♢♢♢♢♢
美月と藍蓮様は、10分くらいして現れた。
美月は、見慣れない服装をしていた。倒れた私の洋服を用意してしまうくらいだから、泊まった美月の服ぐらい簡単に用意してしまうんだろうな…マメ過ぎてちょっと引いてしまうけど…と思っていたら、
私を見つけた美月は、駆け寄って来て、
『キャー。お姉ちゃん、お化粧してる。髪も可愛いし、やっぱりこの服似合ってる〜。』
とひとしきり騒いだ。
見た目を褒められたことのない私は、居た堪れなさに固まってしまった。
『美月ちゃん、美月ちゃん。忍葉ちゃんが固まっているからね。それくらいにして、ほらこっちに来て座って。』
と藍蓮様に優しく促され、美月は、藍蓮様と並んでテーブルを挟んだ私の向かいのソファに座った。
すぐに水やお絞り、メニューを持って店員が現れて、ホッとした。
『忍葉ちゃん何か頼んだ?』
『ううん。連れが来るからって待って貰っていたから。』
『そうじゃ、一緒に注文しないとね。』
『決まったら呼ぶよ。』
と藍蓮様が店員に声を掛けると、一礼して、離れて行った。
『お腹ペコペコだよ。2人とも何、食べる?』
と藍蓮様が穏やかに聞いた。
注文が決まると、藍蓮様が店員を呼んで、スマートに注文を済ませた。
立ち去っていく店員を見送ると、藍蓮様は、私の方を向いて、
『忍葉ちゃん、ワンピースも、髪型もとっても似合っているよ。』
と言った。
さっき話題を逸らしてくれたかと思ったら、今度は振るんだ…。何というか藍蓮様は自由だなと思っていたら、
『うん。お姉ちゃんは、小さい頃から、私や美咲より、ずっと可愛かったからね。お洒落したら絶対、皆んなの目を惹くって思ってたんだよね〜。思った通りだった。』
と美月が言い出した。
『何を言っているの?美月。小さい頃から、可愛いかったのは、美月たちでしょ。』
『えっ。何、言ってるの。お姉ちゃん。
お姉ちゃんは、ずっと、小さい頃から、可愛いって言われていたよ。近所の人たちに。』
『えっ‼︎』
『お母さんが嫌がって話さなかっただけだよ。』
話しの不穏な雰囲気を察したのか、
『美月ちゃんが、喜ぶと思ったんだけど、想像以上だった。龍咲に頼んで良かったよ。』
と口を挟んで藍蓮様は満足そうに微笑んだ。
私を着飾って、美月を喜ばせるより、美月を直接、着飾ったらいいのにと思って、
『私より、美月を着飾ったらいいと思います。』
と言うと、
『それはこれから一杯楽しむからね。今日は、特別な日だから、いいの。』
とすました笑顔で藍蓮様は言った。
昨日から、時々、藍蓮様は、何か意味深な物言いをする、何かを隠しているような…何だろう…?
