『藍蓮様の話は、理解できました。正直、本当にそんな大事になるとは、信じられない思いがするけど…。』
『良かった。じゃ、家に帰らずとりあえず、これから何処に住むか相談しようね。』
『家に帰ります。』
『えっ?』
『ダメです。危険です。何かあったら、紫紺様が悲しみます。』
と道忠さんがただならぬ、表情でそう言った。
紫紺様を心配する思いが滲み出るような表情と言葉に、秘書というのは、こんなに仕える相手に思い入れを強く持つものなんだろうか?と疑問がわいた。
『お姉ちゃんどうして?せっかく、皆んなが、お姉ちゃんを守ろうと考えてくれてるのに。』
『私のことを心配して、言ってくれていることは、わかる。
だけど、
危険って言うのは、大袈裟だと思う。
藍蓮様が言う通りのことが起きたとして、
されるのは、八つ当たりくらいのことだと思う。そんなのいつものことじゃない。
それでわざわざ、家を出る必要を感じないし…、それに…そんな大事が起きるとわかっていて、家に帰らないなんて、心配で不安になる。』
『大袈裟では、決してありません。
日常的な、忍葉様への家族の態度がそもそも普通ではありません。
八つ当たり程度だなんてとんでもない。
されるいわれのないことじゃないですか‼︎
ご自身が酷い扱いを受けていることに、自覚が無さ過ぎます。
忍葉様は、大事にされて守られるのが、当然の紫紺様の花姫なんです。』
道忠さんの言葉はどれも、ボディブローのように心に深く刺さって痛くて、堪らなかった。
『守って貰いたくない。
大事にされたり、よっぽど守られる方が恐い。どうしていいかわからない。
私には、花紋が出てないし、美咲や美月みたいに、花王子に花姫って言われても、花王子って感じなかった…。
感じたのは、ただ、ただ底の無い穴に落ちていくような途方もない恐怖だった。
そのせいで、あんな風に帰してしまった。
私は、花姫の欠陥品なのよきっと。
私に花姫の価値なんかない‼︎』
これ以上心配されまいと必死に隠していた本音を、ぶち撒けるように言ってしまった。
すぐ後悔の念が押し寄せる中、
取り乱した私とは、正反対に、道忠さんは、動じることなく落ち着いた口調で、話し始めた。
『忍葉様がどうご自身のことを思っておられようと忍葉様は、紫紺様の花姫です。
ただそれだけで紫紺様にとって、誰よりも、何よりも価値があるんです。
どうかご自覚なさって下さい。
それに、紫紺様に感じる恐怖が、
何より、忍葉様が紫紺様を花王子だと感じている証拠じゃないかと私は、思います。』
『忍葉様は、花王子の紫紺様や、花姫会だけでなく、忍葉様と関わる神獣人にとって、
もう花姫なんです。
そこからは逃れられません。』
『そんな…私、花姫にならなきゃいけないなら、もう居られる場所がない…生きていけない』
忍葉の言葉に成り行きを見守っていた藍蓮と美月に緊張が走った。
道忠も、表情にこそ出さなかったが、
まさか、これほど、花姫になる抵抗が強いと思わなかったと内心驚いていた。
遅ればせでも、忍葉の頑なな心を感じとった道忠が口を開いた。
『私の言葉が少々、足りませんでした。
忍葉様に花姫になることを強要したりは、決して致しません。』
道忠の思い掛けない言葉に
『…ホント?』
と口をついて出た。
『忍葉様が花姫になっても良いと思うまで、花姫になることを紫紺様なら必ず待たれます。』
『思ったりしない。きっとそんな日は来ない…』
『それでもです。それでも待たれると思います。いつまででも…。』
『それじゃ、紫紺様が……』
『忍葉様が、紫紺様に感じる恐怖の強さは、忍葉様の花姫になる心理的な抵抗の強さだと、紫紺様は、理解しておられます。
だから、先程も、お帰りになられたのです。
紫紺様をそのことで、お気になさることは、ございません。』
そう言われたからって気にせずにはいられないけど、気持ちが少し楽になった。
『それより、今後の住まいを早くお決めになって頂くことが今の優先事項です。
どうしても家に帰りたいなら、帰ることは、構いません。』
帰っていいと言われてホッとした。
『忍葉様これは、紫紺様の意志だと思って聞いて下さいね。
忍葉様に、花姫になることを強要は致しませんし、誰にもさせません。
ですが、これからは、もう、
花姫会も、忍葉様の周りの神獣人も、忍葉様は、花姫だと思うし、そう扱います。
今は少ないですが、忍葉様の花王子が誰かを知っている相手であれば、忍葉様を紫紺様の花姫だと思い、扱います。
そこからは逃れさせてあげることはできません。』
美咲が花姫になってからの数日で、どれほど神獣人にとって花姫が特別か理解していた忍葉は、そうだろうと道忠の言葉に納得して、
『それは、理解できていますし、
花姫になりたくないと我儘を言うんだから、できる限り、周りの方たちには、迷惑を掛けないようにします。』
と答えた。
『忍葉さまの花姫になりたくない思いは、心理的な抵抗から来るもので、単なる我儘では、ないでしょう?
