♢♢♢♢♢
やっと花姫かどうか確認する日が来た。
毎日、美咲がギャン、ギャン嫌味を言うかと半ば覚悟していたけど時々、嫌なことを言うこともあったけど、意外なほど美咲はおとなしかった。
花姫会の方が、帰った後、お母さんと2人で、何か真剣そうに話していたから、お母さんが何か言ったのかなと訝しんでしまった。
お父さんは、有給休暇を急遽取って、一緒に行く予定だったらしいけど、朝、お父さんの会社から、電話があって、仕事に行くことになった。
お父さんは、仕事に行く時、一緒に、行けないことをひとしきり残念がっていた。
昨日の夜、お母さんに、この間、美月に借りたワンピースを着るように言われたから、
美咲は、花姫会から頂いた服を、花姫会館に行く時に来ていくつもりだとばかり思っていたら、自分の服を着ていたので意外だった。
お母さんは、迎えに来た千景さんに、
『折角、ご用意して頂いたのに、忍葉ったら、あんまりにも可愛らしい服に、気後れしてしまったようで、似合うだろうから着てみるよう言ったんですけど…ね。
どうしても着たがらなくて…。』
と長い演説を披露した。
『そうでしたか…。柘榴様が忍葉様に贈られたものですから、私が口を挟むことでは、ありませんが…』
と言ってから、
『忍葉様。柘榴様は、着ることを無理強いなさったり致しませんから、忍葉様が、着てみたい気持ちになられた時に、着て頂ければ宜しいかと思います。』
と私に向けて話すと微笑んでくれた。
元々、上手く言葉にできない複雑な気持ちがあったけど、面と向かって言われて、本当のことを言わない罪悪感を強く感じて、申し訳無さで一杯になった。
だけど、私に向かって話して下さったことは、とても嬉しかった。
普段、その場に私が居ても、私が居ないかのように大人だけで話すか、私に話し掛けることがあっても、
『忍葉ちゃん。お母さんに心配ばかり掛けてはダメよ。』
って言葉が殆どだったから。
急に、自分の方を向いて、思い掛けない言葉を掛けられたから、面食らってしまって黙ってしまった。
『もう忍葉ったら、折角、お気遣い頂いたのに、黙り込んで、お礼くらい言いなさい。』
とお母さんにピシャリと言われて身体がピクっとした。
『構いませんよ。』
と千景さんは言っていた。
何というか、千景さんは、はっきりした物言いをするけれど、終始柔らかい雰囲気のせいか?キツイ印象を受けない。そして何より、お母さんのペースに全く巻き込まれない。
美月が、他の人と違う感じだったと言っていたのは、このことなのかなと思った。
それから、直ぐ、お母さん、美咲、美月と私で、迎えの車に乗って、花姫会館に着いたのが、11時半。
そのまま、花姫会館内にあるレストランで、先に早めの昼食をとった。
食後、お母さんが思い出したようにかばんから水筒を出した。
ステンレスで、蓋の縁に色違いのラインが入っている以外、色も柄もないシンプルな小さい水筒だった。今まで見たことが無かったから、お母さんが、今日のために用意した物なんだろうと思った。
蓋の縁の色は、ピンク、水色、黄色と三色で、ピンクを美咲、水色を美月、黄色を私に渡し、
『暑いから各自で水分補給してね。』
と言った。
美月が嫌そうな微妙な表情をしたのが、気になった。
お母さんは、自分本位な世話を焼くから、美月は、いつも嫌がる。
でも、美月のさっきの表情は、嫌というより、何を企んでいるのかと訝しんでいるように見えた。
美咲は、
『ありがとう。お母さん。』
と素直に喜んでいる。
普段の美咲を知らない人は、美咲の態度を見て、素直で可愛いと思うんだろうけど、
こういうところを見る度に、美咲は、親に頼りきりの子どものままなんだといつも思う。美月より凄く幼いというか、幼稚に見える。
『そろそろ出ましょうか?』
とお母さんが言った。
皆でお店を出て、食事が済んだら来るように言われていた洋風の応接室へ向かう途中、美月が、急に腕を掴んで、
『あっ、お母さんちょっと待って。トイレ行ってくる。お姉ちゃんも行こっ。』
と言って半ば強引にトイレ連れて行かれた。
『どうしたの?』
『お姉ちゃん、水筒出して。』
『えっ?』
『いいから。』
と言って、私からカバンを取ると、水筒を出して、自分の水筒の蓋と付け替えて、元々、美月の水筒だった方を私に渡した。
『何?何でこんなことするの?』
『わからないけど…、おまじない。』
美月は、そう言った。
意味が全くわからなかったけど、それ以上、追求する気にはなれなかったから、美月の気が済んだならいいと思うことにした。
トイレから出ると、
『もう、貴方たちは。トイレならお店を出る前に済ませたら良かったのに。』
とお母さんが、小言を言った。
応接室につくと、千景さん、龍咲さんともう一人知らない女性が居た。
