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バンッと音を立てて、部屋のドアが開く。

『ちょっと〜。お姉ちゃん。
お姉ちゃんのせいで、翔と会えないじゃない‼︎欠陥品のお姉ちゃんが、家族として存在してるだけで十分迷惑なのに、
その上、迷惑を掛けることしないでよ。』

眠っていた忍葉は、ドアの開くバンという音で目を覚ましたものの、

いきなり現れて捲し立てる美咲をただ、呆然と見ていた。

『何、ボーッとしてるのよ。
お姉ちゃんのせいで、翔と会えないって言ってるじゃない。謝りなさいよ。』

『…私のせいで、翔さんと会えないってどういうこと?』

『あー、もう。お姉ちゃんって、ホント、鈍いわね。』

『お姉ちゃんが、今日、花姫会館に行けなかったせいで、美月とお姉ちゃんが、花姫かどうかがハッキリしないから、私が翔と会えないのよ。』

益々意味がわからない忍葉は、黙り込む。

『ちょっと〜。黙り込むのやめて‼︎って、いつも言ってるでしょ。』

そこに騒ぎを聞きつけたお父さんとお母さんが、やってきた。

『何をまた、騒いでいるんだ。』

『もうどうしたのよ、美咲。忍葉なんかを相手に騒いだりして。』

『だって、お母さん‼︎お姉ちゃんのせいで、翔と会えないんだよ。』

美咲の言葉に、母、晶子の顔色が変わった。

『どういう事?美咲。』

『翔が、姉妹が花姫かどうかが、ハッキリするまでは、会うことができないって。』

意外な美咲の言葉に、父、清孝と母、晶子は、顔を見合わせた。

『どういうことだ?』

『どういうこと?美咲。
どうして、姉妹が花姫かどうかハッキリしないと、翔君と会えないの?』

『決まりだって。神獣人一族と花姫会で決まっているんだって。』

要領を得ない美咲の答えに、また、夫婦顔を見合わせる。

『どうしてそんな決まりがあるの?』

『わかんない。翔、教えてくれなかった。』

翔は、順序立てて説明していたのだが、
姉妹が花姫かハッキリするまで会えない。
という翔の言葉を、忍葉のせいで会えないと受け取った美咲は、忍葉への怒りで、その後の翔の話を聞いていなかったのだ。

『困ったわね…。』

『また、次、花姫会館に行く日取りを決めるだろ?その時に、花姫会に聞いたらどうだ?』

『そうね。忍葉の体調が良くなったら、連絡下さい。とあの人、言ってたわね。』

『そういえば、忍葉。』

急に、名前を呼ばれた忍葉は、体をビクッとさせた。

『…何?』

『体調は、良くなったのか?』

本当は、まだ、気怠いのだが、具合が悪いことを知られれば、また迷惑をかけると責め立てらると恐れ忍葉は、

『はい。もう大丈夫です。』
と答えた。

その言葉に、また腹を立てた美咲。

『お姉ちゃん、すぐ良くなる癖に、吐いたりするの、ホント辞めてよね‼︎
構って欲しいアピールなのか知らないけど、具合悪くたって構って貰えないでしょ。
吐いたって無駄なのよ。無駄。
もう、無駄なことしないでよ‼︎』

『忍葉が、大丈夫なら、花姫会の方に、連絡して次の予定を決めていいわね。』

『おう、そうだな。ついでに、神獣人一族と花姫会の決まりについて聞いてくれよ。』

『勿論よ。私の大事な2人の娘が、いずれ身を置く神獣人一族の決まりですもの。
双子の花姫の母親として、しっかり聞いておかなくちゃ。ふふふっ。』

もう双子の花姫の母親気取りになっている晶子に内心、呆れつつ、
『頼んだぞ。』
というと清孝は、忍葉の部屋を出ていった。

『忍葉、何か食べれそう?』

『はい。』

『そう。もうすぐお昼だから、何か消化の良さそうなものを持ってくるわ。
それを食べたら、もう少し休みなさいね。
今日は、手伝いは、いいわ。次は、体調を崩さず、花姫会館に行って貰わないといけないから。』

