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食後のティータイムをしている時に、道忠さんが戻って来た。

紫紺様と藍蓮様の顔つきが一瞬、変わった。

『道忠と藍蓮と話しをして来る。ゆっくりしていろ。』
と言うと紫紺様と藍蓮様が立ち上がった。

『…道忠さんは、お母さんたちに、接近禁止令のことを言いに行ったんだよね?』

『ああ。そうだ。』

『私も、お母さんたちがどんな様子だったか?聞きたい。
ずっと知りたくなくて、お母さんや美咲や、お父さんが何を言うか、聞くのを避けていたけど、自分のことだから、ちゃんと聞いて現実を受け止めたい。』

『私も聞きたい。』
と美月が言った。

2人で必死に見つめていると、

『仕方ないな。』
と紫紺様が言った。

『はぁ〜。もっと甘えてくれてもいいんだけどな。2人は自立心が旺盛だね。
まあ、神獣人好みだけど…。』

『食事は済んだから、リビングに行って話そう。あっちの方が寛げる。』

そう言うと、藍蓮様は、立ち上がって、

『さあ、美月ちゃん行こう。』

と言って美月の手を引いて、一緒に先に歩いて行った。

その後を追いながら歩いて行くと、紫紺様が『慌てなくてもいい。』
と言いながら、さりげなく手を繋いできた。

ドキドキしてちゃんと歩けているか心配だった。

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家に帰る紫紺様と藍蓮様を玄関で見送ってから、美月と暫く用意して貰った部屋で色々、話をした。

使用人の方が、お風呂の用意をしてくれたので、美月も部屋に戻って行った。

足が伸ばせるお風呂に浸かりながら、客間じゃなくて、客室、それも、自分の家より遥かに大きいお風呂がついてる客室がある家って…、やっぱり凄い家だとしみじみ思った。

眠ろうと、ふかふかの大きなベッドに横になって、家族のことを考えた。

道忠さんから家族の様子を聞いて、色々、気づいてショックだった。

お母さんは、相変わらず、私が花姫だと認められないらしい。

そうだろうなと思った。落胆は何もなかった。それが哀しくはあったけど…。

中々、理解しない美咲にかなり道忠さんは、現実を突きつけたみたいだった。

話を聞きながら、
よく美咲が黙って聞いたと言えばいいのか、道忠さんは、根気があると言えばいいのか、
迷ってしまった。

何か少し気づいた様子はありましたが、それを咀嚼して行動に移すのは、ハードルの高いことですから、あまり期待しない方がいいです。

と道忠さんは言っていた。シビアだなと思いつつ、そうなんだろうと納得もしていた。

変わるって簡単なことじゃないと実感しつつあるから。

美咲には、美月と同じように、変わって欲しいと思う。

でも、そんなことより、

私は、お母さんにも、美咲にも、お父さんにも、わかって貰おうと思っていなかったから、家を出て関わらなければそれでいいと思っていた。
だけど、それは逃げだったんだと気づいた。

わかって貰おうと思っていなかったのは、無理だから諦めていただけで、
本当の意味で諦めたわけじゃなかった。

美咲が起こしたことと、今日の私や美月への執拗な電話や病院へ押しかけてきたことで、

お母さんや美咲が私に執着している以上、

私が関わりたくなくても、やって来るそれが現実なんだと気づいて、
向き合うしかないことなんだと気づいた。

それでやっと、今になって、
もう何もして来ないと思っていた中には、そうであって欲しいという願望が入っていて、

本当は、何をするかわからない。
と思う私が居たから、
お母さんや美咲と一緒に住んでいた時に、
私が上位の花姫だと言わないで欲しい。
と頼んだんだって。

私に執着しているお母さんや美咲を私は何処かではよくわかっていて、

その現実を直視できなくてそこまでじゃないと思おうとずっとしてきたし、

自分が欠陥品だから、そうされるのは仕方ない、私が悪いからと、
自分のせいにして、

お母さんや美咲を見ようとして来なかったことに気づいた。

ちゃんとどんな人間かを見たら、本当に諦めなければいけないから。

それが恐かったんだと思う。

今も恐いけど、ちゃんとしないと紫紺様との未来を考えられない。

そう思ってやっと向き合う勇気がわいた。

失いたくない、側に居たい、紫紺様の側に居ていいと思える自分でいたい。
と思うことがこんなに勇気が湧くことだと知らなかった。

それに、

ずっと目の色や髪の色、赤いアザを疎まれてきた。

家という小さな社会では、それは当然に虐げられる理由だった。

私も美咲も考えが歪んでいるんだと気づいてきたら、

今まで、それが当たり前だったから、気にならなかったけど、

紫紺様は、嫌うだろうか?

そのことが急に気になってきた。

私はどうしたんだろう?

どんどん変わっていく自分がなんだか恐かった。