「直、これつくえに持っていってくれない?」
「はーい。」
今日の夜ご飯はオムライス。いい香りにお腹がぐーっと音を立てる。
お母さんと向かい合わせで座って、せーので頂きますをして。
時刻は午後6時頃。
外はまだ少し明るくて、高校生だろうか。
制服姿の人たちが固まって歩いている。
「にぎやかねえ。」
開けた窓から聞こえてくる声に、
お母さんは少し微笑んで。
・・・そういえば、お姉さんはどこの高校なんだろう。
そもそも本当に高校生かどうかすらお姉さんの口から聞いた事もない。
制服の違いなんて僕にはわからないし、ああ、でも。
いつも風に揺れているお姉さんの制服のすそを思い出す。
胸のあたりに、学校のマークのようなものがついていたなあ。
「お母さん。」
「ん?」
「高校の制服ってさ、胸の所にマークが入っているものなの?」
「そうねえ。そういう所も多いんじゃないかしら。校章って言うのよ。」
その言葉を聞いて、僕はなんだかワクワクしてしまった。
探偵が大事なヒントに気づいた時みたいな、そんな気持ち。
だってそのマークは高校のしるしって事だ。そのマークさえわかれば、お姉さんの通っている場所が分かるんだ。
もう一度お姉さんの制服姿を思い浮かべて、
お母さんに伝えてみた。お母さんは僕の説明を聞いて自分の左手を指でなぞりながら、ポンっと手を叩く。
「ああ、笠波高校じゃない?」
「かさなみ?」
「そう、かさなみ。女子高なんだけどね、すごく頭がいいのよ。」
「そうなんだ。」
お姉さん、頭がいいんだなあ。でも確かにそんな感じもする。
「卒業した生徒も、大学もみんなすごく頭のいい所に行っててね。」
「へえ・・。」
「本当にもったいないわよねえ。」
「もったいない?」
「もう何年か前に、廃校になっちゃったの。」
「・・・ほんとに?」
嘘ついてどうするのよ、とお母さんは笑う。
僕もあいまいに笑い返して、でも頭の中は混乱していた。
お姉さんはなんでもうないはずの学校の制服を着ているんだろう。
じゃあ何歳なんだろう、本当は高校生じゃないのかな、いやそれも全部僕が勝手に思ってただけか。
なんだかよく分からなくなってしまって、気づけばご飯を食べる手が止まってしまっていたのか、
「早く食べちゃいなさい。」とお母さんを不機嫌にさせてしまった。