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材料を一通り貰ってエプロンも借りて料理を始めた。

白銀さんが材料は一通りあると言っていたけど、本当になんでも揃ってた。

料理を初めたら、紫紺様が、キッチンカウンターに座った。

『仕事はいいの?』

『いい。』

『……ずっと見てる気?』

『ダメか?』

すっごく悲壮な顔をして聞いてくる。顔がズルい。そんな顔したらダメっていいにくい。

『あっじゃ、そこでお手伝いしてくれたら、いいよ。』

『俺にできるか?』

『あ、うん。大丈夫。手を洗って紫紺様。』

『ああ。』
と言って、手を洗いに行った。

わざわざ洗面所まで行くんだ。
キッチンが今までなかった生活ってこうなんだなと思った。

戻ってきた紫紺様の前に、
解凍した鞘付き枝豆を置いて、

『こうやって中身をここに入れて、皮はこっち。全部お願いします。』

『わかった。』

そこに美月と道忠さんが、なぜか一緒に、櫻葉さんに案内されてリビングに入ってきた。

『2人がどうして一緒なの?』

『玄関で会いまして。それよりも、紫紺様は何をなさっておいでですか?』

『忍葉。これは何の作業だ?』

『枝豆の鞘取りだよ。』
と美月。

『なぜ紫紺様がその様なことを?』

『料理するのを見てるって言うから、ただ、見られてたら恥ずかしいから。』

『……そうですか。』

『道忠、決まったのか?』

『はい。それと他にもお話しが…。』

『忍葉。まだ、残っているが、道忠と話してくる。』

『うん。』

『私がやる。紫紺様、手を洗うなら、そこ。』
と美月が指を指した。

『あっ、そうだな。』

紫紺様が手を洗うと、道忠さんと、リビングを出て行った。

2人が出て行ってから、
『紫紺様の枝豆の鞘取り姿が見れるとは思わなかった。

家にキッチンがあるっていいね。家って感じする。お姉ちゃんが立っているし…。
私のお母さんは、ある意味、お姉ちゃんかも…。

さっき、お姉ちゃんが、料理するって聞いたら、もう食べたくて仕方なくなって気づいた。家庭の味って、お姉ちゃんの味なんだよ。私。』

『美月は、そうかも…ね。私の家庭の味は、旅館の出汁だったけど。』

『藍蓮様は?一緒じゃないの?』

『夜勤で、明日の昼頃、帰るはず。柘榴様も、今日は遅いって。』

『それじゃ、寂しいね。』

『うん。でも、使用人は一杯いるし、家みたいにギスギスしていないから、楽。

ただ、やっぱりお姉ちゃんが居ないと、色々、話したいことが溜まっていく。

今の変化って誰にでも話せる話しじゃないし、学校休みだし、あっても転校生になるし…、暫く大変そう。

夏休みの間は、時々、ここに来たらいいんじゃない?私も、色々、美月と話したかったし…。』

『うん。そうする。紫紺様にも、聞かないとね。あー、なんかホッとした。気づいてなかったけど、寂しかったのかも?』

『お姉ちゃんが居て良かった。ほかの花姫はどうしているのかな?みんなが姉妹で花姫ってわけじゃないでしょ。』

『どうなんだろうね。』

本当にそうだ。私たちは、今、恵まれているのかも知れない。

美咲はどうしているんだろう…。

『お姉ちゃん、終わったよ。次、何手伝う?』

『まず、それ片付けて。』

『わかった。』

『急に来て良かった?』

『うん。紫紺様は、無理するからって、そこは心配してたけど、私が作った料理は食べたかったみたいだし、

私、遠慮してて…。紫紺様の食生活と私じゃ…ね。

私が作る物を、一食丸っと食べさせてしまっていいものか?
踏ん切りがつかなかったの。

だから、味噌汁と時々、ちょっとしたものだけ作ろうと思ってた。

美月の切羽詰まった声を聞いたら、吹っ切れた。

電話でオクラって言ったでしょ。

本当は、オクラとか、茹でたほうれん草に、鰹節をかけて、お醤油垂らすみたいなシンプルなものとか、切ったトマトとか、洗ったきゅうりとか、凄くシンプルなものが、無性に食べたかったの。』

