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スマホの音量を調整して、音が鳴らないようにはできたけど、コールが来る度に、バイブ音がする。

道忠さんにスマホの電源の切り方を教えて貰わなかったことを後悔している時に、

お祖父ちゃんたちを送りに行った紫紺様が、道忠さんと戻って来た。

すぐに、スマホのバイブ音に気づいたみたいで、2人とも、怪訝な顔をした。

『誰からだ。』
と紫紺様が訊いた言葉に自分でも、思い掛けないほど、身体がビクリとした。

『脅かしてすまない。恐がらなくていい。スマホに出ないのはどうしてだ?』
と優しく訊く声を聞いて、少し安心して、

『美咲から電話があって…、登録していない番号だけど、何度も掛かるから、間違って掛けてるのかと思って、出ちゃって…。

おずおずと話し出したけど、そこでどう話していいかわからなくなってしまった。

『何て言ってましたか?忍葉様。』

『私のせいで花姫じゃなくなったから…なんとかしろって…それで翔様にも会えなくなったのも私のせいだって言うから、

本気でそんなことを言っているの‼︎って。

大事な翔様をなんで私なんかの立場をわからせるために、騙したの‼︎
って言ったの。

それでも美咲、私のせいだって…、
欠陥品の私が花姫になったからだって。

私、美咲は、可哀想だし、心が無くて恐いって言って切っちゃった…、
だからずっと掛けてきてるんだと思う。

あの子の頭はどうなっているの?
私に何であんなに執着するの?

理解できなくて…、美咲が恐い。』

紫紺様と道忠さんは、何かアイコンタクトをすると、

『スマホを貸して頂けますか?
不快でしょう。着信が来ないようにします。』

その言葉にホッとして、
『お願いします。』
とスマホを渡すと、

『美咲と母親両方から着信がありますね。』
と言いながら、道忠さんは、手慣れた手つきで操作を始めた。

『番号を教えましたか?』

『えっ?…教えていない。教えるつもりがなかったし、あの日…スマホを渡された日、それどころじゃなかった…、なんで知ってるの…?』

『勝手に見たんでしょうね。何処に置いていたんですか?』

『自分の部屋の机の上。…あの子…勝手に部屋へ入るから…』

『その時に見つけたんでしょうね…。』

『美月のところにも、病院に来る前に、母親から、電話があったそうだ。』

『美月、そんなことは何も。』

『楽しい時間に水を刺すような話はしたくなかったらしい。』

『その後、病院に母親と美咲が押し掛けてきて、警備の者が追い払ったそうだ。
それで、今度は忍葉に電話してきたんだろう。』

2人の想像を超える行動にもう言葉も出なかった…。

『……あっ‼︎接近禁止令、もうそこまでしなくてもって思って…。すぐするように私が頼んでいたら、みんなに迷惑を掛けずに済んだのに…、ごめんなさい。』

『忍葉がわるいわけじゃない。あの分だと、
接近禁止令を取ったところで、連絡してくるだろうし…。』

『それじゃずっとこのまま…。』

『大丈夫です。もう、忍葉様と連絡はつきませんし、忍葉様に近寄らせません。

連絡できない。近寄れない。とわかれば向こうも大人しくなります。』

…本当にそうだろうか?

『それより忍葉、退院して美月のいる柘榴様の家に行かないか?柘榴様には、頼んである。あの方は、懐が深いからな心配要らない。少々、意地が悪いが…。』

『えっ?意地が悪いって…。』

『柘榴様、紫紺様に、
「其方の花姫が居たいだけ預かるで心配せんで良いえ。」
って言って、揶揄ってましたから。』

そんなことを急に暴露されて何と答えていいかわからず、
『……そ、そうなんです…ね。』
と言った。

『美月のところに行く。柘榴様にお世話になる。』

『そうか。』

凄くホッとした紫紺様の顔を見て、あんまり心配を掛けないようにしようと思った。

『すぐ用意した方がいいよね。着替えて来る。』

『ちょっと待って。櫻葉を呼んできます。今、忍葉様を一人には、出来ません。』

『少しくらい大丈夫よ。警備の人が居るんだろうし、櫻葉さんだって女性でしょ。』

『霊力を使える神獣人の女性と人間の女性を同じ土俵で考えちゃダメです。

それに、彼女の場合、霊力を使わなくても、その辺の男性より強いですから。』

『えっ‼︎まさか、あんなに可憐なのに。』

『櫻葉は、武術が趣味なんです。
めちゃくちゃ強いです。
空手、テコンドー、キックボクシング、合気道に、古武術なんでも手を出してますからね。』

そう言われても…キリッとした龍咲さんなら、まだ、想像できるけど、櫻葉さんは、華奢でふんわりと可憐な感じが漂う女性らしいイメージしか無かったから、まさかとしか思えなくて、

『人は見かけによらないんですね。』
と思わず言っていた。

すぐに櫻葉さんが来て、着替えを済ませている間に、退院の手続きを紫紺様たちがしてくれ、お世話になった神蛇先生に挨拶もできぬまま、病院を後にした。