私たちに気づくと、千景さんが、
『戻られましたね。こちらへどうぞ。』
と、ソファまで案内してくれた。
皆がソファに掛けると、
『紹介させて頂きますね、私、五百雀 綾音と申します。
今日の花姫の確認に千景と龍咲と共に、付き添いさせて頂きます。』
『母親の浅井 晶子と、娘の美咲、美月と、忍葉です。娘たちを、宜しくお願いします。』
『それでは、早速ですが、今から、花姫かどうかの確認について説明させて頂きます。』
と、千景さんが言った。
『お話が済みましたら、花姫会館の裏にある
明和神宮に行って頂き、そこで、神力を高める石の前で、お香を炊きまして、祈祷を行います。』
『えっ‼︎祈祷。そんなので、花姫かどうか確認できるの?』
『美咲。騒がないの。』
『だってそんな非科学的な方法…』
もっと医学的な検査をするものだと思っていたから、騒ぎはしなかったけど、正直、美咲と同じ気持ちだった。
『皆様、祈祷というと一様に驚かれますね。
説明させて頂いて宜しいでしょうか?』
皆が頷いたり、返事をするのを確認してから、千景さんが説明を始めた。
『人間の女児の場合は、番の花紋は、
子どもから大人の女性へと成長していく年頃になると、自然に、手の甲に現れます。
花姫になる方は、生まれつきそうなる体を持って生まれて来られます。
ですので女性としての健やかな成長を願う御祈祷を行います。
花姫さまは、普通の人間と違って、神獣人と同じように神気を通しますので、こういった神社や神宮の神聖な空間や祈祷というのは、影響を受けやすいです。そこに神気を高める石やお香の力を借りて花紋を少し強制的に現れるよう促します。』
『花姫じゃなければ、何の影響もないってことですか?』
『そうです。全く何も起きませんね。』
『それから、前も申しましたが、100%では、ありません。
ただ、忍葉様も、美月様も、花姫様であれば、年齢的に影響が出るかと思います。
もし、花紋が現れましたら、速やかに花紋を照合致しまして、お相手の花王子様に連絡させて頂きますが、宜しいでしょうか?』
『いいわよね。宜しくお願いします。』
『それでは、これから明和神宮へ移動したいと思います。宜しいでしょうか?』
皆が頷くのを確認すると千景さんは、立ち上がった。
千景さん、龍咲さん、綾音さん3人に案内され移動を始めた。
やっと花姫かどうか確認する日が来た。
毎日、美咲がギャン、ギャン嫌味を言うかと半ば覚悟していたけど時々、嫌なことを言うこともあったけど、意外なほど美咲はおとなしかった。
花姫会の方が、帰った後、お母さんと2人で、何か真剣そうに話していたから、お母さんが何か言ったのかなと訝しんでしまった。
お父さんは、有給休暇を急遽取って、一緒に行く予定だったらしいけど、朝、お父さんの会社から、電話があって、仕事に行くことになった。
お父さんは、仕事に行く時、一緒に、行けないことをひとしきり残念がっていた。
昨日の夜、お母さんに、この間、美月に借りたワンピースを着るように言われたから、
美咲は、花姫会から頂いた服を、花姫会館に行く時に来ていくつもりだとばかり思っていたら、自分の服を着ていたので意外だった。
お母さんは、迎えに来た千景さんに、
『折角、ご用意して頂いたのに、忍葉ったら、あんまりにも可愛らしい服に、気後れしてしまったようで、似合うだろうから着てみるよう言ったんですけど…ね。
どうしても着たがらなくて…。』
と長い演説を披露した。
『そうでしたか…。柘榴様が忍葉様に贈られたものですから、私が口を挟むことでは、ありませんが…』
と言ってから、
『忍葉様。柘榴様は、着ることを無理強いなさったり致しませんから、忍葉様が、着てみたい気持ちになられた時に、着て頂ければ宜しいかと思います。』
と私に向けて話すと微笑んでくれた。
元々、上手く言葉にできない複雑な気持ちがあったけど、面と向かって言われて、本当のことを言わない罪悪感を強く感じて、申し訳無さで一杯になった。
だけど、私に向かって話して下さったことは、とても嬉しかった。
普段、その場に私が居ても、私が居ないかのように大人だけで話すか、私に話し掛けることがあっても、
『忍葉ちゃん。お母さんに心配ばかり掛けてはダメよ。』
って言葉が殆どだったから。
急に、自分の方を向いて、思い掛けない言葉を掛けられたから、面食らってしまって黙ってしまった。
『もう忍葉ったら、折角、お気遣い頂いたのに、黙り込んで、お礼くらい言いなさい。』
とお母さんにピシャリと言われて身体がピクっとした。
『構いませんよ。』
と千景さんは言っていた。
何というか、千景さんは、はっきりした物言いをするけれど、終始柔らかい雰囲気のせいか?キツイ印象を受けない。そして何より、お母さんのペースに全く巻き込まれない。
