼んだ。

もう忍葉のスマホにインストールされたGPSアプリは削除したから、確認しようが無いはずだし、来てもいないとわかれば来ることはないだろう。

その間、ドライブしよう。』

『ううん。紫紺様。お祖父ちゃんの家に帰ろう。逃げていても、やって来るんだから、会う。会ってもう関わりたくない。皆んなに迷惑をかけるのは辞めて。って言う。』

『言っても理解するとは思えない。忍葉が傷つくだけになる。賛成できない。』

『確かに、理解しないだろうし、また、来るかもしれない。だけど、言わないままだと、自分の中で、終わらない。

だから、私のためなの。けじめをつけたいから、帰らせて。お願い。紫紺様。』

『…仕方ないな。待ってろ。電話する。』

紫紺様が、帰ることを伝え、先に来たら、待たせて置くよう話をしてくれた。

そのあと、2人で、お祖父ちゃんの家に帰った。