ドキドキしているのを隠しながら、真木さんの隣を歩く。
横顔を見上げるのにも勇気が必要で、ああ、もう、なんか。

「このかちゃんってさ、」
「へっ!?」
「そんな驚かなくても」
「す、すいません・・・。」

変な返事、と真木さんがくすくす笑う。
私の頭の上に、触れないように手のひらをかざして。

「小さいよね、結構。」
「・・・一応154㎝はあります。」
「うん、ちっちゃいね。」
「!!コンプレックスなんです。」

からかう真木さんを睨みつければ、
少し頬を緩めて、私から目をそらして。

「えー。可愛いと思うけどな。」

なんて言ってクシャッと笑うから。
ああ馬鹿、私舞い上がるな。
なんて気持ちと同時に、勝手に言葉が溢れてきてしまった。

「あのっ・・・」

立ち止まって、自分の服の裾を握り締める。

今日何十回と復唱した言葉を。
一文字一文字、勇気を出して。

真木さんの不思議そうな視線を感じる。
小さく息を吐いて勢いよく顔を挙げた。


「今度の花火大会!一緒に!・・・一緒に、いき、ま、せんか・・」

最後が消えかかってしまったけれど、でも、言えた。

小さく真木さんが息をのんだのが分かった。
言ったと同時にスッキリして、でもその後すぐに襲ってくる後悔。
心臓がドキドキして、バクバクして、なんだか泣きそうだ。

真木さんの顔が見れなくて俯いたままの私。
しばらく流れた沈黙の後、はは、っと真木さんは笑った。

「いいよ。誰が一緒なの?夏未ちゃんとか?」
「えっいや」
「青柳とか暇そうだなあ。あ、他の先輩あんまり話したことないもんね?」

誰がいいかなあ、なんて言って真木さんは笑う。
さっきと同じトーンで話し続けるけどその笑顔は乾いていた。私でも分かってしまうくらい。
私の方を見ることはしないで、少し俯いたまま。彼の顔には作り笑顔が張り付いていた。

心臓がぎゅっと縮んで、
自分がすごくちっぽけな存在に思えてしまった。

「皆で行った方が楽しいもんね。」

真木さんはそうやって笑って、
でもその瞳は私をとらえてくれない。

分かってしまった。いや、分かっていたのだ。
彼は避けている。私の意図を分かって、分かった上で。牽制している。


「・・あー・・・そうです、夏未も一緒です!」

必死で絞り出した自分の声は自分の物じゃないみたい。

「快の事も誘ってみたんですけど、3人も変だな~って思って!」

スラスラと口から嘘がこぼれる。
俯いたまま早口で話す。私も真木さんの顔を見ない。大丈夫、私は泣かない。絶対泣かない。

「人数多い方が、楽しいですもんね。」
「ね、だよね。」

絞り出した私の言葉を聞いてから、真木さんはやっと顔を挙げる。
私の方を見て安心したように笑うのだ。だから私も、笑うしかなかった。




「で、ヘコんでるのねヘタレちゃん。」
「返す言葉もございません。」

講堂の長机に教材を広げながら夏未ははあ、とため息をつく。

「いやでもその雰囲気は仕方ないかもね。私でも多分言えないもん。」

なんて言って夏未はよしよし、と私の頭を撫でる。
全くアメとムチがお上手で。

「花火大会は彼氏さんと約束しちゃってる?」
「あー。いや、してない。」

私の質問に夏未は少し口ごもって。
あれ、これはまさか。

「・・・別れちゃった?」
「・・・えへ。」

束縛酷くてさ~、なんて言って夏未はケタケタと笑う。
その言葉に今度は私がため息をつく番だった。
恋多き女の夏未。付き合っても長続きしない事が多い。

お互い上手くいかないねえ、なんてため息が出てしまう。
講堂を出て、夏未と共に食堂へ向かう。お昼休み。食堂は生徒であふれていた。

いたる所で集団がご飯を食べながら談笑している中、
少し先、視界に入ってきてしまったのは見覚えのある男子集団。
サークルの先輩たちだ。その中には真木さんもいて。

その集団は男子だけではなくて、女の人たちも混ざっていた。
先輩たちはとても大人っぽい。

2歳しか違わないのに、なあ。

覚えたてのメイクに、顔の横しか巻けていない髪の毛。まだ慣れないヒールの靴。
急に自分がすごく子供に感じてしまった。大人の真似っこをしているような。ああなんか、もう。

「っ・・・なっ・・・」
「はい、お裾分け。」

急に口にものを入れられて思考が中断される。驚きつつもとりあえず噛めば、
甘酸っぱさが口全体に広がった。見れば夏未はイチゴのロールケーキを食べていて、
どうやらそれを詰め込まれたらしい。

「・・・おいしい。」

なんてこぼした私に、夏未ははは、と笑って。

「あんたはそう言う顔の方が似合ってるよ。」

あんま難しい顔しないの、なんて言って私のコメカミをつつく。
胸がじんわりと温かくなって、もう、人たらしめ。