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朝食を食べている時に、紫紺様が、

『自分の家のダイニングに入って、あんな風に味噌汁の匂いがしたのは初めてだ。いいものだな。』
と言ったのが嬉しかった。

思い出して、ついこの間お祖父ちゃんとお祖母ちゃんとした子どもの醍醐味の話をした。

朝食の後、少しゆっくりしてから、紫紺様と本宅に挨拶に行った。

もの凄く緊張していたけど、
紫紺様のご両親に

『浅井 忍葉です。昨日から紫紺様の家にお世話になっています。花姫としてこれから宜しくお願いします。
家に入るのが遅くなり申し訳ありません。』

とご挨拶をしたら、

『いやあ。やっと僕のお嫁さんに会えたよ〜。』

『悠君のお嫁さんは私よ‼︎』

『父さん、忍葉は僕の花姫です‼︎』

というボケとツッコミが起きて、拍子抜けした。

『間違えちゃった。ごめんね。美郷ちゃん。僕のお嫁さんは、美郷ちゃんだよ。

紫紺君の花姫にやっと会えて嬉しいよ。
ずっと待っていたからね。
ねっ、美郷ちゃん。』

えっ?緩い、凄く緩い感じだけど、紫紺様のお父様は、麒麟の当主様だよね?

普段からこうなの?今だけ?
想像してたのと違う…、

『そうよ〜。道忠から花姫が見つかったって聞いた時はもう嬉しくって、会えるの凄く楽しみにしてたのよね〜。悠君。
紫紺君は全然、教えてくれないんだから。
紫紺君の恋の応援をしようと思ってたのに。残念だわ。』

『色々あったみたいだからね。仕方ないよ。美郷ちゃん。無事、花紋も現れたみたいだし、紫紺君のところに来てくれてありがとう。忍葉ちゃん。可愛い娘ができて嬉しいよ。』

あっ、あ、困惑してる間に、会話がどんどん続いてく…紫紺様のご両親は、普段からこんな感じなのかな…

『本当‼︎これからは、なんでも相談してくれていいからね。忍葉ちゃん。』

『はい。ありがとうございます。美郷様。』

『あら、お母さんでいいわよ。』

『えっ‼︎』

お母さん…って、…結婚‼︎えっ…紫紺様と…、あっ昨日、子どもって…

一気に真っ赤になった。

『母さん‼︎忍葉は、恥ずかしがり屋なんだから。』

『大丈夫か?忍葉?』

『うん。大丈夫。ちょっと恥ずかしくなって
…。』

『やっぱり女の子は可愛いわあ。今はね、言葉数が少なくて、仏頂面をしてるけど、紫紺君もね、小さい頃は、可愛かったのよ〜。

あ、そうそう。アルバム、忍葉ちゃんが来たら見せようと思って、用意してたの。忍葉ちゃん、紫紺君の花紋見たことないでしょ。
ちょっと待ってて。』

そう言って立ち上がると、すぐ近くのサイドボードの上にあったアルバムを持って戻ってきた。

『紫紺君が生まれた頃の写真。ほらこれ、花紋。』

『わあ〜。綺麗な目の色。この目の色大好き。紫紺様が赤ちゃん‼︎凄く可愛い。……あっ‼︎一緒。本当に一緒の花紋。』

食い入るように花紋を見つめた。本当に、同じ花紋を紫紺様は胸に持って生まれてきたんだ。そう思うと胸がジーンとした。

『僕たちは、生まれた紫紺君の目の色を見て、あんまり綺麗だから、紫紺って名前をつけたんだ。

忍葉ちゃんが紫紺くんの目を色を大好きって言ってくれて嬉しいよ。』

やっぱり名前は目の色からきていたんだ。
と思って聞いてたら、
…えっ‼︎あっ?…私…、大好きって言った…⁈……つい…思わず…言った…あぅ…。まさか自爆するとは…。

