カーテンを開ければ、少しだけ春の匂いを感じる。
まだまだ肌寒いけれど、真冬に比べれば大分和らいで。
「いい天気だねえ。」
「本当に。」
窓の外を眺めておばあちゃんも笑う。
学校の事、バイトの事、病院の事。
おばあちゃんと話していれば楽しくて、いつのまにか時間が過ぎて。
すっかり約束している事を忘れてしまい、慌てておばあちゃんの病室を出た。
リハビリテーションでは、チヅさんがリハビリの真っ最中だった。
その近くにの椅子に座っている人を見つけて手を振れば、彼も私に手を振り返す。
「このかちゃん、久しぶり。」
「リハビリの付き添いですか。」
「そう。でもあんまり見てると怒られるんだよね。」
そう言って真木さんは頭を掻く。
・・・うん。怒っているチヅさん。想像できる。
「真木さん、大学院に進むんですね」
「そう、急に決めたからゼミの先生に嫌な顔されたけどね。」
就職ではなく大学院への進学を選んだ真木さんはしばらくの間院試のための勉強に励んでいた。
猛勉強の結果院試に見事合格し、四月から大学院に進むことが決まった。
「就職なのかと思ってました。」
「そう考えてたんだけどね、色々もっと、ちゃんと勉強しようと思って。」
今までなあなあにやってたからさ、そういって真木さんは笑う。
その笑顔の裏には大きな決意があるんだろうな、なんて思った。
「このかちゃん、やっほー。」
「チヅさん。お疲れ様です。」
リハビリの時間が終了して、
チヅさんが私達を見つけて声をかけてくれる。
「あれ?雄太。メロンパンは?」
「・・・あ。」
「えー!買っといてってお願いしたのに!」
メロンパン楽しみに頑張ったのに・・・、とチヅさんが肩を落とす。
この病院の売店の焼きたてメロンパンはとても人気で、
すぐ売り切れてしまう。どうやら真木さんはそれを忘れていたらしい。
・・・何たる偶然。
唇を尖らして文句をいうチヅさんに真木さんは眉を下げて笑って謝っていて。
そんな2人の前に。
「ジャーン!!」
紙袋を差し出せば、
チヅさんはすぐに気づいたようだった。
「このかちゃん!これ!」
「丁度今日食べたいなって思って。2人の分も買ってきたのです」
目を輝かせながら袋を開ければ、
中から甘い匂いがして。ああもう既に幸せだ。
メロンパンを1口かじって、
真木さんとチヅさんは顔を見合わせて、そして幸せそうに笑う。
「じゃあこのかちゃん。またね。」
「また病室遊びに行くね!」
「はい。また。」
チヅさんはまだこの病院でリハビリを続けるし、
真木さんも大学院に進むわけだから、まだサークルで会う事が出来る。
けれど何となく、寂しさを感じて。・・・春だからかなあ。
寂しさをかみしめながら一人病院の中庭を歩く。
空には雲一つなくて、柔らかい日差しが心地いい。
『本当にありがとう。』
少し前、病院で2人きりになったとき、
チヅさんはそう言って私の手を握った。
私も手を握り返して、そしてもう一度確認したかったことを聞く。
『これから、生きていくのは決まってるんだよね。』
私の言葉にチヅさんはいつものように笑ってから、
ゆっくり大きく頷いた。
『うん。私、嘘はつかないわ。』
その目は真っすぐ前を向いていて、
その横顔はやっぱり誰よりも綺麗だった。
まだまだ肌寒いけれど、真冬に比べれば大分和らいで。
「いい天気だねえ。」
「本当に。」
窓の外を眺めておばあちゃんも笑う。
学校の事、バイトの事、病院の事。
おばあちゃんと話していれば楽しくて、いつのまにか時間が過ぎて。
すっかり約束している事を忘れてしまい、慌てておばあちゃんの病室を出た。
リハビリテーションでは、チヅさんがリハビリの真っ最中だった。
その近くにの椅子に座っている人を見つけて手を振れば、彼も私に手を振り返す。
「このかちゃん、久しぶり。」
「リハビリの付き添いですか。」
「そう。でもあんまり見てると怒られるんだよね。」
そう言って真木さんは頭を掻く。
・・・うん。怒っているチヅさん。想像できる。
「真木さん、大学院に進むんですね」
「そう、急に決めたからゼミの先生に嫌な顔されたけどね。」
就職ではなく大学院への進学を選んだ真木さんはしばらくの間院試のための勉強に励んでいた。
猛勉強の結果院試に見事合格し、四月から大学院に進むことが決まった。
「就職なのかと思ってました。」
「そう考えてたんだけどね、色々もっと、ちゃんと勉強しようと思って。」
今までなあなあにやってたからさ、そういって真木さんは笑う。
その笑顔の裏には大きな決意があるんだろうな、なんて思った。
「このかちゃん、やっほー。」
「チヅさん。お疲れ様です。」
リハビリの時間が終了して、
チヅさんが私達を見つけて声をかけてくれる。
「あれ?雄太。メロンパンは?」
「・・・あ。」
「えー!買っといてってお願いしたのに!」
メロンパン楽しみに頑張ったのに・・・、とチヅさんが肩を落とす。
この病院の売店の焼きたてメロンパンはとても人気で、
すぐ売り切れてしまう。どうやら真木さんはそれを忘れていたらしい。
・・・何たる偶然。
唇を尖らして文句をいうチヅさんに真木さんは眉を下げて笑って謝っていて。
そんな2人の前に。
「ジャーン!!」
紙袋を差し出せば、
チヅさんはすぐに気づいたようだった。
「このかちゃん!これ!」
「丁度今日食べたいなって思って。2人の分も買ってきたのです」
目を輝かせながら袋を開ければ、
中から甘い匂いがして。ああもう既に幸せだ。
メロンパンを1口かじって、
真木さんとチヅさんは顔を見合わせて、そして幸せそうに笑う。
「じゃあこのかちゃん。またね。」
「また病室遊びに行くね!」
「はい。また。」
チヅさんはまだこの病院でリハビリを続けるし、
真木さんも大学院に進むわけだから、まだサークルで会う事が出来る。
けれど何となく、寂しさを感じて。・・・春だからかなあ。
寂しさをかみしめながら一人病院の中庭を歩く。
空には雲一つなくて、柔らかい日差しが心地いい。
『本当にありがとう。』
少し前、病院で2人きりになったとき、
チヅさんはそう言って私の手を握った。
私も手を握り返して、そしてもう一度確認したかったことを聞く。
『これから、生きていくのは決まってるんだよね。』
私の言葉にチヅさんはいつものように笑ってから、
ゆっくり大きく頷いた。
『うん。私、嘘はつかないわ。』
その目は真っすぐ前を向いていて、
その横顔はやっぱり誰よりも綺麗だった。