男の子たちが火や重たいものを準備している傍らで
私含む女子たちは食材の準備をする。

野菜を切りながら始まったのはやはり恋バナ。
誰々がかっこいいだの、誰と誰が付き合っているだの。いくつになっても楽しいものだ。

ひときしり話し終えて、野菜も切り終えて。
男子の方に目を向ければ、どうしても真木さんが視界に入ってきてしまう。

こらこら、と自分をあしらいつつも、無意識に視界にとらえてしまうのだ。

本能にあらがえずしばらく見ていれば(おい)、あれ?と感じた違和感。

砂浜で、真木さんはサークルの女の子たちに囲まれていた。いやその光景自体に違和感はないんだけど、まあそれも自分で言って悲しくなったけど。

楽しそうに話しかける女の子たちに、
少し困ったように曖昧に笑う真木さん。

さっき水が入ったという耳をしきりに触っているように見えた。首を傾げて、必死に声を聞き取ろうとしているように見えた。その姿が、自分の経験と不意に重なった。

「真木さん!」

気付いてしまったその瞬間、思い込みである可能性なんて考えないで真木さんの名前を呼ぶ。

「っ青柳さんが、呼んでます。」

驚いて振り返った真木先輩に少し大きめの声でそう言えば、真木さんは心なしかほっとしたようにうなずく。

そのまま青柳さんの方へと向かって行った真木さんと、残されたのは怖い顔の女の子たちと私。
・・・視線が痛いのでそそくさと退散しましょう、ええ。



繰り返し聞こえる波の音と、感じる磯の匂い。
生ぬるい風が髪の毛を揺らして、とても、心地がいい。

バーベキューも終わり皆で花火をして、
今晩泊まる海の家まで移動した私達。

散々お酒を飲んで騒いだ先輩達や一部の同級生は、
既に部屋の中で寝息を立てていて、
起きている人たちは恋愛話に花を咲かせていて。

少しだけ夜の海を見たかった私は夏未に声をかけて、海辺へと戻ってきていた。

・・・気持ちいいなあ。

「お姉さん、こんな夜遅くになにしてるんですか。」

急に聞こえてきた低い声と頬にあたる冷たい感触に思わず悲鳴を上げかけた私。
それが冷たい缶ジュースだと気づいた時には、
クスクスと笑ったその人は私の隣に腰かけていて。

「はい、あげる。」
「びっ・・・くりさせないで下さいよ!」

ごめんごめん、と笑った真木さんは、
そのまま私に缶ジュースを手渡す。

ありがたく受け取って缶を開けば、
プシュッ、という音さえ心地よく聞こえる。
一口飲めば思っていたよりも自分がのどが渇いていた事に気づいて、半分ほど一気に流し込んでしまった。

いい飲みっぷり、と真木さんがからかうように言うから、
少し恥ずかしくなって俯いてしまう。

「お肉はたくさん食べれた?」
「食べれました!すっごい美味しかったです!」
「おいしかったね~。やっぱりみんなで食べると美味しさ倍増だよね。」
でもたくさん食べれたならよかった。」
「・・・真木さん、妹います?」
「え、なんでわかったの?」

真木さんの4個下で、私と年が近いらしい。
だからか。もう私に話しかける口調が妹へのそれだ。
サークルの時にも節々から面倒見の良さを感じて、
下に弟妹がいるのかな、なんて勝手に思っていた。

まだ高校生なのに最近妹の化粧が濃くなっただの、
真木さんのお兄さんらしい心配話を聞いて、
私の家族の話もしたりして。

ひときしり盛り上がった後。

「バーベキューの前さ、」

少しの沈黙が訪れて、再び口を開いた真木さんの声色は、先ほどとは違っていて。

「青柳の所行ったら、お前の事なんてよんでねーよって。」

それだけじゃなくて早く女子の方にもどれホイホイが、なんていうんだよ?
ひどくない?ひどいよね、なんて言って真木さんがおどけたように笑う。

言いそう。そう言う青柳さんだって十分ホイホイなんだけどなあ。無自覚なのか。

そのまま黙り込む先輩。また少し無言の時間が続いて、沈黙を破ったのは真木さん。

「俺、片耳あんまり良く聞こえなくて。」

その言葉に驚かない私を見て、
気付いて助けてくれたんだね、と真木さんは笑う。