リビングで、当たり前のように、忍葉を抜きにして、お昼を食べに行く話が始まった頃、

部屋にポツリと取り残された忍葉は、先程の母親とのやり取りに思いを馳せていた。


忍葉は、幼い頃から、
母親に冷たい目で見据えられ、
『忍葉、わかったわね。』
と言われると、

いつも、

逃れられない冷たくて狭い牢獄に閉じ込められたような気持ちになり、

『わかった。』
としか言えなくなった。

そんな弱い自分が嫌で、嫌で、仕方がなかった。

そんな思いに囚われる度、
どうして私は、美月のように、言い返すことすら出来ないのだろう。
と思っては、自分を責めることを繰り返してきた。


同じ両親の元に生まれたとはいえ、
残念なほどに、忍葉と美月の育ち方は違った。

美咲とは、段差がつけられたものの、
母親に、双子の片割れとして、
生まれた時から大事に育てられた美月は、
自由に話し、動き回り、必要な物を与えられて育っている。

双子の美咲とは、生まれたときから、一緒に泣き、楽しく遊び、時に喧嘩して、対等な時を過ごしてきた。

幼い頃から、自由に話し動き回ることすら許されず、必要なものすら満足に与えられることなく、
自己主張をするどころか、一方的に、指示されたり、決めつけられて、話すらまともにさせて貰えず育った忍葉は、主張を聞いて貰えることすら知らない。

全てではないが、主張を聞いて貰って育った美月が、言い返せるようになったことが当たり前のように、

主張を聞いて貰わず育った忍葉が、言い返せないようになったのも、当たり前のことなのだが、
自分以外の育ちの体験は、誰だってない。

体験が無く経験としてわからない忍葉は、
自分は、どうして美月のように言い返すことすらできないのか?
という自分の問いに、答えなど見出しようもなく、

本当は、責める必要すらないことだとすら気づくことも出来ず、

自分を責めて過ごすよりない閉じ込められた狭い世界を生きていた。