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浅井家を出た道忠は、車の後部座席に乗り込むと、運転手に行き先を告げ、電話を掛けた。

『神蛇先生や紫紺様が仰った通り、忍葉様の花姫になる抵抗はかなり強かったですね。

それに、虐げられる環境が当たり前だったからでしょうが、ご自身の家庭環境への疑問すら薄く、危険だと言っても、八つ当たりされるくらいだからと家に帰ると仰られました。』

『それで、忍葉は、家に帰ったのか?』

『はい。忍葉様には、家に帰って頂きました。』

『そうか。』

『昨晩、ご一緒に、神蛇先生の話を聞いて置いて良かったです。
先生の仰る通りでしたね。

特に、いくつか言われたポイントは、本当に、大事でしたね。お陰で今日は、スムーズにいきました。

忍葉様は、虐げられる環境のせいか視野が狭いところがございましたし、不安定な危うさはありましたが、聡明な方でしたね。

こちらの立場の理解はすぐにされましたし、
自分への配慮をされる以上、迷惑は掛けないようにすると痛々しいくらい健気でしたね。

花姫会に混じって話を聞きましたが、妹の方は、自分本位で、他者の視点に欠けるお子ちゃまでしたね。

あれでは、何かやらかして千虎家の配慮も無駄にしかねないですね。

寮以外の住居の選択の余地もありそうに無かったので、

紫紺様が仰った通り、他の選択肢の話はせず、寮に住む話しを進め、

予定通り転入、入寮の書類は、先程、父親に記入して頂き、忍葉様にはスマホも持って頂きました。』

『あまり家に居ないようにそれとなく配慮してやってくれ。』

『ええ。妹の反応を見る限り、明日、忍葉様が家にいる時間は減らした方が安全ですからね。
学校や寮の見学をすることにしました。』

『そうか。』

『紫紺様の方は、どうでしたか?』

『ああ、いい方たちだったな。協力は頼めたよ。明日、もう一軒訪ねるよ。仕事の方は大丈夫か?』

『ええ。部下も育ってますから。数日くらい心配には及びませんよ。』

『そうか。すまないが、そっちは頼むよ。』

『いえ。それでは、また連絡します。』

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やっと巡り会えた花姫に、会えないとは、紫紺様も辛いだろう。

早く会えるようにしてあげたいが…。

今日は、計画通りに事が運んだけど、

まあ、大まかな計画は、これでいいけど、
こういうのは、こちらの思うようにはいかないものだからね。

思いがけないことが起きて、サクッと解決する時もあれば、

思いがけないことが起きて、重傷を負うような酷い結果になることもある。

と言ってたからな。

この先何が起きるかわからない。

それに、神蛇先生の話は理解はできるが、

忍葉君の選択に例え、少々、危険を感じても忍葉君の意思は尊重すること、

それからむやみやたらに危険を排除しないこと、心理的抵抗を解決するなんて、
それ自体が危険を孕むことなんだ。

多少の危険は、避けては通れないよ。

というのは、難しい…、

相手は紫紺様の花姫だからな…。

だから、神蛇先生も、そこを強く言ったのだろうが…。

できる限り、安全で速やかな解決に至りたいものだ。