花姫会も、藍蓮様も、皆、それを理解した上で、忍葉様に何かがあることを心配しています。ですから、家に帰っても、身に危険を感じたら、必ず知らせて下さい。』
『はい。何かあれば知らせます。』
『それから、出来る限り早く寮に住めるように致しますから、家は、出て頂くことになりますが宜しいでしょうか?』
『元々、寮に入ることが決まれば、家は直ぐに出るつもりだったのでその方がいいです。
だけど、学校の話しをする時になったら、龍咲さんに奨学金や国の支援制度の話を聞いて、できる限り親にお金を払って貰わないで寮に住んで学校へ通えるように手続きするつもりだったんですけど、それは、誰に頼んだらいいですか?』
『学費も寮費も、紫紺様がお支払いになりますので、奨学金も、国の支援制度も不要です。』
『えっ?そんな迷惑をこれ以上かけるわけには…私は、花姫になれないのに、そんなことできません。』
『紫紺様に迷惑をお掛けしたくないのであれば、黙って支払って貰って下さい。』
『えっ?』
『先ほども、申し上げたでしょう。紫紺様も、周りの神獣人も花姫会も、忍葉様を、紫紺様の花姫だと見る。そこからは逃れさせてはあげられません。と。』
『はい。それは理解しています。だけど、それと学校の支払いに何の関係があるんですか?』
『紫紺様は、神獣人一族を纏める麒麟一族の次期当主です。
忍葉様が花姫になれないのは、心理的な抵抗があるためだから、仕方ありませんが、
忍葉様が花姫だとわかっているのに、麒麟一族の次期当主である紫紺様が、花姫の学費を国の支援に任せているとあっては、一族の笑い者になります。
お分かりになりましたか?』
そんなことを言われたら、もう何も言えないし、せめて紫紺様の立場を潰すようなことはしたくないので、
『はい。わかりました。支払って頂きます。』
と答えた。
『急ぐなら、親には寮に入ることを話して了解を得ないといけませんよね?今日、帰ったら話してみます。』
『今日、ご両親のどちらかに書類を書いて頂きにあがりますので、忍葉様は、何も話さないで下さい。』
『えっ?』
『その方がスムーズに話が進むと思いますのでお任せ下さい。』
『え?道忠さんが手続きしてくれるの?』
『はい。もちろんです。私は、紫紺様の秘書ですから。』
『はあ…。わかりました。お願いします。』
『お姉ちゃん、今日、帰るんでしょ。』
ずっと成り行きを見守っていた美月が口を開いた。
『うん。』
『じゃあ、私も帰る。』
『えっ!ダメ。駄目だよ。美月ちゃん。』
『そんなのダメ。今日、花姫会から、連絡があるって藍蓮様が言ったんだよ。お姉ちゃん一人を家に帰せないし、私もどうなるかちゃんと見ないと安心出来ない。』
『あ〜……。』
肩をガックリ落として何やら考えていた藍蓮は、溜息を吐くと、
『……仕方ない。いいよ。
その変わり何かあったら、絶対に電話すること。いい?約束だよ。』
『わかった必ず、約束は守るね。』
美月の笑顔を、愛しそうに見つめて、頭を撫でている藍蓮。2人を見ながら、私には、遠い世界だなと思った。
帰るなら…、
『あの〜、きっと凄い我儘になるんだと思うんだけど…』
『なんでしょう?この際、どんな我儘でも、叶えますのでおっしゃって下さい。』
道忠さんに、そこまで言われると返って言いにくいと思いつつ、言わない方が良くない気がするから、思い切って言ってみることにした。
『………えっと、、お母さんと、お父…両親や美咲に、私が、紫紺様の花姫だと言わないで欲しい…です。…』
『えっ?言わないと美咲たち…あっ、言っても…
と言ったまま考え込む美月。
『その方が今は、いいでしょうね。』
『僕もそう思うよ。』
『えっ‼︎じゃ、いいの?』
『ええ。花姫会には私が話しをつけておきますが、反対はされないでしょうね。』
『美月ちゃん?大丈夫?』
『お母さんも、美咲も、どうしてあーなんだろうと思って…お姉ちゃんが紫紺様の花姫だって言っても、きっと頭から否定するし…返って反発してお姉ちゃんに嫌味を言うか、紫紺様に合わせないように、家から出さないように画策すると思う…。』