それに、空気が読めるんだか、マイペースなんだか掴みどころがない…、
悪い人には、全く見えないし、美月を大事に思っているのは間違いないと思う。
それはそれで、藍蓮様の美月を見る目は、昨日、会ったばかりだと思うと引いてしまうくらい熱っぽさが過ぎると思うけど、
だからこその、
「花姫に会ったばかりの花王子は、みんなちょっと頭のネジがどうにかなる。」
って、神蛇先生の言葉なんだろうけど、花王子は、皆んなこんな調子なんだろうか…、
それに、藍蓮様だけじゃない、花姫会の千景さんや、龍咲さん、神蛇先生も、凄く芯が強くて、動じない…。なんとなく神獣人を敵に回したら怖そうだなと思った。
自分の容姿の話から話題を逸らしたくて、
『美月、内覧どうだったの?』
と話しを振った。
『2軒とも凄い豪邸だったよ。外観も、中も。美咲は、嬉しそうにはしゃいでいたけど…、私は、ちょっと、戸惑って…』
そこまで言うと話すのを躊躇うように口を閉じた。
どうしたのかな…と様子を見ていると、
『お姉ちゃん、あのね、私、お母さんたちとは、住まず、まだ、どっちかを決めてないけど、藍蓮様の家か、お母様の柘榴様の家に住むことにした。』
『そうなんだ。決められて良かったね。考えられなそうだったのに…。』
『一軒目を内覧して、外観から凄く大きくて、高級感がある家で、中も凄かったの。
中央区の殆どがそんな家ばかりだし…。
これから住む家って考えてその家の中を見ると、これからどうしようばかり思えて、
昨日、藍蓮様のお母様の家に泊まった時も、こんな大きな家の花姫なんてできるのかなって…思っていたんだけど…、
内覧が終わった後に、
藍蓮様と絢音さんと、車の中で思ってたことを話してたら、
絢音さんが、
『戸惑いますね。』
って言ったの。
その時にね。私、花姫として藍蓮様と住むことを考えているから、戸惑っているって気づいたの。
お母さんたちとは、住む気が無かったし、だったら、そうしようと思えたんだ。』
『そうなんだ。良かったね。』
隣の藍蓮様は嬉しそうに美月の話を聞いている。美月…だけじゃない、美月たちは、一歩ずつ前に進んでるんだなと思った。
食事が次々、運ばれてきた。
『冷める前に、食べよう。』
と藍蓮様が言ったけど、美月は、話し切りたかったのか、
『それで、そう決めたなら、早い方がいいって、藍蓮様が。
お母さんたちが、あーでしょ。心配だからって。私も、もうお母さんたちには、うんざりしてるし…。暫く距離を置こうと思って…。
家には、暫く帰らず、これから、ゆっくり両方の家を見せて貰って、藍蓮様や柘榴様と話し合って決めるつもりだから。』
と言った。
これを私に言いたかったんだな。私が一人になることを気にして居るんだろうなと美月の言葉を聞いてなんとなく納得した。
『そう。その方が私もいいと思う。それに、昨日から、聞きたかったけど、私が気を失っている間、お母さんたちと何かあったの?』
『…何かあったというか…、いつもと変わらなかった。』
一瞬、言おうか迷っているように見えたけど、口を開いた美月は、
『お姉ちゃん、倒れた時、息が止まったみたいにピクリとも動かなかったんだよ…
それなのに、お母さんは、いつもの体調不良だって言って心配していないし、
美月なんか、お姉ちゃんのせいで、また予定が狂うって、処置室の前で怒り出すし…、
お父さんが会社から駆けつけて来たけど、いつもみたいに、お母さんに調子を合わせているし…、
なんかもう呆れてしまったと言うか、もう親じゃない…まともなことが出来ない親なんだと思った。
美咲も、小さい頃はあんなじゃなかったから、ずっと元に戻って欲しいと思っていたけど、無理なんだって…急に、冷めた思いがして…だから、一度、離れて考えるのもいいのかも知れないと思ったの。』
と一気に話した。
なんとなく予想はしてたけど、やっぱりそんなことだったか…と思った。
『ごめん…。お姉ちゃん大丈夫…?』
『あ、うん。いつものことでしょ。大丈夫だよ。』
『いつものことって、普通じゃないよ。あんな家族‼︎』
いつになく、大きな声を出した美月を、藍蓮様が気遣う。
いくら花王子の藍蓮様に会ったからって、昨日の今日だ。美月だって気持ちの整理はつかないだろう。私だって正直、わけがわからないのだから…。
『美月、落ち着いて、私は、大丈夫だから。』
と言うと、
『お姉ちゃんは、ちょっと怒った方がいいんだよ。』
と不貞腐れたように美月は言った。
藍蓮様が美月の体を引き寄せて頭を撫でているのをボンヤリ眺めながら、
そんなことを言われても、怒ったところでどうにかなったりしないし、ずっと怒る暇すら私には、与えて貰えなかった、今更、何をどう怒ればいいんだろう…か?