『わかる〜。私もなんでかそういうの食べたかった。』

『美月もなんだ…。なんでかな…。
あっ。食べちゃいけないって思ってたからかも…。』

『あ〜、そうかも。ちゃんとした料理が、凄いお皿で出てくるし、カトラリーも、箸だけじゃないし…。納得。』

『それはそうと、お姉ちゃんって、踏ん切りつくと、大胆だよね。』

『そう?』

『だって、踏ん切りついたからって、いきなり紫紺様に、枝豆の鞘取りさせる?
それにこないだは、告白してたし…。』

その言葉で、紫紺様の花紋を触ったことを思い出して、一気に赤面した。

『お姉ちゃん、真っ赤になって…、思い出したの?本当、恥ずかしがりだよね。』

紫紺様のご両親と話した時のことまで、思い出してきた…。

『美月、その話し後にして。手を切りそう。』

『はいはい。次は何する?』

『これ潰して。』

今、私に手を切られたら困ると思ったのか?それからは、話題は、美月がお祖父ちゃんの家から帰ってからの日々についてに変わった。

美月の話を聞きながら料理が終わる頃、紫紺様が戻って来た。

『道忠さんは?』

『帰ったよ。』

『えっ?そうなの?ついでだから、食べて行ったら良かったのに。もう遅いじゃない。』

『家に帰れば、ご飯はあるだろ。』

『そうだった。』

『ついでだから、食べていったらいいって、お姉ちゃんって、新婚っていうより、ベテラン主婦みたいだよね。女子高生なのに。』

『新婚…。』

真っ赤になったのを見て美月が、

『お姉ちゃん、そこで赤面するの?本当照れ屋だね。花姫なのに、大丈夫なの?』

『大丈夫だ。忍葉は、何をしても可愛い。』

プシュンと座り込んでしまった。

今日の紫紺様は、攻撃力が高い。

『お姉ちゃん、こっち座ってて、後、あれ運ぶだけ?』

ヨロヨロと椅子に座ると、紫紺様が頭を撫でてくる。

それを美月が面白そうに見てるのが見えた。

『美味そうだ。それに品数が多くないか?』

『うん。なんか吹っ切れたら、色々、作って食べたくなって…。』

『うん。食べよう。頂きます。』
と言ったら、

紫紺様が、
『忍葉の祖父母の家でもそうだったけど、自分の家で、大皿から、料理を取るのは初めてだな。』
と言った。

『あっ、それだ‼︎』
と美月が言った。

『無性にお姉ちゃんが作ったものが食べたかった理由。柘榴様の家の食事、美味しいんだけど、なんか足りないって思ってた。
これだった。』

『やっぱり。』

『えっ‼︎お姉ちゃん、わかってたの?』

『美月が食べたがったものって、美月の好きなものだけど、全部、大皿に盛ってた物ばかりだったし、私もなんか物足りない気がしてたから。

だから、ゴボウフライも作った。
美月好きでしょ。それに、手でとって食べれるような、しちゃいけなさそうなものが食べたかったから、美月もそうかと思って。』

『そういうことか‼︎紫紺様、時々、お姉ちゃんのご飯食べに来ていい?』

『ああ。泊まって行ってもいいぞ。
今は、両親や美咲のこともあるし、
新しい生活に慣れるまでは、互いに必要な話し相手だろう。』

紫紺様は、察しがいいなと思った。

『今日は?今日、泊まっていい?』

『ああ、俺はいいぞ。』

『お姉ちゃんもいい?』

『家の方が良ければいいよ。』

『良かった。2人で色々、話したかったんだ。なんかホッとした。話せるって大事だね。』

美月は相当溜まってたんだなと思った。