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ノックの音がして、
『美月ちゃん、忍葉ちゃん、入っていい?』

『あ、はい。』

愛蓮様とお医者様が一緒に入ってきた。

『先生連れてきたよ。こちら僕の尊敬する神蛇(かんじゃ)先生。内科の先生ではあるけど、色々な症例に詳しくて見立てが凄く正確なんだよ。
花姫様を診る専門医でもあるから安心だしね。
花姫様は、普通の女性とも、神獣人の女性とも、違うところがあるからね。』

『そんないい先生に診て貰わなくても…、私、花姫じゃないし…。』

『えっ?まだ、話してないの?』

『ええ。』
と、龍咲さん。

『そうかぁ。僕から話してもいい?』

『はい。お願いします。』

『忍葉ちゃん。忍葉ちゃんも、おそらく、花姫だよ。十中八九間違いないと思うよ。』

『へっ?』

『お姉ちゃん、へっ?って何よ。ちゃんと聞こえた?お姉ちゃんも、花姫なんだよ。』

言われたことが理解できて、慌てて手の甲を見た。

『…花紋ない…よ。』

『ここからは、私が、話してもいいかな藍蓮君。』

『ええ。お願いします。先生。』

『気分はどうだい?』

『倒れたっていうのが、嘘みたいになんともないです。爽やかというか、気分がいいくらいです。』

『そうかい。なら良かった。』

『だけどね、気を失った時、かなり血圧が下がって危険だったし、中々、目覚めなかった。それに、凄くうなされていたんだよ。
何か夢でも、見ていたかい?』

夢と聞いた途端に、真っ暗な光景が思い浮かんで、表情が強張った。

『思い当たることがあったら、話してみてくれるかい?』

『真っ暗な中にいて、泡?水疱がブクブクして…息が、喉が…苦しい…はぁ…』
急に苦しくなって、胸をギュッと掴んだ。

『大丈夫。落ち着いて、ゆっくり息を吐いて、吸ってごらん。』

『はぁ〜〜。すぅ〜。』

言われた通り、ゆっくり息を吐いて吸うを繰り返すと、また、何事も無かったように元に戻って来た。

『今の…何だったの…?倒れた時みたいだった…』

『おそらく、忍葉君の体験の記憶じゃないかな?それも、ずっと小さい頃のじゃないかと思うよ。』

『ずっと小さい頃の体験の記憶…えっ?何それわからない。』

『それでいいんだよ。わからない時は、わからないままでいい。
こういうものはね、忍葉君が思い出しても、大丈夫なときや、思い出す必要があるときに、思い出すようになっているからね。
今、無理に思い出すことはないよ。』

『…そうなの…?』