今日だけで何度同じ言葉を復唱した事だろう。
通学中、講義中、お昼休み、トイレの中。
そして、サークル前の今の時間。
「あんたもう、重症だわ。」
呆れたように隣で呟く夏未。
重症なのは私が一番わかってますって、ええ。
夏休みも近づいた7月後半。
大学のめちゃくちゃ長い休みを目前に、本日の私の目標は一つ。
「真木さん、花火大会、一緒に行きませんか。」
今日だけで数十回目の復唱。
ついに夏未はスマホ片手に何も反応してくれなくなった。仕方ない。
自分から異性を何かに誘うという事は人生初めてで、
私にとっては本当に勇気のいる事なのだ。しかも先輩。しかも、真木さん。
夏未相手にはすんなり言えるのになあ、なんてこぼせば当たり前だろ、とはたかれた。痛い。でもその通り。
「どうしよう夏未~、私いえるかな~」
「いえる言えないじゃない、言うの。」
「ええええええ。」
「えええじゃない!ああもううるさい!」
いつもは夏未に私がうるさいと文句を言っているのに、今日は立場が逆転。
サークルまでの時間ドキドキしすぎて、講義なんて全く耳に入らないのであった。
「よっしゃ飯行こうぜ~」
青柳さんの言葉でわーっと歓声が上がる。
焼肉、お寿司、ラーメン、様々な声が上がる中で、
真木さんは肩をすくめて。
「俺ちょっと課題があるから今日はやめとこっかな。」
「おー。りょうかーい。」
青柳さんにそう言って、
真木さんはシューズを脱ぎ始める。
わ、どうしよう。
ご飯の後にでも言おうと思ってたのに、これはピンチ。
こういう日に限って真木さんはスタスタと体育館を出ていく。
うんうん、これは仕方ないよね。ちゃんと言おうと思ってたけど、でもここで追いかけるのも変だしね。
なんて自分に言い訳をして、正直少し安心してしまう。
・・・が、すぐに鋭い視線を感じた。彼女がこんな私を見逃してくれるわけもなく。
「なにやってんのよ!ほら!」
「ちょっ・・・無理だってええ・・・」
情けない声を出した私なんてお構いなしに夏未は私にリュックを背負わせる。
そしてグイッと私の背中を押して。
「ほら!行ってきな!」
「夏未い・・・」
「今帰ってきたら絶交!あ!いや絶交は私がいや!取り消す!」
「なんだよもう可愛いな・・・」
夏未に押されるがまま体育館の外に出た。
日中よりも少しだけ冷たくなった風を頬に受けながら、ゆっくり深呼吸をして。
勇気を出して、後ろから声をかける。
「お、お疲れ様です!」
「あれ、このかちゃん。ご飯は?」
「わっ・・・私も課題があって。」
私の言葉に特に疑問を持った様子もなく、
そっか、と真木さんは歩みを進める。
しかしその速度が私に合わせてゆっくりになったことが分かって、
ああ、だめだ。こんなことにもときめいてしまう。
「真木さん、おうちこっち方面何ですか?」
「そうだよ。駅のすぐ近く。このかちゃんもその辺だっけ?」
「あ、そうです。なんで・・・って、あ。」
そうだ。私が真木さんと出会ったきっかけの日。歓迎会の日。
お家の近くのコンビニまで送ってもらったんだった。
そう言えばこうやって2人で一緒に歩くのは、
あの日以降初めてだ。