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食事を済ますと、

櫻葉さんが、

『忍葉様、花姫会に連絡が入った時、火傷をして、お召し物もボロボロだと伺ったので、お召し物を用意するよう頼んでおきました。
サニタリールームにあるかと思います。お着替えになったら如何ですか?』
と言った。

そう言われて、初めて自分の格好に意識が向いた。ハッとして自分の姿を見て驚いた。

『えっ‼︎検査着みたいのを着てる。色々、あり過ぎて気づかなかった。』

この姿で紫紺様と話していたのかと思ったら、急に恥ずかしくなった。

あっ、それに抱きしめられたんだった…、
思い出すと、さっき感じていた、戸惑いも戻ってきた。

ど、どうしよう…

『どうかしましたか?忍葉様。
きっと美月様たちも、戻って来られますから、今のうちに、お着替えになると宜しいかと思いますが…。』

『あっ、そう、そうですね。着替えて来ます。』

サニタリールームに入るとすぐ、用意された着替えが目に入った。

この間も思ったけど、この病室は、やっぱり高級過ぎるなと思った。

それに、私の扱いが手厚過ぎるし…、

自分の世話も、家族の世話もするのが当たり前だったのに、

今じゃ、気づく前に、何もかもが用意されて、どうぞ、どうぞと促され、物事が進んでいく。

ベルトコンベアに乗せられて運ばれていっているみたいだと思った。

相変わらず、慣れないけれど、

ほんの数日前、感じていた黄竜門家という大きな存在に飲み込まれてしまうような息苦しさは消え、

ほのかな安心を感じていることに気がついた。

急激な気持ちの変化に忍葉は戸惑いながら、着替えをしている時に、アザが薄くなっていることに気がついた。

慌てて、鏡で、胸のアザを確認する。

消えてはいないが、やっぱり薄くなっている。

よく見れば、髪や目の色素も若干、濃くなったように見える。

全体的な色の薄さから、儚げな、淡い印象だったはずの自分の姿が、ほんの少し表情や存在をはっきりとさせたように見えた。

えっ?、ええっ‼︎、どういうこと?……

……あっ‼︎そう言えば、神蛇先生が、花紋が現れたら、アザが消えて、色素も正常な濃さになるって言ってた…

ああ、あの時、花姫なんて全く思えなかったから、他人事のように聞いてた…、

こんな容姿が変わっていくようなことが自分に起きるなんて思いもしなかったから…。

えっ、花紋なかったよね。
確か私の場合は、胸に現れるって…、

恐る恐る、もう一度鏡を見て確かめる。

やっぱり無い…、

その時、がっかりしている自分に気づいた。

あっ、あれ???私、花姫になるの恐くない、嫌じゃないかも…、

そう言えばさっき…、私…
このまま紫紺様の花姫になって大丈夫なのかって思ってた…

私、何か大きく心が変わってる…、
そう気づくと忍葉は、急に、ジタバタしても仕方がないんだと冷静になった。

落ち着きを取り戻し、着替えを済ませてベッドに戻った。

この数日で、自分が何かを言うと周りが波紋を広げるように反応して対応することを感じていた忍葉は、

自分に起きつつある変化を言うべきか、もう少し様子を見るべきかで、逡巡してから、

『櫻葉さんちょっと、いいですか?』
と声を掛けた。

『どうかなさいましたか?忍葉様。』

『えっと…。私の見た目が…、変わってきていると思うんですが…、
アザも、薄くなって、目や髪の色も、濃く…

『あー、それでですね。忍葉様が目を覚まして、お話になられている時から、何か印象が変わった気がして、気になっておりました。

目と髪のお色を、言われて気づきました。
確かに濃くなっていますね。』

少し躊躇いがちに、
『忍葉様、花紋は現れましたでしょうか?』
と櫻葉さんが聞いた。

『いえ、まだです。』

『さようですか…。でも、現れてもおかしくなさそうな感じが致します…、
後で、先生に報告させて頂いて宜しいですか?』

『はい。今、行ってきて貰って構いません。』

ノックの音がして、
『お姉ちゃん、入っていい?』

『うん。どうぞ。』

美月と一緒に、藍蓮様も戻ってきた。

美月は、私の顔を見るとすぐ、
『紫紺様は?』
と聞いた。

『紫紺様は、何処かに行ったよ。
私が食事をする時だったから、気を使って席を外してくれたんじゃないかな?

そう言えば…、紫紺様は、食事をとったのかな?』

『2人のラブラブの姿が見れるかと期待してたのに…。残念。』
と言って美月がニコニコしている。

急に、思い掛けない角度の言葉を言われて、
『ラブラブってそんな…』
と慌てて否定していると、

『藍蓮様、私、少し離れますので、こちらに居ていただけますか?』

『ああ、いいよ。』

『すぐ戻りますので…。』
そう言って、櫻葉さんが出て行った。

『櫻葉は何処に行ったの?』

『多分、神蛇先生のところ。』

『何かあったの?』

美月の表情が不安気に曇った。

『心配することじゃないと思う…、
えっと、アザがね、薄くなったり、目や髪の色が濃くなった気がしたから…』

2人の視線が、自分に向くのを感じた。

それから、美月が弾けたように、
『花紋は‼︎』
と訊いた。

『ううん。現れてないよ。』

『そっか〜。でも、花紋もうすぐ現れる気がする。』

『病室に入った時、忍葉ちゃんの印象が何か変わったなと思ったけど、
着替えたからかと思ってたよ。
言われてみれば、そうだね。
目と髪の色が濃くなってたからだね。』

『あ、本当だ。お姉ちゃん、着替えたんだね。』

『うん。櫻葉さんが、着ていた服がボロポロだったから、着替えを用意しておいてくれたみたい。』

『ホント花姫会は、花姫に手厚いね。』

『紫紺君の花姫だからね。余計だよね。』

藍蓮様の言葉に、やっぱりそうなんだ…、これから大丈夫かな、暫く悩みそうだなと思っていると、

『忍葉ちゃん、ご飯しっかり食べた?』
と聞かれ、現実に引き戻された。

『はい。食べました。藍蓮様たちは?
あっ、そう言えば、食事中に、病院に来てくれたんですよね。ごめんなさい。』

『いいよ。そんなの気にしないで。僕たちも、美味しいもの食べてきたからね。
美月ちゃん。』

『そうそう。ケーキも置いてあるお店でね、食後に、ケーキも食べちゃった。
種類も一杯あったし、どれも美味しそうだった。今度、お姉ちゃんも、一緒に行こっ。』

『あっ、花姫会館のレストランで食事していた時は、今だけって思っていたけど、家を出たら、……もう、そういうことをしてもいいのか…。』

『そうだよ、お姉ちゃん。食事だって、出掛けることも、着る服も、もう自由にしていいんだよ。』

『えっ‼︎そんなにっ。』

『そんなに‼︎じゃないでしょ。普通なんだよ。そっちの方が。』

『???…………。』

『忍葉ちゃんには、ちょっとリハビリがいるよね。大丈夫だよ。すぐ慣れる。』

慣れるだろうか…、