お母さんは、優しそうな声音でそう言うと、冷たい目で、私をしっかり見て、

『忍葉、わかったわね。』
と言った。

いつものように、
『はい。お母さん。』
とだけ忍葉は答えた。

忍葉の返事を聞くと、母親、晶子は、満足そうな顔をして、

『さあ、美咲、こんな狭い部屋にいつまでも居ないで、リビングへ行きましょう。』
と言った。

『でも、お姉ちゃんが…』

まだ、文句が言いたりないのか?
忍葉の部屋から動こうとしない美咲に、

『大丈夫よ。もう、忍葉に邪魔はさせないわ。』

と母、晶子が声を掛けると、

『お母さんがそう言うなら。わかった。』
と、動き出し、

忍葉の部屋を出る時、振り返って、
『次、邪魔したら、許さないから。』
と吐き捨てるように言うと、

先に階段を降りる母親に、
『お母さ〜ん。』
と駆け寄っていった。

『久しぶりに、お昼は何か食べに行きましょうか?』

という母親の一言で、行きたいお店の話が始まった。

『お昼なら、まつもと屋の欧風オムライスがいい。』

まつもと屋は、若い頃、ヨーロッパで修行した店主が腕を振るう卵料理が人気の洋食屋だ。

双子の美月と美咲が小さい頃、家族4人でよく行ったお店だ。

『美咲は、まつもと屋のオムライスが、ホント好きねー。』

『だってあそこの卵は、ふわっふわのトロトロで、バターやミルクが一杯で、クリーミーで、すっごく美味しいじゃない。』

『引越して、お店がせっかく近くなったのに、最近、全然、行ってなかったじゃない。絶対、まつもと屋がいい。』

『そうね。まつもと屋に行きましょうか。』

2人で話しながらリビングに来ると、

『貴方〜。お昼、家族4人で、まつもと屋に行きましょ。』
と居間で、TVを観ている夫に声を掛けた。

『まつもと屋か!暫く行ってなかったな。
あそこのオムライスの玉子は、旨いよな。
久しぶりに家族で行くか。』

『ヤッター。美月、呼んで来るね。』

『待って。美咲。そう言えば、美月は、最近、家族と外食したがらないじゃない。行かないって言うかもしれないわ。』

『えー。そうだったっけ?』

『あー。そう言えば…誕生日のお祝いの時、
絶対行かないって、結局、行かなかったな。』

『あっ、そんなことあったわね。でも、大丈夫。まつもと屋は、絶対、別よ。』

と言うと、美咲は、リビングを小走りに駆けて行った。

『忍葉は、どうするんだ?』

『ゼリータイプの栄養ドリンクがあるから、それを飲ませるわ。
まつもと屋は、オムライスのお持ち帰りが出来るから、忍葉に買って帰ればいいわよ。
その頃には、食べられるでしょ。』

バタバタと音を立てて階段を降りてくる音が聞こえたかと思ったら、すぐ美咲が美月の手を引いてリビングに入って来た。

『もう、美月ったら、まつもと屋に行かないって。』

『いい加減、放してよ。』
と言って、美月は、美咲の手を振り解いた。

『私が花姫になったからって、いつまで拗ねてたら気が済むのよ。』

『そんなんじゃない。』

『お母さん、お昼くらい自分で用意できるから、3人で行って来なよ。』

『そう言うと思ったわ。美咲、3人で行きましょ。』

『えー。美月と一緒がいい。』

『まぁ、仕方ないじゃないか。美咲。
それに花姫になったから、これからは、俺たちとまつもと屋へは、行けなくなるかもしれんし…3人で行くのもいいんじゃないか?』

『えー。まつもと屋に行けなくなるの?』

『中央区管内に住んで、この辺じゃ警備がいるならそうなってもおかしくないわね。』

『そっかぁ。ショックだけど、翔の花姫になるためだから仕方ないかぁ。』

『わかった。美月の態度は気に入らないけど、3人でいいわよ。』

『じゃ、私は、忍葉に栄養ドリンク渡してくるわ。』

『えっ?お姉ちゃんのお昼。栄養ドリンク?ハハハッ』

『とりあえずね。まだ、食欲無さそうだったから。まつもと屋でオムライスお持ち帰りするわ。美月もいる?』

『いい。要らない。ついでだから、お姉ちゃんの分も、お昼用意するから、お持ち帰りしなくていいよ。
栄養ドリンクは、私がお姉ちゃんに渡すから、あそこ、混むからもう行って来なよ。』

時計を確認した父親が
『そうだな。今なら、まだ、並ばなくて入れそうな時間だ。急ごう晶子。』

『そうだ。混むとあそこ、凄く並ぶのよね。早く行こうよ。お母さん。』

『わかったわ。じゃ、お願いするわ。栄養ドリンクは、キッチンの缶詰めとかを置いている棚にあるから。わかる?』

『わかるから大丈夫だよ。』

『そう。じゃ行ってくるわね。あっ、ついでに買い物もしてくるから。後、宜しくね。』
そう言うと、
お母さん、お父さん、美咲、揃って、慌しく出掛けていった。