♢♢♢♢♢

いつものようにシャワーを済ませて、飲み物を持って自分の部屋に戻って来た。

家に帰ってからずっと、今までが嘘みたいに、誰も嫌味を言うこともなく、喧嘩がおきることもなく、家の中は何も起きず静かだった。でも、よそよそしくて、不気味な感じだった。

美月や藍蓮様や龍咲さんと居る時のようなたわいのない会話を楽しむ空気は全くなかった。

それがこの家なんだなと思った。

美咲は、帰るとすぐ、千景さんから、話を聞いたか?と聞いてきた。

聞いたと答えると、
『料理は明日、お母さんと買ってくるけど、
スープとドリアを作りたいから手伝って欲しい。』
と頼まれた。ドリアは、翔様の好きな料理なんだと言っていた。

『美咲は、大変だったのだから、翔君と上手くいくように協力してあげなさい。
忍葉は、姉なんだからね。』
とお母さんは言っていた。

協力することは構わないけど、朝、同様、お母さんの言葉にはモヤッとする気持ちがした。

美咲は、朝もそうだったけど、夕食後も、後片付けを手伝ってくれた。

花姫になったんだから、家事なんかしてはいけないと言っていたはずのお母さんは嬉しそうにしていたし、お父さんは満足気だった。

反比例するみたいに、
夕飯が済む頃には、今までが何事も無かった様に過ごすお母さんとお父さんへの違和感が、私の中で、違和感から、不快感や不信感に変わっていた。

美咲が問題になった行動は、そもそもお母さんが、そう育てたからだと思うし、
お父さんも、そんなお母さんと美月に何も言わなかったのに、お母さんたちは、親の責任みたいな言葉は一度も口にしなかった。

それなのに、私には、姉なんだから、美咲に協力するのよとか、寮に行っても、休みには家に帰って、家の手伝いをするのよとか、子の義務は言う。

お父さんは、相変わらず、そうだぞ。しか言わないし…

それが当たり前だったから、親や子は、こういうものだと思い込んでいたけど、急に疑問がふつふつとわいてきた。

美月のお母さんたちは、変わらないって言葉は、こういうことを言ってだんだろうなと思った。

親のことには、もう家を出るという今になって、モヤモヤが大きく脹れ上がってきたけれど、

寮に住むことが具体的になったことで、考えたくなくて心の奥に押し込めていた花姫になる抵抗について、寮に住み始めたら向き合って見ようという気になった。

花王子だと言った紫紺様を帰らせてしまったことがショックだった。

あの寂しそうな背中が忘れられないし、
神獣人一族を束ねる黄竜門家の存在は、大き過ぎて無視しようがない。

自分が花姫になろうと思う日が来るとは、全く思えないけど、
ちゃんと向き合って何処かへ辿り着くしかない、せめて、紫紺様にとって納得いくことをしなければ、あんまりも自分のしていることが酷過ぎて、自分を許せなくなりそうだし…。

向き合うっていっても、どうすればいいんだろう?
誰に言えばいいんだろう?

明後日、美月の家に行ったら、藍蓮様に相談してみようかな。紫紺様と一緒に、神蛇先生と話したみたいだし…。

どうしていけばいいか?
何かわかるかもしれない。

そこまで考えると気持ちが少しスッキリした。

家に居るのも後1日、自分にとって、後腐れが残ることがないよう明日の夕食は過ごそう。

そう思って眠りについた。