『そうするでしょうね…。』
藍蓮様は、美月の頭をポンポンと叩いた。
『あんまり考えると頭から煙がでるよ。ねっ。』
『うん。そうだね……。家族には、言わない方がいいと私も思う…。』
『忍葉様、家にお帰りになる前に、これをお渡しして起きます。』
そう言って道忠さんは、スマホを私に渡した。
『えっ?何で?』
『忍葉様がお持ちでは無かったからです。』
『えっでも、今まで必要無かったし…。
『今までと今では、状況が違います。先程、何かあったら連絡するとお約束しましたよね。忍葉様は、どうやって連絡するおつもりでした?』
『…………ノープランでした…。』
『こちらのスマホには、必要な連絡先が登録してあります。何かあれば、適宜、連絡ができるかと思います。持って頂けますね。』
『…必要性はわかりましたが、支払いはどうしたらいいでしょうか?』
『先程も言いましたが、忍葉様は、紫紺様の花姫です。紫紺様がお支払い致します。』
『………それは…黙って払って貰った方が、迷惑にならないってこと?ですよね。』
『ご理解頂けたようで良かったです。』
長いものには巻かれろって言うけど、たった今日、1日で、自分が紫紺様というか、黄竜門家に一気に飲み込まれているように思えて、気が遠くなりそうだった。
『それじゃ忍葉ちゃん。スマホの使い方講座しようか?初めて持ったんでしょ。必要じゃない?』
『必要です。是非、お願いします。』
それから、藍蓮様、美月、道忠さん3人に、必要性の高いものからスマホの使い方を説明してして貰うと、手配して貰った車に乗り、美月と2人帰途についた。
『良かった。じゃ、家に帰らずとりあえず、これから何処に住むか相談しようね。』
『家に帰ります。』
『えっ?』
『ダメです。危険です。何かあったら、紫紺様が悲しみます。』
と道忠さんがただならぬ、表情でそう言った。
紫紺様を心配する思いが滲み出るような表情と言葉に、秘書というのは、こんなに仕える相手に思い入れを強く持つものなんだろうか?と疑問がわいた。
『お姉ちゃんどうして?せっかく、皆んなが、お姉ちゃんを守ろうと考えてくれてるのに。』
『私のことを心配して、言ってくれていることは、わかる。
だけど、
危険って言うのは、大袈裟だと思う。
藍蓮様が言う通りのことが起きたとして、
されるのは、八つ当たりくらいのことだと思う。そんなのいつものことじゃない。
それでわざわざ、家を出る必要を感じないし…、それに…そんな大事が起きるとわかっていて、家に帰らないなんて、心配で不安になる。』
『大袈裟では、決してありません。
日常的な、忍葉様への家族の態度がそもそも普通ではありません。
八つ当たり程度だなんてとんでもない。
されるいわれのないことじゃないですか‼︎
ご自身が酷い扱いを受けていることに、自覚が無さ過ぎます。
忍葉様は、大事にされて守られるのが、当然の紫紺様の花姫なんです。』
道忠さんの言葉はどれも、ボディブローのように心に深く刺さって痛くて、堪らなかった。
『守って貰いたくない。
大事にされたり、よっぽど守られる方が恐い。どうしていいかわからない。
私には、花紋が出てないし、美咲や美月みたいに、花王子に花姫って言われても、花王子って感じなかった…。
感じたのは、ただ、ただ底の無い穴に落ちていくような途方もない恐怖だった。
そのせいで、あんな風に帰してしまった。
私は、花姫の欠陥品なのよきっと。
私に花姫の価値なんかない‼︎』
これ以上心配されまいと必死に隠していた本音を、ぶち撒けるように言ってしまった。
すぐ後悔の念が押し寄せる中、
取り乱した私とは、正反対に、道忠さんは、動じることなく落ち着いた口調で、話し始めた。
『忍葉様がどうご自身のことを思っておられようと忍葉様は、紫紺様の花姫です。
ただそれだけで紫紺様にとって、誰よりも、何よりも価値があるんです。
どうかご自覚なさって下さい。
それに、紫紺様に感じる恐怖が、
何より、忍葉様が紫紺様を花王子だと感じている証拠じゃないかと私は、思います。』
