昔の夢を見ていた。

雨が降るとカッパを着て、お気に入りの長靴を履いて。
水たまりで遊ぶんだ。色違いの傘が揺れる。

「・・・さん。・・・水野さん。」

そうだ、昔は雨が好きだった。

いつから、嫌いになったんだろう。

そう思った次の瞬間、耳元で響くクラクションの音。
飛んでいく水色の傘と、子供の悲鳴がこだまする。

・・・座り込んで泣いているのは、

「水野さん。」

誰?



「水野さん、おはよう。」

目を開けば目の前に橘くんの顔があった。
すぐに状況を飲み込めなくて必死に頭を回転させる。

昇降口ではるかと別れて、雨が小雨になるまで待とうと思って、下駄箱の横に座って・・あ。

「私、寝てた?」
「うん、とても器用に。」

この前の私の台詞を真似して、橘くんはくすくすと笑った。そして私の隣に腰掛ける。

・・・まさかこんな所で寝る事ができるとは。

「何か夢でも見てた?」
「なんで?」
「いや、呼びかけても全然起きなかったからさ。」

夢。
見てたような、気もする。

「うーん、覚えてない。」
「そっか。」

外を見ればまだ雨はだいぶ小降りになっていた。
これなら帰れるだろう。

「水野さん、雨止むのまってたの?」
「んー、そう、かな。」

曖昧に答えれば、橘くんは特に何か追求することも無く「俺も帰ろー」と笑った。

そのまま一緒に学校を出て、傘をさして歩く。
この前雨宿りした場所からして、家が近いかもしれないとは思っていたが、帰る方向はほとんど同じだった。

「水野さん、学校たのしい?」
「・・・なんで?」

急に予想外の質問をされて、少し動揺する。

「いや、なんか。
いつもつまんなそうだなーって思ってた。」

橘くんの顔を盗み見れば特にいつもと変わったことは無く、相変わらず眠そうな表情。

それなら深い意味はないだろう、と私も当たり障りのない答えを返す。

「普通に楽しいよ。橘くんこそ、なんかちょっと不思議な立ち位置にいるよね。」

私がそう聞けば橘くんはふっ、とわらって私の方を向く。

目が数秒間あって、思わず逸らしてしまう。

「あんまり騒がしいのは得意じゃないんだよね。もちろんみんな良い奴なんだけどさ。」
「・・そっか。」

橘くんの目は怖い。
とても綺麗で、でも鋭くて。
・・全てを、見抜かれてしまいそう。

そこからは特に大した話をする訳でもなく、
2人で並んで帰路へとついた。