美月が、他の人と違う感じだったと言っていたのは、このことなのかなと思った。
それから、直ぐ、お母さん、美咲、美月と私で、迎えの車に乗って、花姫会館に着いたのが、11時半。
そのまま、花姫会館内にあるレストランで、先に早めの昼食をとった。
食後、お母さんが思い出したようにかばんから水筒を出した。
ステンレスで、蓋の縁に色違いのラインが入っている以外、色も柄もないシンプルな小さい水筒だった。今まで見たことが無かったから、お母さんが、今日のために用意した物なんだろうと思った。
蓋の縁の色は、ピンク、水色、黄色と三色で、ピンクを美咲、水色を美月、黄色を私に渡し、
『暑いから各自で水分補給してね。』
と言った。
美月が嫌そうな微妙な表情をしたのが、気になった。
お母さんは、自分本位な世話を焼くから、美月は、いつも嫌がる。
でも、美月のさっきの表情は、嫌というより、何を企んでいるのかと訝しんでいるように見えた。
美咲は、
『ありがとう。お母さん。』
と素直に喜んでいる。
普段の美咲を知らない人は、美咲の態度を見て、素直で可愛いと思うんだろうけど、
こういうところを見る度に、美咲は、親に頼りきりの子どものままなんだといつも思う。美月より凄く幼いというか、幼稚に見える。
『そろそろ出ましょうか?』
とお母さんが言った。
皆でお店を出て、食事が済んだら来るように言われていた洋風の応接室へ向かう途中、美月が、急に腕を掴んで、
『あっ、お母さんちょっと待って。トイレ行ってくる。お姉ちゃんも行こっ。』
と言って半ば強引にトイレ連れて行かれた。
『どうしたの?』
『お姉ちゃん、水筒出して。』
『えっ?』
『いいから。』
と言って、私からカバンを取ると、水筒を出して、自分の水筒の蓋と付け替えて、元々、美月の水筒だった方を私に渡した。
『何?何でこんなことするの?』
『わからないけど…、おまじない。』
美月は、そう言った。
意味が全くわからなかったけど、それ以上、追求する気にはなれなかったから、美月の気が済んだならいいと思うことにした。
トイレから出ると、
『もう、貴方たちは。トイレならお店を出る前に済ませたら良かったのに。』
とお母さんが、小言を言った。
応接室につくと、千景さん、龍咲さんともう一人知らない女性が居た。
私たちに気づくと、千景さんが、
『戻られましたね。こちらへどうぞ。』
と、ソファまで案内してくれた。
皆がソファに掛けると、
『紹介させて頂きますね、私、五百雀 綾音と申します。
今日の花姫の確認に千景と龍咲と共に、付き添いさせて頂きます。』
『母親の浅井 晶子と、娘の美咲、美月と、忍葉です。娘たちを、宜しくお願いします。』
『それでは、早速ですが、今から、花姫かどうかの確認について説明させて頂きます。』
と、千景さんが言った。
『お話が済みましたら、花姫会館の裏にある
明和神宮に行って頂き、そこで、神力を高める石の前で、お香を炊きまして、祈祷を行います。』
『えっ‼︎祈祷。そんなので、花姫かどうか確認できるの?』
『美咲。騒がないの。』
『だってそんな非科学的な方法…』
もっと医学的な検査をするものだと思っていたから、騒ぎはしなかったけど、正直、美咲と同じ気持ちだった。
『皆様、祈祷というと一様に驚かれますね。
説明させて頂いて宜しいでしょうか?』
皆が頷いたり、返事をするのを確認してから、千景さんが説明を始めた。
『人間の女児の場合は、番の花紋は、
子どもから大人の女性へと成長していく年頃になると、自然に、手の甲に現れます。
花姫になる方は、生まれつきそうなる体を持って生まれて来られます。
ですので女性としての健やかな成長を願う御祈祷を行います。
花姫さまは、普通の人間と違って、神獣人と同じように神気を通しますので、こういった神社や神宮の神聖な空間や祈祷というのは、影響を受けやすいです。そこに神気を高める石やお香の力を借りて花紋を少し強制的に現れるよう促します。』
『花姫じゃなければ、何の影響もないってことですか?』
『そうです。全く何も起きませんね。』
『それから、前も申しましたが、100%では、ありません。
ただ、忍葉様も、美月様も、花姫様であれば、年齢的に影響が出るかと思います。
もし、花紋が現れましたら、速やかに花紋を照合致しまして、お相手の花王子様に連絡させて頂きますが、宜しいでしょうか?』
『いいわよね。宜しくお願いします。』
『それでは、これから明和神宮へ移動したいと思います。宜しいでしょうか?』
皆が頷くのを確認すると千景さんは、立ち上がった。
千景さん、龍咲さん、綾音さん3人に案内され移動を始めた。