「失礼しました。」

練習の後、担任の先生に呼び出された俺が学校を出る頃には、辺りはすっかり薄暗くなっていて。

傘に雨が強く打ち付ける。
すっかり土砂降りだ。練習前よりもずっと酷い。

水野さん、大丈夫かな。

雨が嫌いだという彼女はちゃんと家まで帰れたのだろうか。
小さい子の心配をするような言い方に、
自分でも思わず笑ってしまう。

・・・話すようになる前の水野さんのイメージは、いつもつまらなそうな人、そのくらいだった。

あの日、突然の雨にふられた日。
「雨は嫌いだ」とあまりにもはっきり言うから。
正直、とても驚いた。いつもそれとなく周りに合わせて笑っている水野さんの本心を初めて聞いた気がして。

どことなく嘘っぽい笑顔と、
つまらなそうに窓の外を眺める横顔と、
時々感じる体温の低さにはきっと。

雨が関係してるんだろうな、なんて。

「わっ!」

バシャッと通りかかった車に水をかけられる。
ボーッとしていて近づいてきた事にも気づいていなかった。

幸いズボン裾が少し濡れたくらいで、
傘を持ち直してゆっくりと歩みを進める。

・・・とにかく今日は疲れた。
早く帰ろう。

なんて思っていれば今度はスマホが光って、
表示されている名前を見れば、珍しい、長谷川だ。

どうしたんだろう、なんて軽く思いながら電話をとれば、予想外に焦った声が飛び込んでくる。

「っ・・・あかね知らない!?」

唐突な言葉に一瞬思考が止まって、
嫌な予感が身体中を駆け巡る。

「今日は一緒に帰ってないけど。どうかしたの?」
「茜のおばあちゃんから連絡きてっ・・まだ帰ってきてないって・・・っ!」

電話越しに泣く長谷川をなだめながら続きを促す。

「茜は雨が本当にダメなの・・・あの時と比べたら今はましになったけど・・・」

あの時、はいつのことを指しているのだろう。

「心配かけないようにって無理して笑ってることもっ・・・気づいてたのに」

「・・・長谷川、落ち着いて。ねえ聞かせて。
水野さんは、どうして雨が嫌いなの?」

俺の言葉に長谷川は少し息をのんで。
そして、ゆっくりと話し始めた。

溺れそうな彼女の手を、
俺は、掴めるのだろうか。