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落ち着いた雰囲気のリビングで、紗代子は、夫、和彦とTVを観ながら寛いで会話を楽しんでいた。

急に、リビングのサッシが音もなく、開いた。

夏の生暖かい風が入ってきたと思ったら、
目の前に、癖の強い長い金色の毛をした大きな生き物が入って来た。

『し、獅子っ』
と叫んで腰を抜かさんばかりに驚いている和彦と、同じ様に驚きながら、
『ポチ?』と呟く紗代子の目の前の床に、

大きな生き物の背に乗っていた何かが、ゆっくりと降りてきた。

『し、忍葉ちゃん。忍葉ちゃんよ。貴方。』

『えっ。あっ。ホントだ。』

『花姫が、お前たちを想い浮かべて、家に帰りたいと強く願ったから、連れて来た。』

床に寝そべる忍葉を2人が覗き込んだ。

『大変。火傷している。救急車、貴方、救急車呼んで。』

和彦が慌てて電話を掛け始める。

『火傷はしているが、気を失っているだけだ。救急車が来たら、花姫を桜坂総合病院に連れて行け。』

『貴方、ポチ?』

『そうだ。』

『忍葉ちゃんに何があったの?』

『説明している暇はない。わしは行くところがある。』

そう言うと、宙を駆けるように消えて行った。

電話を終えた和彦が、忍葉の様子を見ている紗代子に

『紗代子。忍葉ちゃんに何があったの?あの獅子、何?何処へ行ったの?ポチって?』
と混乱した様子で、問いかける。

『貴方、落ち着いて。救急車が来たら、忍葉ちゃんを桜坂総合病院に連れて行けって。
何処かへ行かなきゃ行けないから何があったか話す暇はないって。』

『全然、わからないな。とにかく、
桜坂総合病院に連れて行くしかないね。』

少し気持ちが落ち着いたのか、

『なあ、紗代子、さっき、獅子を見て、ポチって言って無かったか?』

『獅子じゃないわ。松山神社の狛犬様よ。』

『松山神社って、忍葉ちゃんのお祖父さんの家の側にある?』

『ええ。忍葉ちゃん。狛犬とか、精霊とか、霊獣が見える子だった。
よくポチ、ポチって話しをしてくれた。
私には、見えたこと無かったけど…。

クリックリの長い金色の毛でね、獅子みたいなお顔をしているんだよ。』
って忍葉ちゃん、言ってたわ。

救急車のサイレンが聞こえてきた。

『中に案内するから、忍葉ちゃんについてて。』

『ええ。』

忍葉と一緒に、和彦、紗代子夫妻が救急車に乗り桜坂総合病院に向かった。

途中で、紗代子がハッと気づく。

『貴方、紫紺様と忍葉ちゃんのお祖父ちゃん達に、連絡した方がいいわよね。』

『あー、そうだな。』

紗代子が、救急隊員にスマホを使って良いか聞いて、電話をかけ始めた。

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その頃、美月と藍蓮と夕食中だった柘榴の元に、花姫会から連絡が入った。

電話を終えると、

『忍葉が、美咲のプレゼントした服を引き裂いて、美咲に襲い掛かったそうじゃ。』

『えっ‼︎お姉ちゃんがそんなことするわけない。』

『そうじゃろな。』

その言葉に、美月と藍蓮が顔を見合わせた。

『行こう。美月ちゃん。ごめん。母さん。今度、また、ゆっくりご飯食べよう。』

そう言うと、美月の手を引いて車に向かった。

『忙しない子よの。』

美咲は、愚かなことをしたみたいなだな。あのまま、千虎家に入れば、花姫でいられたものを。

『ほんに、人間とは愚かな生き物よのう。』

柘榴は、一人呟いた。

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一方、美月の家に向かう車の中で、藍蓮のスマホが鳴った。

『ちょっと待っててね。』
と電話に出た藍蓮の表情が強張った。

電話を終えると、

『神蛇先生が、今、救急車で、忍葉ちゃんが、桜坂総合病院へ向かっているって。』

『何で病院?お姉ちゃんに何があったの?』

三枝(さえぐさ)という夫妻が、忍葉ちゃんが火傷して気を失っていると救急車を呼んだらしいんだ。

今、そのご夫婦も、忍葉ちゃんと一緒に、病院に向かってるそうだから、桜坂総合病院に行こう。』

美月は、藍蓮様の話しがどういうことか全く分からず、不安そうな顔を浮かべながら、

『うん。』
とだけ返事をした。

『きっと大丈夫だからね。』

そう言って藍蓮は、震えて蒼白になっている美月を抱き寄せた。

抱き寄せられて、少し、落ち着いた美月が、
『うん。そうだよね。』
と心もとなげに呟いた。