ノックの音がした。
『忍葉様、先生をお連れしました。入って宜しいでしょうか?』

『どうぞ。』

神蛇先生たちと一緒に、紫紺様も、入って来て、私の近くの椅子に座ると、

顔を覗き込むようにして
『変わりないか?』
と聞いた。

一気に頬が熱くなった。

『変わりないです。』
とぶっきらぼうに言うと、
『そうか。良かった。』
と優しい笑みを浮かべて、頭を撫でた。

どうしていいか分からず、固まっていると、

『紫紺君、忍葉ちゃんが固まってるからね。』

『あっ、すまない。どんな顔や仕草を見ても可愛くて、つい…。』

???…紫紺様は真顔で何を言っているんだろう…

『わかるよ。凄いわかる。僕も美月ちゃんが何をしてても、凄く可愛いよ。』

えっ‼︎そこを同調するんだ…

『はあ〜、花姫に会った花王子はコレだから困ったもんだ。2人もいると暑苦しいね。
大丈夫かい?忍葉君。』

『は、はい。なんとか…。』

何かツボに入ったのか?クスっと笑うてから、
『そうかい。なら少し話しをしていいかい?』

『検査の結果は何にもなかったよ。
櫻葉から聞いたけど、アザが薄くなったり、目や髪の色が濃くなったそうだね。

確かに、そのようだね。

さっき忍葉君が話していた時に起きたことや、花王子の紫紺君との様子を見ても、感じていたけど、身体にも変化が現れてきたなら、きっと数日中に、花紋は現れるよ。』

『ヤッター。良かった〜。』
と美月が喜ぶ声が聞こえた。

『そうですか…。』

『花紋が現れることに、抵抗はなくなったみたいだね。前ならそんなはずない‼︎
って言ってただろうから…ね。
本当に良かったよ。』

恥ずかしさと、申し訳なさで一杯になりながら、
『色々、迷惑…心配をかけてごめんなさい。』
と言うと、

『そんなことはいいんだよ。もう、済んだことだし…ね。』

『話はそれだけだよ。今日は、もう休んだ方が良いからね。美月君も、紫紺君も、早く帰ってあげてね。』

そういうと先生は、病室を出て行った。

『美月ちゃん、僕たちも、そろそろ帰ろうか。』

『うん。お姉ちゃん、明日の朝、来るからね。』

『ありがとう。無理しないでね。美月も、ゆっくり休んで。』

『大丈夫。美月ちゃんのことは、僕に任せて。』

『はい。美月をお願いします。』

『じゃ、紫紺様。お姉ちゃんを、お願いします。』
そう言って、美月は、藍蓮様と出ていった。

日に日に、2人の仲が良くなっていくなぁと、2人の後ろ姿を見ながら思っていた。

『どうかしたか?忍葉。』

『ううん。…美月と藍蓮様、日に日に仲が良くなっているなぁと思ってただけ…。』

『そうか…。』

『あっ、紫紺様は、食事、ちゃんとしましたか?』

『ああ、心配ない。済ませたよ。』

『ホント?』

『ああ、本当だ。心配ない。』

『良かった。』

紫紺様が、頬を愛しげに撫でながら、

『今日は、疲れただろう?もう休め。』
そう言うと、頭を撫でから、

立ち上がって、
『朝、来る。』

そう言って出て行った。

紫紺様が出ていった扉を暫く、ぼうっと見ていた。

我に返って、紫紺様…、藍蓮様もか…、花王子は、みんなあんなに、スキンシップ過多なのかな…ボンヤリとそんなことを思っていると、

『忍葉様。』
と声を掛けられて、ハッとした。

紫紺様の自分への過剰なスキンシップを、今日、ずっと、色々人に、見られていたんだと今になって気づいて、頬が赤くなるのを感じた。

『忍葉様、宜しいですか?』

『はい。』

『私も、今日は、これで失礼しますが、大丈夫でしょうか?』

ずっと静かに丸まっていたポチが、顔をあげると、
『わしがついておる。安心して帰るといいぞ。』
と言った。

『そうですか。狛犬様、忍葉様を宜しくお願いしますね。』

『では、忍葉様、ゆっくりおやすみ下さい。』

『はい。今日は、ありがとうございました。櫻葉さんも、ゆっくり休んで下さいね。』

櫻葉さんが出て行ってから、
神獣人と狛犬の上下関係について考えてしまった…。

櫻葉さんの対応的に、ポチの方が上っぽいけど、ポチ偉そうだし…、

アレ、私、小さい頃、ポチのこと皆んなに見えないおじいちゃんワンちゃんだと思ってた気がする…

良かったのかな…、

ポチが、チラッとこっちを見て、
『花姫よ。今日は、考えごとをせんと早く寝ろ。』
と言った。

疲れていたせいか?そうだな、今日は、寝ようと素直に思って

『お休み、ポチ。』
というと目を閉じた。

すぐに私は、深い眠りについた。