朱雀門 柘榴邸内にある柘榴の個人執務室で、
柘榴は届いたばかりの調査書に目を通し終え、一人、物思いに耽っていた。

ノックの音がした。
『柘榴様、報告に上がりました。』

『千景かえ。入れ。』

『はい。』

『どうじゃったえ。』

『明日、10時に、浅井家に迎えに行き、
昼食を召し上がって頂いた後、
13時半より、2人の姉妹の方が花姫かどうかの確認をさせて頂き、その後、色々、説明をさせて頂く予定で決まりました。』

『話はスムーズに進んだかえ?』

『それが、花姫様に姉妹がいる場合、
まず、最初に、姉妹の方が花姫かどうかを
確認させて頂きます。

と言うと花姫様の母親は、
忍葉という長女の花姫かどうかの確認をかなりしぶりまして…。』

『具体的に何と言っておったえ。』

『はぁ、それが…もう15才だから、花紋が現れることは無いとか…
娘は、見た目を気にして、昔から、花姫になるのは嫌がっているから、行きたがらないだろうとか…
中央区などの都会に着て行く物がない、こんな姿では、恥ずかしいと、今まで出掛けたことがないとか…
そこを無理して出掛けさせようとすると、頭痛や吐吐き気、腹痛などを起こすと…』

『そうかえ。明日、浅井家の親御は、3人の娘を連れて来るか楽しみよの。
もう下がって良いぞ。』

『はい。失礼します。』
と一礼すると、千景は出て行った。

♢♢♢♢♢

『さてと、連絡をしてやるかの。』

と呟くとおもむろに電話を掛け始めた。

『はーい。もしもし。僕だよ♪柘榴ちゃん。何か用?』

『頼まれておった若の桜の姫君が見つかったでの。』

『ワオー。流石、柘榴ちゃん。』

『花姫会の方で、簡単に調べた調査書があるが、見るかえ。』

『嫌。いいよ。紫紺君のお姫様と家族の身元を教えてくれたら、後はこっちで調べるよ。
麒麟一族待望の枝垂れ桜の花姫だからね。
それよりも、柘榴ちゃん。頼みがあるんだ。』

『なんじゃ?』

『僕が預けて置いた2人、紫紺君のお姫様につけてくれないかい?』

『クククククッ。其方は振れぬのう。』

『そうかい?柘榴ちゃんに、褒めて貰えて嬉しいよ。』

『ところで、柘榴ちゃん。紫紺君のお姫様は、幸せそうかい?』

『…思っておったより、酷いの。』

『そうかい。じゃ、柘榴ちゃん、頼んだよ。』

『わかったえ。ほな。切るえ。』


電話を切ると、柘榴は、
『そうかえ。』
と小さく呟いた。

悠然も、あの時、妾と同じ選択をしたようじゃの。

あれでもやはり一族を束ねる麒麟族の長じゃな。

選択は間違っていたとは思わぬが、
やはり後悔するじゃろうな…。

まぁ、あの太々(ふてぶて)しい悠然のことじゃ。後悔をただで置いたりせぬじゃろう。

さてどうなるかの。

悠然との電話を終えた柘榴は、
執務室で一人、そんなことを思っていた。


♢♢♢♢♢


一方、電話を終えた悠然は…


柘榴ちゃんは、相変わらず、せっかちだな。
もう切っちゃったよ。

さてと。

『道元いるかい?』

『はい。』

『この一家調べてくれ。紫紺君のお姫様一家だ。徹底的に調べてくれよ。
それから、このことは、まだ、紫紺君にも、美郷ちゃんにも内緒だよ。』

『畏まりました。』


♢♢♢♢♢

あの柘榴が酷いと言った。
それなりの覚悟が、必要そうだ。
そう思案しながらも、

さて、どんな報告が来るかな。

と普段と変わらない調子の悠然だった。