『それから、親権や養育権に関することを、忍葉の気持ちに合うように整理しないか?』

『どういうこと?』

『忍葉にとっての親は、三枝夫妻じゃないのか?法的に実親である両親が、親として、親権や養育権を持っていることで、
生活の様々な面で気持ちとのズレが起きるだろう?

これから何年、何十年と経っていけば、状況は変わる。
だけど、今、無理があるなら、忍葉がしっくりくるように変えたらどうかと思う。

ずっと親に合わせてきただろう。

もうそんなことをする必要はないのだから、それを法的に形としてハッキリさせてもいいんじゃないか?

親権や養育権に関することは、色々、選択の幅がある。三枝夫妻の養子になることも一つの考えだ。

忍葉が、その気になったら、どういうことができるかを道忠に説明させる。
道忠は、弁護士の資格を持っている。その辺の法には詳しいし、手続きもできる。』

これはそれほど急がないから、ゆっくり考えてくれ。』

『……わかった。』

『疲れただろう。少し休め。』

『ううん。大丈夫。それより…、こんな大きな事態になるなんて…、思わなかった。
ずっと美咲や家族がどうなるか、聞くのが恐かった…。

なんで美咲は、あんなことをしたんだろう?


…私、許せなかったのが…、
自分を傷つけることをしたことより、
美咲が、翔様を傷つけることをしたことだった…。

翔様は、美咲にとって、一番大事にする相手でしょう?

美咲は、欠陥品の私の立場をわからせるためにこんなことをしたって言ってた。

そんなくだらないことのために?
って、言ったら、美咲、凄く怒ってた‼︎

なんでそこで怒るのかわからない。

美咲はずっとお母さんがしてきたように、私を下に見てきた。

そんな私如きを蹴落とすために、自分にとって大事な相手を傷つけるなんて馬鹿げてる。

なんで美咲は、そんなことがわからないかが、私にはわからない。

それに……私、気づいたの。

私と美咲は方向は逆かもしれないけど、凄くズレてるって。

私は、酷いことをされることが当たり前だと思ってたし、その上で、責められたり怒られたりすることも当たり前だった。

今回のことも、扉がバンって閉まって、一人部屋に取り残された時、

誰も信じてくれるなんて思いもしなかった。

花姫に害をなしていないのに、
神獣人の社会にとって、
私は、花姫に害をなした人間になる。

私じゃない私に、飲み込まれて、
自分がもう無くなってしまいそうだった。

せめてここには居たくない、離れたい。
家に帰りたい。温かだった所へ行きたい。
って思ったの。

ずっと、ずっと家からあまり出して貰えなかった。それは私の見た目のせいだと思ってた。
それが虐げられてることだと気づいてもいなかった…、

酷いことを言われるのが当たり前だったから、優しくされるのが恐いんだと思う。

私は、酷い目に遭って当たり前と思っていて、美咲は、何でも自分の思い通りになると思っている。

どっちも凄くズレているんだって…。

どうしたらいいの?私。
今から変われる?
こんなに偏っているのに…。』

紫紺様が、また、ガバッと、私をすっぽり包むように抱きしめた。

『大丈夫。忍葉が望むなら、変われる。俺がこれからはずっと側に居る。

忍葉が自分を好きだと思うまで、いつまででも、付き合う。もう一人じゃない。』
って言うのが聞こえた。

そのまま、抱きしめられて頭を撫でられていたら、涙が出てきて…堪えようと思っても、堪えられなくて、ダムが崩壊したみたいに抱きしめられたまま泣いた。

腕の中は、暖かかくて、ずっと欲しくて、何処にもなかった温もり…、こんなところにあったのかと思った。

不思議だった。

涙なんかずっと、ずっと出なかったのに…。

泣きながら、私はどうしてしまったのだろうと思っていた。