履きなれない下駄と着なれない浴衣。
すぐに足が痛くなってしまって、息が切れてしまう。

歩みを緩めて、花火が終わって帰る始める人々の波に逆らって歩いた。
ゆっくりと歩いて、歩いて、歩いて。
気付かぬうちに、立ち止まってしまっていた。

勝手に舞い上がって、勝手に落ち込んで、
逃げてきてしまった自分がとても恥ずかしい。
本当に、馬鹿みたい。情けない。

通りがかる人々が私を不思議そうに眺めているのが分かる。
その視線を感じて、かろうじてまた歩き始めた。
ああ、恥ずかしい、馬鹿みたい、もうほんとに、私はなんて。

「あ、七五三終わりの人、みっけた。」

突如聞こえてきた声と共に、グイッと浴衣の裾を引っ張られる。
何も言わない私を不思議に思ったのか、その人は私の顔を覗き込んで、
そしてそのまま私の腕を引っ張った。

抵抗できずそのままついていけば、
着いたのは少し外れた場所にある公園だった。

彼はそのまま私をベンチに座らせて足元に屈みこむ。

「っ!なになになに!」
「血い出てんの。気づいてなかった?」
「・・・ほんとだ。」

財布から当然のように絆創膏を取り出した彼は、
擦れて血が出てしまった私の足に貼ってくれる。
・・・全然気づいてなかった。

「・・・ありがとう。」
「どういたしまして。」

ほんとに小学生?なんてからかって、快くんはいつものように笑う。
なんだかすごく安心してしまって私も笑ってしまった。

「夏未は?」
「丁度さっき駅まで送ったところ。」

そっか。そうだけ言って口をつぐむ。
快くんもそれ以上何か言う事はなくて、しばらく沈黙が続く。

おもむろに快くんが立ち上がって、人ごみに消えていく。
しばらくしてから戻ってきた彼の手に握られていたのは、ほかほかのまあるい茶色。

「はい。」
「え。」
「いいから早くして。」
「なんっ・・・」

なんでちょっとだけ怒られたのか。解せぬ。
たこやきを1つ私の口に押し込んだ快くんは、
そのまま自分もパクリとたこやきを口にする。

同時に二人でむせてしまった。いやあっついだろ、分かるだろ。
お互い涙目になりながらそっぽを向いてたこやきと格闘する。
あっつい。あっつい、けど。

「・・・おいしい。」
「もう屋台閉まるところだからって半額で売ってくれた。」
「なにそれ最高。」

そういえばこの前も夏未にこんな感じで餌付けされたな。
なんて思いながらたこやきを嚙みしめる。そう言えば今年まだ屋台でタコ焼き買ってなかったな。

「・・・快くん。」
「ん?」
「もう一個。」
「・・・太るぞ。」
「余計なお世話だ。」

憎まれ口をたたきながらも、串にタコ焼きを指して、
私の口へと運んでくれる。・・・うん、おいしい。

8個入りのたこ焼きを食べ終わる事には、
人の数は大分少なくなっていて屋台も解体作業が進んでいた。

空っぽになったパックを輪ゴムでまとめてから
快くんが立ち上がって、私の足元を見る。

「歩けそう?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」

まだ少し痛いけど、歩いて帰れないほどではない。
貼ってくれた絆創膏のお陰で、擦れの痛みも緩和されている。

無言のまま快くんが私の手を掴んで、彼の肩に乗せてくれる。
有難く力を借りる事にして、ゆっくりゆっくり、家への道を歩いた。

結局そのまま快くんは私を家まで送ってくれて。
私の謝罪に彼はゆっくりと首を振る。

「またな。ゆっくり休めよ。」

なんて言って、私の頭をポンポン、と叩くから。
危ない。また涙がこぼれそうになってしまって。
深呼吸と共に涙を引っ込める。

「・・・ほんとに。」
「ん?」
「ほんとに、ありがとう。」

何だよ照れるだろ、なんて快くんはおどけた後、
軽く手を挙げて帰り道を歩いていった。