『忍葉様は、花王子の紫紺様や、花姫会だけでなく、忍葉様と関わる神獣人にとって、
もう花姫なんです。
そこからは逃れられません。』
『そんな…私、花姫にならなきゃいけないなら、もう居られる場所がない…生きていけない』
忍葉の言葉に成り行きを見守っていた藍蓮と美月に緊張が走った。
道忠も、表情にこそ出さなかったが、
まさか、これほど、花姫になる抵抗が強いと思わなかったと内心驚いていた。
遅ればせでも、忍葉の頑なな心を感じとった道忠が口を開いた。
『私の言葉が少々、足りませんでした。
忍葉様に花姫になることを強要したりは、決して致しません。』
道忠の思い掛けない言葉に
『…ホント?』
と口をついて出た。
『忍葉様が花姫になっても良いと思うまで、花姫になることを紫紺様なら必ず待たれます。』
『思ったりしない。きっとそんな日は来ない…』
『それでもです。それでも待たれると思います。いつまででも…。』
『それじゃ、紫紺様が……』
『忍葉様が、紫紺様に感じる恐怖の強さは、忍葉様の花姫になる心理的な抵抗の強さだと、紫紺様は、理解しておられます。
だから、先程も、お帰りになられたのです。
紫紺様をそのことで、お気になさることは、ございません。』
そう言われたからって気にせずにはいられないけど、気持ちが少し楽になった。
『それより、今後の住まいを早くお決めになって頂くことが今の優先事項です。
どうしても家に帰りたいなら、帰ることは、構いません。』
帰っていいと言われてホッとした。
『忍葉様これは、紫紺様の意志だと思って聞いて下さいね。
忍葉様に、花姫になることを強要は致しませんし、誰にもさせません。
ですが、これからは、もう、
花姫会も、忍葉様の周りの神獣人も、忍葉様は、花姫だと思うし、そう扱います。
今は少ないですが、忍葉様の花王子が誰かを知っている相手であれば、忍葉様を紫紺様の花姫だと思い、扱います。
そこからは逃れさせてあげることはできません。』
美咲が花姫になってからの数日で、どれほど神獣人にとって花姫が特別か理解していた忍葉は、そうだろうと道忠の言葉に納得して、
『それは、理解できていますし、
花姫になりたくないと我儘を言うんだから、できる限り、周りの方たちには、迷惑を掛けないようにします。』
と答えた。
『忍葉さまの花姫になりたくない思いは、心理的な抵抗から来るもので、単なる我儘では、ないでしょう?
花姫会も、藍蓮様も、皆、それを理解した上で、忍葉様に何かがあることを心配しています。ですから、家に帰っても、身に危険を感じたら、必ず知らせて下さい。』
『はい。何かあれば知らせます。』
『それから、出来る限り早く寮に住めるように致しますから、家は、出て頂くことになりますが宜しいでしょうか?』
『元々、寮に入ることが決まれば、家は直ぐに出るつもりだったのでその方がいいです。
だけど、学校の話しをする時になったら、龍咲さんに奨学金や国の支援制度の話を聞いて、できる限り親にお金を払って貰わないで寮に住んで学校へ通えるように手続きするつもりだったんですけど、それは、誰に頼んだらいいですか?』
『学費も寮費も、紫紺様がお支払いになりますので、奨学金も、国の支援制度も不要です。』
『えっ?そんな迷惑をこれ以上かけるわけには…私は、花姫になれないのに、そんなことできません。』
『紫紺様に迷惑をお掛けしたくないのであれば、黙って支払って貰って下さい。』
『えっ?』
『先ほども、申し上げたでしょう。紫紺様も、周りの神獣人も花姫会も、忍葉様を、紫紺様の花姫だと見る。そこからは逃れさせてはあげられません。と。』
『はい。それは理解しています。だけど、それと学校の支払いに何の関係があるんですか?』
『紫紺様は、神獣人一族を纏める麒麟一族の次期当主です。
忍葉様が花姫になれないのは、心理的な抵抗があるためだから、仕方ありませんが、
忍葉様が花姫だとわかっているのに、麒麟一族の次期当主である紫紺様が、花姫の学費を国の支援に任せているとあっては、一族の笑い者になります。
