「・・・雨だね。」

そう言って隣でにやっと笑うのは、はるか。

それから、雨の日は本当に橘くんと一緒に帰る事になった。

バイトに行くはるかとは別れて、昇降口で橘くんを待つ。

・・・なんだか、変な感じだ。

委員会の仕事があれば話すものの教室では相変わらずほとんど話さないし、雨が降っていなければ一緒に帰ることは無い。

雨が私達を繋いでる、そう考えたら、
なんとも言えない気持ちになる。

私は雨が嫌いで、橘くんは雨が好きで。
でもそんな2人が雨の日には一緒にいるのだ。

「ごめん、待ったよね。」
「ううん全然。お疲れさま。」

振り返ればそこには部活終わりの橘くん。
他愛もない話をしながら、雨の中へと踏み出した。




最近、気づいたことがある。

息苦しくないのだ、橘くんと一緒だと。

気を抜けば溺れてしまうんじゃないか、
そう思うほど、私の世界は不安定に揺れている。
いつも胸が苦しくて、そして息苦しい。

その息苦しさは雨が降るほどに増す。

それを緩和してくれるのは、今まで生きてきた中ではるかだけだった。

けれど。

橘くんと一緒なら、雨の中を歩いても息苦しくない。
すっ、と何かが抜けていくような感じがして、溺れそうな感覚から抜け出せる。

・・本当に、不思議だ。





「で、橘とはどうなの?」
「だから何も無いってば。」

放課後の教室。この話は何回目だろう。

「そんな事ないでしょ!橘はいいやつだよ〜」

最近まで知らなかったがどうやらはるかと橘くんは昨年生徒会が同じで、割と仲が良かったらしい。

「・・あ、この前のはるかのお母さんからもらったお菓子すっごい美味しかった。ありがとう。」
「ほんと?お母さんも喜ぶよ。」

にっこり、と効果音がつきそうな笑顔で彼女は笑う。昔から大好きな、太陽みたいな笑顔。

小さい頃からずっと一緒にいるはるかとは、家族ぐるみの付き合いだ。今は祖父母と3人で暮らしている私だが、おばあちゃんもはるかのことをとても気に入っていて、はるかが来るといつも嬉しそうだ。

「私に出来ることはなんでもいってねっ」

笑って軽く言った彼女だけど、
その言葉はいつも本気で、とても心配してくれている事を私は知っている。

「・・ありがとう。」
「いーえ!さ、帰ろ。」

外を見れば今日の天気は晴れ。

表情に出しているつもりはなかったけれど、よほど安堵した顔をしていたのか、
「大丈夫だよ」と笑われた。