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客間に通された道忠は、直ぐ本題に入った。

忍葉様、美月様が希望されましたので、
裁判所にて至急こちらをお取りしました。

そう言って、道忠は、
忍葉と美月に対する母親と美咲の接近禁止令を見せた。

『なんでこんなものを、私は、あの2人の母親なんですよ。』

そう言って紙を破ろうとするのを、父親が制した。

『破っても無効にはなりませんよ。』
と道忠が冷ややかに言った。

『あの道忠さん。私もうお姉ちゃんにも、美月にも関わりません。お母さんも、お父さんも協力してくれるって。

だから、翔に会わせて。』

『貴方も、母親も、今日、誓約書をサインしたんですよ。その日に破る人の約束なんて何の価値もありません。

そんなことより、忍葉様は、母親にも、美咲さんにも番号を教えていないそうですが、どうして知っているんですか?』

『それは…お姉ちゃんの部屋から、着信音が聞こえだから…、携帯を持ってないのになんでだろうと思って…

『勝手に入って中を見たんですね。』

『家族なんだからいいでしょ。』

『その理屈を振り回して、身勝手な行動を繰り返した結果、忍葉様にも、美月様にも、もう関わりたくもないと思われたんですよ。

その制約書まであっさり破って、
もう接近禁止令が出ているんです。

破ればそれなりの罰則が与えられますし、その様な約束する必要がこちらにはありません。

今の現状を招いたのは、自分の行動の結果だということを貴方は理解した方がいい。』

『そんな。翔に会えないなんて、耐えられない。お願いだから会わせて。
もう絶対に、お姉ちゃんに酷いことをしないから。お願い。お願いします。』

必死に訴える美咲を冷ややかな目で見下ろしながら、

『そこまで会えなくなることが、辛いと今になって訴えるなら、何であんな愚かな真似をしたんです?』

『そんなのお姉ちゃんが悪いからに決まっているじゃない‼︎』

『忍葉様の何が悪いのですか?』

『何言ってるの!

お姉ちゃんは、欠陥品なのよ‼︎
欠陥品のお姉ちゃんが花姫なんて言われてチヤホヤされてるから勘違いしない様に、立場を教えてあげたのよ。それの何が悪いの?』

『救いが無い程、愚かで、可哀想な人だ。』

『なんで私が愚かで可哀想なのよ‼︎』

『他ならぬ自分のお腹を痛めて生んだ自分の娘の見た目が人と少々違うからって、欠陥品呼ばわりするような愚かな母親に、

姉を虐げることを教わり、分別も教えられず、我儘放題に育った貴方は可哀想でしょ。

『何を言っているの?母親の私を、

『もう黙ってろ。晶子。
美咲を翔様に会わせたいんだろ。』

『それはそうですけど、こんな酷いこと…

『いいから黙っていろ。もう2度と会えなくなるぞ。』

『お母さん、お願いだから黙ってて。』
と目の色を変えて訴える美咲を見て母親はやっと渋々、黙った。

『普通は、貴方くらいの歳になれば、
美月様のように母親の愚かさに気づいて、変わろうとなさいますが、
貴方は何でも、姉の忍葉様のせいになさってご自分で何にも考えていらっしゃらない。

欠陥品のお姉ちゃんという姉の見方を、
母親に教わったまま、
自分で、本当にそうか?
今まで考えもしてこなかったんでしょう。

そして、欠陥品の姉と決めつけて、
常に、下に見ていた姉が
自分と同じ立場かそれ以上になるかもしれないことが気に入らないというくだらないことの為に、

自分の最も大切にすべき花王子の翔様を、騙して巻き込みになった。

愚かとしか言いようがありません。』

『…そんなこと…ない‼︎

『お姉ちゃんは、欠陥品じゃない。
目や髪の色だって、あんなアザがあんなに一杯あって、花姫、花姫って言うけど、花紋だってでないじゃない。』

『本当に重症ですね。

普通の人は、ご存知ありませんが、

忍葉様のように、神獣人のような目と髪を持つ人間の女性は、生まれつき、神獣人のように霊獣や精霊、妖精の類が見え、神気を感じ取ります。

そういった方は、400年近い花姫の歴史の中には稀にいらっしいます。
そして上位の花王子の花姫になっています。

それに、花姫は、母親の母体にいる時に、母親の精神状態が不安定だった場合、

原因はまだ解明されていないそうですが、
身体に赤いアザを持ったり、色素が異常に少なく生まれてくることがあるんだそうです。

その場合、花紋が現れることに心理的な抵抗を起こし、現れないこともあるそうですが、

花紋が現れれば、アザは綺麗になくなり、色素の量も正常になるそうです。

忍葉様のアザは消えつつありますし、目や髪の色も濃くなってきて、元々、お綺麗な方ですが見違えるほど、変わられましたよ。

何度も言いましたが、もうじき花紋は、必ず現れます。

お分かりになりましたか?

欠陥品どころか、忍葉様は、生まれた時から、麒麟の次期当主、紫紺様の花姫です。

美咲さんが、欠陥品と思っているのは、母親の考えの浅はかな受け売りです。』

『…そんなお姉ちゃんがそんなはず…』

『そうよ。あの子がそんな生まれた時から、上位の花姫だったなんて。そんなの…じゃあ、一体、今までなんだったの…。』

『もうこの話は宜しいでしょうか?』

『待って。翔は、翔に会わせてくれるんじゃないの?』

『美咲さんは、先程から、何か勘違いなさっていませんか?

