「茜、おはよー」
「おはよ」

学校は好きではない。
かと言って別に嫌いという訳では無いが。

友達は普通にいるし、成績も中の上くらい。
特に困っていることもないし、当たり障りのない毎日を送っている。

・・ただ、教室は酷く息苦しい。

少しでも気を抜けば何かに取り込まれてしまいそうで、とても、怖い。


「ねえ今日古典当たる?」
「多分。私からだと思う」
「まじか。順番数えとくわ。」

友達と会話をしながらふと前を向けば、男子の塊の中で机に突っ伏して眠る橘くんの背中が目に入った。

あの雨の日から1週間。
特に学校では関わりのない私たちが話す機会はなく、
逃げてしまった気まずさはとっくに薄れていた。

「・・なに?橘くん?かっこいいよね!」
「え?・・あー、そう?」
「かっこいいよ!ほかの男子と違って騒がないし、クールなイケメンって感じ!」
「へー・・」

そういう話には興味が無いけど、
それを悟られないように笑って頷く。

・・橘くんは、やっぱり少し不思議な雰囲気がある人だ。

なんて、そんな事を語れるほど関わったことはないのだけれど。




「あー、雨降っちゃってるねえ。」

隣で友人のはるかが顔をしかめる。

放課後、帰ろうとすれば雨の音が聞こえてきた。

「ごめん今日バイトあって、一人で帰り大丈夫そう?」
「大丈夫。ありがとね。」
「・・・無理してない?」

私の顔を不安げに覗き込むはるかに、
精一杯の笑顔で答える。

少し安心したように頬を緩めた彼女は、
クラスは違うものの中学校からの友達で、唯一繕わないで話せる相手だ。

「なんかあったら電話しなね。すぐ飛んでくから。」
「また品川さんに怒られちゃうんじゃない?」

私がふざけてそういえば、はるかもあちゃー、と舌を出す。
品川さんとははるかのバイト先のパートのおばさんで、どうにもはるかと合わないらしい。愚痴しか聞かない(おい)。

謝りながら急いでバイトへと向かうはるかに手を振って、帰宅準備をする。

大丈夫、とは言ったものの、
雨の中帰るのは、少し躊躇ってしまう。

・・もう少し弱まってからにしよう。

そう思ってもうほとんど人が残っていないのを確認して、下駄箱のそばに座り込んだ。