真っ赤になって俯いてると、紫紺様が頭を撫でてきた。
紫紺様が、今、どんな顔してるかわかる。
もう顔があげられない。
どうしようと思ってたら、

『見ちゃうわよね〜。私たちも忍葉ちゃんの花紋の画像、実忠に見せて貰った時、感慨深くってジッと見ちゃったわ。あ〜、ちゃんと桜が咲いた日、忍葉ちゃんは生まれてきて、紫紺君に会ったんだって。ね、悠くん。』

と美郷様が話し始めてホッとした。

『うん。あの桜が咲いた日から、ずっと会えるのを心待ちにしてきたからね。』

『それに花紋が見えるように服を選んできてくれたのね。
ありがとう。間違いない。忍葉ちゃんは、紫紺君の花姫だわ。

あっ。そういえば、桜の木見に行った?』

『まだだ。先に、挨拶に来たから。』

『桜の写真は、ここにあったはず、これこれ。見て、これ始めて咲いた年の写真だわ。凄く綺麗でしょ。』

『あっ、花紋と同じ桜…。これが庭に?』

『ええ。そうよ。そう言えば…、紫紺君…、毎年、忍葉ちゃんの誕生日に桜の写真を撮って、メッセージカード書いてたわよね。
その

『母さん‼︎』

と紫紺様が強く言って美郷様の言葉を遮った。珍しく焦った表情を浮かべていた。

『えっ‼︎何?』

『きっと紫紺君、まだ忍葉ちゃんに言ってなかったんだよ〜。』

『えー‼︎そうなの?言っちゃいけなかった?』

『はあ〜。』
と紫紺様が大きな溜息を吐いた。

誕生日に、桜の写真とメッセージカードと聞いて黙っていられなくて、

『メッセージカードはもうないの?』

紫紺様がなんだか困っている?と思いつつ、聞いた。

『……………ある。』

『欲しい。欲しい。……………ダメ?』

『うっ…。あーーもう‼︎いいよ。後でな。』

『やったー。嬉しい。楽しみ。』
思わず手を叩いて喜んだら、

『忍葉は、可愛いな。』
と言って紫紺様が頭を撫でた。

いつものようにすっごく可愛いものを見る顔をして。

ボッと顔が真っ赤になったのがわかった。

『し、紫紺様…お母様たちの前で…恥ずかしいです。』
なんとか口に出して言ったら、恥ずかしさにプシュっと自分が小さくなるのを感じた。

『本当に忍葉は何しても可愛いな。』
と言って頭を優しくポンポンと叩いた。

お母さんたちの前でまさかのダブル攻撃⁉︎
自爆はするし…、…恥ずかし過ぎて戦闘不能になりそう…あぅ。

『紫紺君と花姫のこんな初々しい姿が見れるなんて、本当に感慨深いよ。』

『本当よね〜。忍葉ちゃんすっごく可愛いし…。花紋見れたし、私、涙、出てきちゃった。』

『美郷ちゃんは泣き虫だね。』
そう言って、悠然様が美郷様の頭を撫でている。

愛情表現のストレートさやスキンシップの多さは、花王子だからかとずっと思ってたけど、家系なのかも…、
それとも、神獣人は皆んなこんな感じなの?

えっ‼︎これ誰に聞いたらいいんだろう…⁈

想像していた紫紺様のご両親像が、ガラガラと崩れた。

崩れて思った。私は自分の親を社会全体の親や夫婦像として見てだんだなって…、

紗代ちゃんと和君夫婦だって、お祖父ちゃんたちだって、仲がいいし、穏やかだ。
それにそれぞれ違う。

夫婦の数だけ、夫婦の形はあるのか…、家族もそうなんだ。そう思ったら、もう縛られなくていいんだとまた、思った。

『母さんたちは、テンションが高いからな。
大丈夫か?』

『うん。大丈夫。悠然様と美郷様仲が良いね。』

『ああ。ずっとあんなだよ。時々、見てて、こっちが恥ずかしくなる。』
と仕方ないなって顔をして紫紺様が言った。

確かにあんまり堂々と親の仲の良さを見せられたら恥ずかしいとは思うけど、なんかいいなぁと思った。