「さぁ、ユチ様。久しぶりのマッサージでございますね」
「い、いや、だから、半裸にする必要は……」

 クデレはルージュに命じられ、素材集めに駆り出されている。
 ここぞとばかりに、俺は例のアレを喰らっていた。

「こんにちはー、どなたかいらっしゃいますかー?」

 と、村の入り口で誰かが呼んでいた。

「ん? また来客かな」
「行ってみましょう、ユチ様」
「待っ」

 結局、裸で連れ出される。
 入り口には細身の若い兄ちゃんと、背が高くてがっしりしたオジサンがいた。
 冒険者のようだが行商人にも見える。
 いや、オジサンは兄ちゃんを護衛しているみたいだな。

「また偉い人かな」
「可能性は高そうでございますね。あの二人は高貴な人物と推測いたします」

 どちらも質素な服を着ているが、雰囲気はやけに厳かだ。
 若いお兄さんはキレイな金髪に、快晴のような青い瞳をしている。
 カッコいい人だ。
 それに、どことなく貴族っぽい気がする。
 オジサンだって引き締まった体型で、鋭い目つきがイカしたおっさんて感じだ。

「どうも、初めまして。私はエンパスキ帝国のジークフリードと申します。こちらは付き人のダリーです」

 ジークフリードさんがお辞儀すると、ダリーさんも頭を下げた。
 エンパスキ帝国と言えば、オーガスト王国のすぐ隣にある大きな国だ。
 それにしても……。

「ジークフリードってどこかで聞いたことがあるような……」
「ユチ様。ジークフリード様はエンパスキ帝国の皇太子でございます」
「え! 皇太子!?」

 いや、マジか。
 貴族かなとは思ったが、まさか王子様とは思わなかったぞ。

「は、裸ですみませんね。皇太子なんて偉い方がどうしてデサーレチに……?」
「政策の勉強をするため、護衛のダリーと諸国を回っているのです。もちろん、身分は隠しておりますが」
「な、なるほど……」

 カロライン様もそうだったけど、王女様とか皇太子様とかって結構行動力があるらしい。
 しかも勉強のために旅しているだって?
 偉すぎるだろ。
 俺も見習わないと。
 勉強は嫌いだが。

「旅をしている最中に、あのデサーレチが豊かになっているというウワサを聞きまして……その真偽を確かめたかったのです」
「あっ、そうでしたか」

 デサーレチには色んな人たちが来たもんな。
 みんな、あちこちで話しているのかもしれない。

「この辺りを旅していたところ、大きな音と衝撃を見聞きしまして。何があったんだろうと思ったのです。そこで、光った方に向かっていたら、こちらへたどり着いたという次第でございます」

 きっと、この前のモンスター退治の時だ。
 あのビームはすごい攻撃だったもんな。

「モンスターの群れが襲ってきて、追い払ったんですよ。空飛ぶ城の試作型があって……」
「空飛ぶ城ですって!? 古代世紀に存在していたという空飛ぶ城ですか!?」

 ジークフリードさんはガバッと身を乗り出してきた。
 目がらんらんと輝いている。
 めっちゃ興味が引かれたらしい。

「え、ええ、と言っても、別に大したことはありませんが……見ます?」
「ぜひ!」

 ということで村を案内するわけだが……。

「ユチ殿の人形がたくさんありますね」
「そ、そうですね……ちょっと色々ありまして」
 
 俺の1/6フィギュアは、村のあちらこちらに配置されていた。
 右を向いても左を向いても、俺の人形と目が合う。

「領民に好かれているということですよ。まさしく、民の上に立つ者としての理想の姿です。私も努力しなければなりませんね!」

 ジークフリードさんはくううっ! と拳を握りしめて空を見上げている。
 見た目よりだいぶ熱い方のようだ。
 畑やら川やらを見せたら、ジークフリードさんはめちゃくちゃ驚いていた。
 デスドラシエルを見せたときは、気絶しそうになっていたな。
 そして、空飛ぶ城の前に来た。
 今はふわふわと浮かんでいて、アタマリやソロモンさんが手入れをしている。

「あっ! 生き神様じゃ! ちょっと顔の表情をチェックしてくだされ!」
「ユチ様! お顔の表情は定期的に変えようと思うのですが、いかがでしょうか!?」

 相変わらず、二人はキャアキャア騒いでいる。

「で、伝説の大賢者、ソロモン様までいらっしゃるのですか!? 何という村なんだ……」

 ジークフリードさんは唖然としているが、俺はそれどころじゃなかった。
 顔の刻印を見られるのは、さすがに恥ずかしい。

「それで、これが空飛ぶ城“……キャッスル・試作タイプ”です」
「正しくは“ユチキャッスル”! でございますね」

 せっかくごまかしたのに、ルージュに大きな声で修正された。
 そのまま、流れるように説明を続ける。

「ユチ様の麗しい瞳から、超威力の光線が放たれるのですよ」
「おお……それは素晴らしい」

 ジークフリードさんたちは、ルージュの解説を聞きながら城を見ている。
 早く終わってくれと祈っていたが、たっぷり時間がかかっていた。

「デサーレチがここまで発展したのも、全てはユチ殿のスキルと人柄によるんですねぇ」

 ひとしきり解説が終わったら、ジークフリードさんは納得したように言った。
 
「いやいや、俺はそんなに立派な人じゃないですよ」
「何をおっしゃいますか。いくら領主のスキルが優れていても、人となりが最悪だったら領民たちはすぐに逃げ出してしまいます」

 そんなもんなのかねぇと思っていたが、ルージュやソロモンさん、領民たちはうんうんと頷いていた。
 やがて、ジークフリードさんたちのお帰りの時間になった。

「では、ワシが行きたいところに転送してしんぜよう。特製の魔法札もあげるからの。また来たくなったら破りなさい」

 ソロモンさんがいつものように渡すと、彼らは感激していた。

「ユチ殿、あなたのおかげでこの旅はより実りあるものとなりました。私も大手を振って国に帰ることができます」
「でしたら、良かったです。いや、ほんと裸ですみませんね」

 俺とジークフリードさんは硬い握手を交わす。

「ユチ殿! 本当にありがとうございました!」

 ということで、ジークフリードさんたちは笑顔でエンパスキ帝国に転送されていった。

「生き神様。ここらで一発超魔法でも……」
「しないでくださいね!」


◆◆◆(三人称視点)

 
 エンパスキ帝国に戻ったジークフリードは、さっそく父親である皇帝に報告した。

「皇帝陛下、ただいま戻りました」
「うむ、旅はどうであったか?」
「最後に立ち寄った領地が最高の土地でございました!」

 ジークフリードはデサーレチとユチの素晴らしさを、とうとうと語る。

「……なんと、そんな土地があるのか」
「しかも、空を飛ぶ城の建造まで成功しているのです!」
「なにぃ!?」
「これなら、魔王軍との戦いも勝てるでしょう!」

 エンパスキ帝国は魔王領と近く、魔王軍と頻繁に戦っている。
 帝国騎士団は手練れが揃っているが、敵も強く一進一退の攻防が続いていた。

「皇帝陛下! いや、父上! ぜひ、ユチ殿にお力を貸していただきましょう!」
「うむ、そうだな。魔王軍が優勢と聞いている土地もある……この件はお前に任してよいか?」
「はい!」

――絶対にまたデサーレチに行くんだ。

 ジークフリードは強く強く決心した。