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幼稚舎から、大学院まである九十九學院の敷地はかなり広いようだった。

それに歴史があるせいか、古い建物と新しい建物が混在していた。

転入予定の高等部は、新しい校舎になっていた。

建物内を一通り案内されてから、応接室に通され、転入届一式を渡し、次は、寮へと向かった。

寮の中は、男性の道忠さんは、入って来ず、
寮母さんに案内され龍咲さんと見学をした。

九十九學院の寮は、中等部からあるらしく、
中等部と高等部は、同じ寮で暮らすらしく想像したよりずっと広かった。

夏休みのため、学生は少なく、お盆の時期になれば、殆どいなくなると寮母さんが言っていた。

食堂もあり、朝夕は食事が用意され、お昼は頼めば弁当が用意して貰えるそうだ。

なんか至れり尽くせりだなと思って聞いていた。

一通りの見学を終えた頃、美月からスマホに電話が入った。

また、お昼を花姫会館内のレストランで一緒に取ることになった。

道忠さんは、もう少し話があると九十九學院に残ったので、龍咲さんと花姫会館に向かった。

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レストランに行くと、やっぱり藍蓮様も一緒だった。

ずっと気になっていたので、藍蓮様に仕事は行かなくていいのかを聞いてみたら、

『花姫と出逢った花王子は、暫く休みが貰えるんだよ。色々、準備があるでしょ。
昔からの慣習みたいなものだから、休みの期間は職場によって違うけど…。』
と言っていた。

産休とか、育休みたいなものがないとは思ったけど、花姫休って、神獣人社会は花姫に特化し過ぎじゃないかと正直、思った。

午前中、学校の説明を聞いた美咲は、確か翔様が通っていると言っていた涼鈴(すみれ)学園と、聖華学園で迷っていると言っていた。

私も学校や寮について、美月と藍蓮様に色々、聞かれた。

寮には、数日以内に入れるようにすると、道忠さんは張り切って言っていたけど、まだ入る日がまだ決まらないというと、

美月と藍蓮様が決まるまで、美月と一緒に、柘榴様の家に住んだらどうか?と誘ってくれた。

美月は、もう家には帰らないことにしたみたいだった。

美咲の様子を見て、本当に変わったのかは、やっぱり私と同じで半信半疑みたいだったけど、

『美咲は、変わろうとはしているみたいだし、何かしそうな気もしなくて安心した。

それよりも、昨日からのお母さんとお父さんの様子を見て、もう変わってくれることを期待しても仕方がないと思った。』
と言っていた。

『まずは親から離れて、自分を立て直そうと思う。それからじゃないと親と自分を一緒のレールで見てしまうから。』

そう決めたのには、藍蓮様が、家に帰ることを凄く心配しているのもあるんだろうと思った。

美月は、藍蓮様の家か、柘榴様の家かで迷っていたみたいだったのに、
もう柘榴様の家に住むことに決めたようだった。

決め手は、昨日、話していた柘榴様の家で飼っているドーベルマンとグランドピアノのようだった。

お母さんと美咲が動物が嫌いだったから、ペットを飼うことはできなかった。

動物が好きな美月は、ペットを飼っている友達の家によく遊びに行っていた。

賢いペットと、コンクールで賞を獲るとかを考えたりしないで、弾きたい時に弾けるピアノのある生活が、美月には魅力的にうつったみたいだった。

話を聞きながら、美月は日々、着々と花姫として歩もうと自分の道を進ませていると思った。

せっかく会えた花王子を帰らせてしまった私とは大違いで痛かったけど…。

食事も済んだ頃、藍蓮様のスマホが鳴った。

藍蓮様が電話を受けるため、席を離れると、

『お姉ちゃん、落ち着いてからでいいから、柘榴様の家に遊びに来て、藍蓮様が居ると話せないこともあるから。』
とお願いされた。

藍蓮様の美月への関心が強くて、一気に距離を詰められていくようで、不安や戸惑いがあるみたいだった。

柘榴様の家に住むことを決めたのも、物理的に距離が保てるからだと言っていた。

美月の側にいる藍蓮様を、ここ数日、近くで見ていたから、美月の言いたいことはよくわかった。

私は、あの熱量を自分に向けられるのは、考えただけで、走って逃げたくなると思っていたけど、

美咲や美月たちは、側で見ていると、平気そうに見えたので、

美月の言葉に、意外さと、やっぱりそうだよねっ。という妙な納得が入り混じった複雑な気持ちを感じた。

藍蓮様が、戻って来ると、

『千景さんが、忍葉ちゃんと美月ちゃんに話があるそうだから行こう。』
と言った。