そんなことを思っていた。
気持ちが落ち着いたのか、
『大きな声を出してごめんなさい。』
と言うと美月は、手をつけていなかった食事に手を伸ばして口の中に入れると、
『やっぱりここの料理、美味しいね。』
と少しぎこちなく笑った。
私も藍蓮様もホッとして、食事を取り始めた。
そこからは、穏やかに食事をした。
美月と藍蓮様は、10分くらいして現れた。
美月は、見慣れない服装をしていた。倒れた私の洋服を用意してしまうくらいだから、泊まった美月の服ぐらい簡単に用意してしまうんだろうな…マメ過ぎてちょっと引いてしまうけど…と思っていたら、
私を見つけた美月は、駆け寄って来て、
『キャー。お姉ちゃん、お化粧してる。髪も可愛いし、やっぱりこの服似合ってる〜。』
とひとしきり騒いだ。
見た目を褒められたことのない私は、居た堪れなさに固まってしまった。
『美月ちゃん、美月ちゃん。忍葉ちゃんが固まっているからね。それくらいにして、ほらこっちに来て座って。』
と藍蓮様に優しく促され、美月は、藍蓮様と並んでテーブルを挟んだ私の向かいのソファに座った。
すぐに水やお絞り、メニューを持って店員が現れて、ホッとした。
『忍葉ちゃん何か頼んだ?』
『ううん。連れが来るからって待って貰っていたから。』
『そうじゃ、一緒に注文しないとね。』
『決まったら呼ぶよ。』
と藍蓮様が店員に声を掛けると、一礼して、離れて行った。
『お腹ペコペコだよ。2人とも何、食べる?』
と藍蓮様が穏やかに聞いた。
注文が決まると、藍蓮様が店員を呼んで、スマートに注文を済ませた。
立ち去っていく店員を見送ると、藍蓮様は、私の方を向いて、
『忍葉ちゃん、ワンピースも、髪型もとっても似合っているよ。』
と言った。
さっき話題を逸らしてくれたかと思ったら、今度は振るんだ…。何というか藍蓮様は自由だなと思っていたら、
『うん。お姉ちゃんは、小さい頃から、私や美咲より、ずっと可愛かったからね。お洒落したら絶対、皆んなの目を惹くって思ってたんだよね〜。思った通りだった。』
と美月が言い出した。
『何を言っているの?美月。小さい頃から、可愛いかったのは、美月たちでしょ。』
『えっ。何、言ってるの。お姉ちゃん。
お姉ちゃんは、ずっと、小さい頃から、可愛いって言われていたよ。近所の人たちに。』
『えっ‼︎』
『お母さんが嫌がって話さなかっただけだよ。』
話しの不穏な雰囲気を察したのか、
『美月ちゃんが、喜ぶと思ったんだけど、想像以上だった。龍咲に頼んで良かったよ。』
と口を挟んで藍蓮様は満足そうに微笑んだ。
私を着飾って、美月を喜ばせるより、美月を直接、着飾ったらいいのにと思って、
『私より、美月を着飾ったらいいと思います。』
と言うと、
『それはこれから一杯楽しむからね。今日は、特別な日だから、いいの。』
とすました笑顔で藍蓮様は言った。
昨日から、時々、藍蓮様は、何か意味深な物言いをする、何かを隠しているような…何だろう…?
