ドキドキ、と自分の胸の鼓動が聞こえる。
「すいませんほんとに。」
「全然だよ。気にしないで。」
祖母への荷物を抱えて病院の廊下を歩く、その隣にいるのはなぜか、真木さん。
今日はおばあちゃんに着替えなどの荷物を届ける予定で、その荷物を持ったまま大学に寄っていた。
校内で偶然遭遇した真木さんに大きな紙袋を掲げている事情を話せば、病院まで送ってくれると申し出てくれたのだ。
最初は断ったが結局はお言葉に甘えてしまった。
チラッと横目で真木さんを見る。
夏の暑さも少しは和らいだとはいえ、まだ十分暑い。
真木さんの額にも少しだけ汗が浮かんでいた。
前髪が邪魔なのか顔を揺らして髪をよける。
少しだけ口を結んでいるのが可愛くて、って、もう。
「・・・なんかついてる?」
「あっ、いやっ、ついてないです!」
しまった、見過ぎてしまった。しかも考えてる事が変態っぽかった。反省。
少し照れたように真木さんが笑って、
急いで顔を背ける。私はタコみたいな顔をしている事だろう。
「和菓子屋さん、いつ行こうね。」
「そっ、そうですね。」
「バイトは忙しい?」
「今月はちょっと多めなんですけど、来月のシフトはまだ提出してないので、
結構いつでも大丈夫です!」
「そっか。じゃあ来月の方がいいかな。」
楽しみだね、なんて言って真木さんが笑う。
子供みたいな笑顔にああ駄目だ、胸がきゅっとなる。
下を向いて歩けば真木さんの大きい足が視界に映った。
2人で一緒に歩いているだけなのに、特別な関係でもないのに、
恥ずかしくて、照れくさくて、でも嬉しい。
真木さんと一緒にいると心臓が忙しい。
嬉しくなって、悲しくなって、じんわりと温まったり、痛いほど凍えたり。
でもいいんだそれで、いいんだそれが。
特別になれなくても、こうやって一緒に、笑って話せて、それだけで__
「あ、ここかな?」
考えながら歩いていれば、祖母の病室を通り過ぎそうになってしまった。
気づいてくれた真木さんの声によって現実に引き戻されて、慌てて立ち止まる。
今週までは個人病室のままのおばあちゃんなのだが、中からは楽しそうに話す声が聞こえて、
チヅさんかな?山田さんかな?なんて思いながらドアを開けた。
「あら、このか。」
私を見つけて嬉しそうに笑ってくれるおばあちゃん。
ベッドの前の椅子に座っていたのはチヅさんの方だった。車椅子は部屋の隅に畳まれていた。
チヅさんも私を見つけて笑って手を振って、でも、その後。急に笑顔が消えた。
チヅさんの視線は、私の後ろの人物へと向かっていた。
え?と思うと同時に、急速に心が冷えていく。
どうにも表せない感情が心の中に広がっていき、
色々な記憶が巡って、結論を出そうとしている。
バサッ、と音がして反射的に振り返れば、
真木さんの手から零れ落ちた紙袋。
「・・・なんで。」
彼は震えた声で、名前を呼ぶ。
「なんで。・・・律?」
寝ぼけたまま読んだあの日の名前を、
もう一度、呼ぶ。
律、と呼ばれたチヅさんは俯いていて。
少しの沈黙の後、ゆっくりと顔を挙げる。
「あれ、このかちゃんのお友達かな?」
チヅさんはいつも通りの笑顔で、
しっかりの真木さんの瞳を見つめて、そして言う。
「初めまして。」
チヅさんのその言葉に、真木さんが息をのんだ音が聞こえた。
真木さんの表情は、なんと形容すればいいのだろう。
目を逸らしたくなるくらい、痛い。
「すいませんほんとに。」
「全然だよ。気にしないで。」
祖母への荷物を抱えて病院の廊下を歩く、その隣にいるのはなぜか、真木さん。
今日はおばあちゃんに着替えなどの荷物を届ける予定で、その荷物を持ったまま大学に寄っていた。
校内で偶然遭遇した真木さんに大きな紙袋を掲げている事情を話せば、病院まで送ってくれると申し出てくれたのだ。
最初は断ったが結局はお言葉に甘えてしまった。
チラッと横目で真木さんを見る。
夏の暑さも少しは和らいだとはいえ、まだ十分暑い。
真木さんの額にも少しだけ汗が浮かんでいた。
前髪が邪魔なのか顔を揺らして髪をよける。
少しだけ口を結んでいるのが可愛くて、って、もう。
「・・・なんかついてる?」
「あっ、いやっ、ついてないです!」
しまった、見過ぎてしまった。しかも考えてる事が変態っぽかった。反省。
少し照れたように真木さんが笑って、
急いで顔を背ける。私はタコみたいな顔をしている事だろう。
「和菓子屋さん、いつ行こうね。」
「そっ、そうですね。」
「バイトは忙しい?」
「今月はちょっと多めなんですけど、来月のシフトはまだ提出してないので、
結構いつでも大丈夫です!」
「そっか。じゃあ来月の方がいいかな。」
楽しみだね、なんて言って真木さんが笑う。
子供みたいな笑顔にああ駄目だ、胸がきゅっとなる。
下を向いて歩けば真木さんの大きい足が視界に映った。
2人で一緒に歩いているだけなのに、特別な関係でもないのに、
恥ずかしくて、照れくさくて、でも嬉しい。
真木さんと一緒にいると心臓が忙しい。
嬉しくなって、悲しくなって、じんわりと温まったり、痛いほど凍えたり。
でもいいんだそれで、いいんだそれが。
特別になれなくても、こうやって一緒に、笑って話せて、それだけで__
「あ、ここかな?」
考えながら歩いていれば、祖母の病室を通り過ぎそうになってしまった。
気づいてくれた真木さんの声によって現実に引き戻されて、慌てて立ち止まる。
今週までは個人病室のままのおばあちゃんなのだが、中からは楽しそうに話す声が聞こえて、
チヅさんかな?山田さんかな?なんて思いながらドアを開けた。
「あら、このか。」
私を見つけて嬉しそうに笑ってくれるおばあちゃん。
ベッドの前の椅子に座っていたのはチヅさんの方だった。車椅子は部屋の隅に畳まれていた。
チヅさんも私を見つけて笑って手を振って、でも、その後。急に笑顔が消えた。
チヅさんの視線は、私の後ろの人物へと向かっていた。
え?と思うと同時に、急速に心が冷えていく。
どうにも表せない感情が心の中に広がっていき、
色々な記憶が巡って、結論を出そうとしている。
バサッ、と音がして反射的に振り返れば、
真木さんの手から零れ落ちた紙袋。
「・・・なんで。」
彼は震えた声で、名前を呼ぶ。
「なんで。・・・律?」
寝ぼけたまま読んだあの日の名前を、
もう一度、呼ぶ。
律、と呼ばれたチヅさんは俯いていて。
少しの沈黙の後、ゆっくりと顔を挙げる。
「あれ、このかちゃんのお友達かな?」
チヅさんはいつも通りの笑顔で、
しっかりの真木さんの瞳を見つめて、そして言う。
「初めまして。」
チヅさんのその言葉に、真木さんが息をのんだ音が聞こえた。
真木さんの表情は、なんと形容すればいいのだろう。
目を逸らしたくなるくらい、痛い。