翔様が美咲さんに連絡しないのは、翔様の意志ですよ。もうことが明らかに

『翔の意思‼︎そんなことあるわけない。私は、翔の花姫なのよ。私が会いたがっているのを感じているはずなんだから、翔は私に、今すぐにでも会いたいはずよ。』

『まあ、花王子の本能としては、そうかもしれませんね。
私は、花王子ではありませんからわかりませんが…。

先程、言い掛けましたが、もうことが明らかになっていますから、誰も翔様に美咲さんに会うなと言っていませんよ。

神獣人は、子をしっかり自立するよう育てる傾向があります。

しっかりご自分で考え、美咲様と話し気持ちにケリをつける時間を奪うような真似、誰もしません。

ですから、連絡がないなら、それは翔様の意志としかいいようがありません。』

『そんなわけあるはずない‼︎絶対、誰かが翔が私に会いに来るのを邪魔しているのよ。』

『美咲さんはご自分が翔様に何をしたか?
全くわかっていらっしゃいませんね。

貴方が話したこと嘘ばかりじゃないですか?
その上、昨日、
忍葉様を花姫から引きづり落とす為に、翔様を利用したんですよ。

場合が違っていれば、千虎家にも、翔様にも、処罰があったかもしれないんですよ。

花紋を通して花姫を感じる分、
その全てが嘘の上だったと知ったら、
私なら、会いたいとは思いませんね。

喜びも悲しみも感じているのは、本当だとわかっても、話していることが本当かどうか?全てを疑ってしまいますから。
恐くて会えませんよ。』

『翔は私のことが大事なのよ。凄く大切にしてくれてる。だから、絶対に、私のことを許してくれる。』

道忠は、はぁ〜と大きな溜息を吐いて、気を取り直して、また、話し始めた。

『貴方がもし、翔様に同じことをされたら許せますか?』

『翔が私を裏切るようなことをするはずがないでしょ。』

『考えるまでもなく、
翔様がするはずないと言ったことを

翔様の花姫の貴方は、自分の花王子にやったんですよ。』

ハッとした顔を美咲がした。

やれやれと思いながら、

『やっと少しご自分がなさったことの愚かさがわかったようですね。

忍葉様が、仰ってましたよ。

下に見ている自分如きの立場をわからせるなんていうくだらないことのために、

どうして一番大切にするべき翔様を騙すようなことをしたのかわからないって。

昨日みたいな愚かなことをしたら、自分の大切な相手を傷つけるって、小学生だってわかりますよ。
だから、普通、やろうとすら思いません。
これは私の意見ですがね。

何度言っても、美咲様が理解されないので、
美咲がわからさ過ぎて恐いと仰ってました。

私も同じ意見です。

美咲さんは、ご自分だけが特別だと思うあまり、周りの人にも感情や考えがあることに、
全く目がいっていらっしゃいません。

人の気持ちを全く考えない、今の貴方は恐いです。

翔様も同じように思っていらっしゃると私は、思いますよ。

今、お会いになって、
翔様に、当然のことのように許してくれるでょ。と仰って復縁を迫るおつもりですか?

それとも、また、泣き落とししますか?

襲われてもいないのに、さも酷い目に遭ったかのように泣いて見せたそうですね。
もうそんな小手先通用しませんよ。

どちらも翔様をまた、傷つけ落胆させるだけです。

私は、そのようなことに加担したくはありません。

それにもう一つ勘違いしているようですが、
美咲さんがお会いして仮に翔様がお許しになっても、千虎家の決定も、黄竜門家当主の命も覆りませんよ。』

美咲は、蒼白になって座り込んでいた。

『どうしてそんなに酷いことを言うの…。』
と力なく呟いた。

『忍葉の花王子の秘書の言うことなんか聞くことないわ。貴方は、翔君の花姫なんだから。絶対に会いに来るわよ。

翔君に会わせる気も無いのに、酷いことばかり言って美咲を追い詰めるのは、もう辞めて下さい。』

『私は、ご理解されていないことをご指摘しただけです。

翔様が会いに来られても、復縁はあり得ません。気休めを言っても、美咲さんのためになりません。

美咲さんや母親が、美月様や忍葉様に、執拗に電話をかけまくり、病院にまで押しかけたことは、千虎家には、すぐ伝わります。

それがどういうことかわかりますか?美咲さん。』

『えっ?どういうことって?』

やっと、
「それがどうしたのよ‼︎」
と言わなくなったなと思いながら、

『美咲様は、千虎家に行いを改め、花姫の教育を受けるとおっしゃって千虎家に入ることが決まったんですよ。

それも、行いを改めたことを見て欲しいからと言って翔様を夕食に招いた。
そこであんなことをやらかしたんです。

その挙句、

厳しい沙汰が出て、もうお2人に会わないと誓約書を書いた日に、気持ちがいいほど、あっさり破ったんですよ。

今の美咲さんの言葉を誰が信じますか?

美月様、忍葉様が、美咲さんにお会いしたくない理由は、
貴方の身勝手極まりない行いが原因です。

貴方が忍葉様を虐げていた理由と違い正当性しかありません。

それを簡単に破っていては話になりません。

美咲さんと母親、晶子さんには、
裁判所から忍葉様、美月様の接近禁止令が出ています。

私はそれをお伝えに上がっただけです。

お守りにならなければ、そちらの立場が悪くなっていくだけです。

ご理解下さい。

美咲さんに私が言えるのは、
翔様に会うためではなく、

ご自身が蒔いた種で出た接近禁止令です。

なぜそうなったか?しっかり理解して、
ご自身のために、

当たり前に、
自分のしたことの責任をとって、
接近禁止令をしっかり守る
ということをして下さい。

我儘を受け入れられる環境で、やりたい放題してきた結果が、今の美咲様です。

誰もが守っているルールを当たり前に守ることをできない限り、翔様だけじゃない、社会で相手にされませんよ。