お分かりになりましたか?』
そんなことを言われたら、もう何も言えないし、せめて紫紺様の立場を潰すようなことはしたくないので、
『はい。わかりました。支払って頂きます。』
と答えた。
『急ぐなら、親には寮に入ることを話して了解を得ないといけませんよね?今日、帰ったら話してみます。』
『今日、ご両親のどちらかに書類を書いて頂きにあがりますので、忍葉様は、何も話さないで下さい。』
『えっ?』
『その方がスムーズに話が進むと思いますのでお任せ下さい。』
『え?道忠さんが手続きしてくれるの?』
『はい。もちろんです。私は、紫紺様の秘書ですから。』
『はあ…。わかりました。お願いします。』
『お姉ちゃん、今日、帰るんでしょ。』
ずっと成り行きを見守っていた美月が口を開いた。
『うん。』
『じゃあ、私も帰る。』
『えっ!ダメ。駄目だよ。美月ちゃん。』
『そんなのダメ。今日、花姫会から、連絡があるって藍蓮様が言ったんだよ。お姉ちゃん一人を家に帰せないし、私もどうなるかちゃんと見ないと安心出来ない。』
『あ〜……。』
肩をガックリ落として何やら考えていた藍蓮は、溜息を吐くと、
『……仕方ない。いいよ。
その変わり何かあったら、絶対に電話すること。いい?約束だよ。』
『わかった必ず、約束は守るね。』
美月の笑顔を、愛しそうに見つめて、頭を撫でている藍蓮。2人を見ながら、私には、遠い世界だなと思った。
帰るなら…、
『あの〜、きっと凄い我儘になるんだと思うんだけど…』
『なんでしょう?この際、どんな我儘でも、叶えますのでおっしゃって下さい。』
道忠さんに、そこまで言われると返って言いにくいと思いつつ、言わない方が良くない気がするから、思い切って言ってみることにした。
『………えっと、、お母さんと、お父…両親や美咲に、私が、紫紺様の花姫だと言わないで欲しい…です。…』
『えっ?言わないと美咲たち…あっ、言っても…
と言ったまま考え込む美月。
『その方が今は、いいでしょうね。』
『僕もそう思うよ。』
『えっ‼︎じゃ、いいの?』
『ええ。花姫会には私が話しをつけておきますが、反対はされないでしょうね。』
『美月ちゃん?大丈夫?』
『お母さんも、美咲も、どうしてあーなんだろうと思って…お姉ちゃんが紫紺様の花姫だって言っても、きっと頭から否定するし…返って反発してお姉ちゃんに嫌味を言うか、紫紺様に合わせないように、家から出さないように画策すると思う…。』
『そうするでしょうね…。』
藍蓮様は、美月の頭をポンポンと叩いた。
『あんまり考えると頭から煙がでるよ。ねっ。』
『うん。そうだね……。家族には、言わない方がいいと私も思う…。』
『忍葉様、家にお帰りになる前に、これをお渡しして起きます。』
そう言って道忠さんは、スマホを私に渡した。
『えっ?何で?』
『忍葉様がお持ちでは無かったからです。』
『えっでも、今まで必要無かったし…。
『今までと今では、状況が違います。先程、何かあったら連絡するとお約束しましたよね。忍葉様は、どうやって連絡するおつもりでした?』
『…………ノープランでした…。』
『こちらのスマホには、必要な連絡先が登録してあります。何かあれば、適宜、連絡ができるかと思います。持って頂けますね。』
『…必要性はわかりましたが、支払いはどうしたらいいでしょうか?』
『先程も言いましたが、忍葉様は、紫紺様の花姫です。紫紺様がお支払い致します。』
『………それは…黙って払って貰った方が、迷惑にならないってこと?ですよね。』
『ご理解頂けたようで良かったです。』
長いものには巻かれろって言うけど、たった今日、1日で、自分が紫紺様というか、黄竜門家に一気に飲み込まれているように思えて、気が遠くなりそうだった。
『それじゃ忍葉ちゃん。スマホの使い方講座しようか?初めて持ったんでしょ。必要じゃない?』
『必要です。是非、お願いします。』
それから、藍蓮様、美月、道忠さん3人に、必要性の高いものからスマホの使い方を説明してして貰うと、手配して貰った車に乗り、美月と2人帰途についた。