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美月の世話を任せた使用人から、眠りについたようだと報告を受けた藍蓮は、美月の部屋にそっと入ると、ぐっすり眠る美月の頬を愛おしげに撫でた。

やっと花姫に会えたのに、今日一日、悲しんで泣いたり、家族に怒ったり、不安や戸惑う顔ばかり見た。

このまま、僕の花姫や忍葉ちゃんを、家族の元には居させられない。一刻も早く手を打たないと…。

『間違いは無さそうだけど、一応、確認しないとね。』
そう呟くと、名残り惜しそうに、もう一度、ぐっすり眠る美月を見つめてから、美月の部屋を後にし、徐に電話を掛けた。

『もしもし、母さん。美月ちゃんを泊めてくれてありがとね。』

『そんなことは構わぬ。わざわざ電話して来て、どうしたえ。』

『ふっ。母さんのことだから、そろそろかけてくる頃だと思ってたんじゃないの?』

『どうじゃろうな。』

『忍葉ちゃんの花王子は、紫紺君かな?』

『わかったかえ。早かったの。』

『そりゃぁ。神蛇先生が、僕より上位って言ったんだよ。花王子でそんなの紫紺君、一人しか居ないじゃないか。 』

『そうじゃの。クククッ』

『母さん、忍葉ちゃんに、桜色のブラウスと桜のスカートを贈ったんだってね。』

『ああ、そうじゃ。』

『枝垂れ桜の花姫だもんね。忍葉ちゃんに、きっと似合うよ。』

『母さんのことだから、浅井家のこと、もう調べ終わってる頃だよね。』

『あー、今日、丁度、しっかり調べた報告書が届いたえ。』

『今日か、明日の早朝にも、紫紺君を連れて見に行くよ。』

『……そうかえ。千景に言うておく。』

『其方の花姫はどうじゃった?』

『そんなの可愛いかったに決まってるよ。』

『そうかえ。まあ、そうじゃなきゃ、抱きついたりしないじゃろうな。クククククッ』

『母さん…… 。 あっ、神蛇先生かっ‼︎』

『まあ、やっと会えたんじゃ。良かったな。今、花姫は、妾の家にいるんじゃろ?落ち着いておるか?』

『うん。今、眠ったところだよ。』

『そうかえ。朝には会えるの。紹介してくれるじゃろ?』

『ああ、そのつもりだよ。もう帰って来るだろう母さん。』

『もうすぐ家に着くえ。』

『僕ちょっと出掛けてくるから。花姫のこと頼んだよ。』

『わかった。ほな、切るえ。』

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電話を終えると藍蓮は、深く溜息を吐いた。

厄介だな。大変そうな家だ。

ここ数年、花紋を通して、花姫の苦しみを時々、感じてきた。

美月ちゃんの話しを聞いて、
あの家族と忍葉ちゃんに挟まれて葛藤してきたんだろう…とわかって納得はいった。

だけど、美月ちゃんは、これまで随分、傷ついてきたみたいだ。
それに姉の忍葉ちゃんは、痛々しかった。

美月ちゃんも忍葉ちゃんも何も悪くないのに…、2人とも心配だ。

忍葉ちゃんのことは、まぁ、紫紺君がなんとかするだろう。

あんなに花姫であることを、否定している忍葉ちゃんに、今、紫紺君を会わせることは、逆効果な気もするけど、だからって黙って置くわけにも、いかない。

花王子と花姫の絆は深い。
御霊還りなんだから、尚更だ。
そこに期待するしかない。

きっと大丈夫なはずだ。

とにかく僕は、今、僕のできることをしなくちゃ…ね。

そう決意を新たにすると、藍蓮はまた、病院へと戻って行った。