ノックの音と共に、
『お姉ちゃん、お粥できたよ。下で食べよ。早くおいでよ。』
と言う美月の声が聞こえた。

『わかった。今、行く。』
と答えると、ベッドから起き上がった。

廊下に出ると、階段を降りる美月の後ろ姿が見えた。後を追いかけるように、階段を降りる。

リビングに行くと、ダイニングテーブルの私が座る席の上に、一人用の土鍋があった。

私の分のお粥だろう。

早速、席に座ると、
『早く開けてみてよ。』
と美月。

蓋を開けると、
『わあ〜。凄い美味しそう。』
思わず声が出た。

『それに、凄くいい匂いがするよ。』

『ヤッター。凄く美味しそうに出来たと思ったんだよねー。ふふふっ。天才かも私。』

『うん。天才。天才。』

と言うと可笑しくなってきて、吹き出して笑った。
美月も、つられたのか?吹き出して笑う。

ひとしきり笑ったあと、
『早く、食べてみてよ。』
と美月。

『うん。いただきます。』
と言ってから、
蓮華ですくって、フゥフゥして、口の中に入れる。

『おいひいよ。トマトが熱いけど美味しい。洋風のミルク粥だけど、すっごくアッサリしてて食べやすいね。これ。』

『でしょ。でしょ。』
と美月は得意気。

『美月も早く食べなよ。スパゲティ伸びちゃうよ。』

『うん。いただきます』
と言って美月も食べ始めた。

『美味しい?』

『うん。安定の味。なんたって混ぜるだけだからね。ふふふっ』

『安定の味…かあ。』

『これ食べたら一緒にプリン食べようよ。』

『…でも。』

『大丈夫だよ。買い物して帰って来るって言ってたから、まだ、時間は充分あるし。私が2個食べたことにするから。任せといて。』

『…うん。そうだね。食べよう。プリン。』

『そう来なくっちゃ。美味しい飲み物も淹れよう。何にしよっかな〜。』

美月が真剣に考え出した。

暫くして、何か思いついた顔をして、

『ねぇ。ねぇ。お姉ちゃん、久しぶりにアレ作ってよ。』

『アレって何?』

『アレだよ。アレ。コーヒぎゅうにゅ。』

と言って吹き出した。

つられて噴き出す。

また、ひとしきり笑うと、涙を拭きながら、
『麦茶のコーヒー牛乳ね。懐かしいね。』

『うん。早く食べて、コーヒぎゅうにゅと、
プリンでティータイムしよ。』

『そうだね。』

ここまで陽気に話していた会話がプツリと途絶え、暫く2人で、黙々とご飯を食べた。

昨日、美咲が花姫になったことで、これからのことが心に引っかかって、会話を楽しむ気になれなかった。

昨日から、ずっと、行き先のわからない船に乗った気分だ。

美月もそうなんだろう…。

暫くして、美月が躊躇いながら話し始めた。

『…お母さんさぁ、また、お姉ちゃんが、見た目を気にして…って話を花姫会の人にしてたよ。話しの感じから、昨日の夜に電話で話してたみたいだった…。』

『昨日、皆んなで花姫会館に行くって話していた時は、お姉ちゃんが行くことに反対してる感じ全く無かったよね。』

『うん。無かった。珍しいなと思ってた。』

『私は、良かったなって思ってたのに…。
なのに、昨日の電話では、お姉ちゃんは、行きたがらないみたいなことを言ってたみたいなんだよね…。』

『えっ?……そう…。』

美月の言葉に、驚いたけど、妙に納得もした。いつものお母さんなら私を、花姫会館に行かせたりしない。
あっさりというか、当たり前のように、美月と一緒に、花姫かの確認をするために花姫会館に私を行かせることの方が、いつものお母さんと違う、不自然なことだったから。

『朝、お姉ちゃんに、花姫かを確認させるのは酷だって、涙ぐんで花姫会の人に言ってたんだよ。お姉ちゃんを受けさせずに、私だけさせたい感じだったんだよね…。
お母さんが何を考えてるかわからなくて…時々、凄く恐い…と思うんだよね…。
今日は、特にそう思った…。』

『そう…。』

『でも、迎えに来た花姫会の虎伏(こぶし)さんって人は、全然、お母さんの言葉に影響されてなかったの。毅然としてるっていうか…、

今までお母さんの話を聞いた人たちの反応と違う感じで、お姉ちゃんが来れないなら、中止しましょう。って一歩も引かず、爽やかな笑顔で帰って行ったの。』

『そう…。』

美月は、虎伏さんに、何か思うところがあったみたいだった。
会っていない私には、よくわからなかったけど、何か期待しているような感じがした。