それに、空気が読めるんだか、マイペースなんだか掴みどころがない…、
悪い人には、全く見えないし、美月を大事に思っているのは間違いないと思う。
それはそれで、藍蓮様の美月を見る目は、昨日、会ったばかりだと思うと引いてしまうくらい熱っぽさが過ぎると思うけど、
だからこその、
「花姫に会ったばかりの花王子は、みんなちょっと頭のネジがどうにかなる。」
って、神蛇先生の言葉なんだろうけど、花王子は、皆んなこんな調子なんだろうか…、
それに、藍蓮様だけじゃない、花姫会の千景さんや、龍咲さん、神蛇先生も、凄く芯が強くて、動じない…。なんとなく神獣人を敵に回したら怖そうだなと思った。
自分の容姿の話から話題を逸らしたくて、
『美月、内覧どうだったの?』
と話しを振った。
『2軒とも凄い豪邸だったよ。外観も、中も。美咲は、嬉しそうにはしゃいでいたけど…、私は、ちょっと、戸惑って…』
そこまで言うと話すのを躊躇うように口を閉じた。
どうしたのかな…と様子を見ていると、
『お姉ちゃん、あのね、私、お母さんたちとは、住まず、まだ、どっちかを決めてないけど、藍蓮様の家か、お母様の柘榴様の家に住むことにした。』
『そうなんだ。決められて良かったね。考えられなそうだったのに…。』
『一軒目を内覧して、外観から凄く大きくて、高級感がある家で、中も凄かったの。
中央区の殆どがそんな家ばかりだし…。
これから住む家って考えてその家の中を見ると、これからどうしようばかり思えて、
昨日、藍蓮様のお母様の家に泊まった時も、こんな大きな家の花姫なんてできるのかなって…思っていたんだけど…、
内覧が終わった後に、
藍蓮様と絢音さんと、車の中で思ってたことを話してたら、
絢音さんが、
『戸惑いますね。』
って言ったの。
その時にね。私、花姫として藍蓮様と住むことを考えているから、戸惑っているって気づいたの。
お母さんたちとは、住む気が無かったし、だったら、そうしようと思えたんだ。』
『そうなんだ。良かったね。』
隣の藍蓮様は嬉しそうに美月の話を聞いている。美月…だけじゃない、美月たちは、一歩ずつ前に進んでるんだなと思った。
食事が次々、運ばれてきた。
『冷める前に、食べよう。』
と藍蓮様が言ったけど、美月は、話し切りたかったのか、
『それで、そう決めたなら、早い方がいいって、藍蓮様が。
お母さんたちが、あーでしょ。心配だからって。私も、もうお母さんたちには、うんざりしてるし…。暫く距離を置こうと思って…。
家には、暫く帰らず、これから、ゆっくり両方の家を見せて貰って、藍蓮様や柘榴様と話し合って決めるつもりだから。』
と言った。
これを私に言いたかったんだな。私が一人になることを気にして居るんだろうなと美月の言葉を聞いてなんとなく納得した。
『そう。その方が私もいいと思う。それに、昨日から、聞きたかったけど、私が気を失っている間、お母さんたちと何かあったの?』
『…何かあったというか…、いつもと変わらなかった。』
一瞬、言おうか迷っているように見えたけど、口を開いた美月は、
『お姉ちゃん、倒れた時、息が止まったみたいにピクリとも動かなかったんだよ…
それなのに、お母さんは、いつもの体調不良だって言って心配していないし、
美月なんか、お姉ちゃんのせいで、また予定が狂うって、処置室の前で怒り出すし…、
お父さんが会社から駆けつけて来たけど、いつもみたいに、お母さんに調子を合わせているし…、
なんかもう呆れてしまったと言うか、もう親じゃない…まともなことが出来ない親なんだと思った。
美咲も、小さい頃はあんなじゃなかったから、ずっと元に戻って欲しいと思っていたけど、無理なんだって…急に、冷めた思いがして…だから、一度、離れて考えるのもいいのかも知れないと思ったの。』
と一気に話した。
なんとなく予想はしてたけど、やっぱりそんなことだったか…と思った。
『ごめん…。お姉ちゃん大丈夫…?』
『あ、うん。いつものことでしょ。大丈夫だよ。』
『いつものことって、普通じゃないよ。あんな家族‼︎』
いつになく、大きな声を出した美月を、藍蓮様が気遣う。
いくら花王子の藍蓮様に会ったからって、昨日の今日だ。美月だって気持ちの整理はつかないだろう。私だって正直、わけがわからないのだから…。
『美月、落ち着いて、私は、大丈夫だから。』
と言うと、
『お姉ちゃんは、ちょっと怒った方がいいんだよ。』
と不貞腐れたように美月は言った。
藍蓮様が美月の体を引き寄せて頭を撫でているのをボンヤリ眺めながら、
そんなことを言われても、怒ったところでどうにかなったりしないし、ずっと怒る暇すら私には、与えて貰えなかった、今更、何をどう怒ればいいんだろう…か?
そんなことを思っていた。
気持ちが落ち着いたのか、
『大きな声を出してごめんなさい。』
と言うと美月は、手をつけていなかった食事に手を伸ばして口の中に入れると、
『やっぱりここの料理、美味しいね。』
と少しぎこちなく笑った。
私も藍蓮様もホッとして、食事を取り始めた。
そこからは、穏やかに食事をした。