「・・次、原田くん。」
先生に名前を呼ばれて、教室の前までテストを受け取りに行く。
僕の算数の答案用紙を満足そうに眺めた先生は、
「さすがね。」と笑って花丸のついたテストを僕に渡した。
曖昧に頷いてから席に戻る。
「・・毎日遊ばないで勉強ばっかしてるもんな。」
「ちげーよ、遊ばないんじゃなくて遊ぶ友達がいないんだろ。」
僕の100点、と書かれた答案用紙を覗き込んで
後ろからそんな話し声が聞こえてきたけど、無視。
勉強は嫌いじゃない。
分かることが増えていくのは楽しいし、やったらやった分出来るようになるから。
特に算数は答えが一つしかないから好きだ。
逆に国語は少し苦手で、5点満点の問題で3点をつけられた時の
あの何とも表せない気持ちを感じるのが苦手だ。
「・・ただいま。」
「おかえり。」
玄関を開ければお肉を焼いている匂いがして、
今日の夕食はハンバーグかな、なんて予想をする。
「すぐ夕食出来るから、それまで宿題やっちゃいなさい。」
「・・うん。」
お母さんに言われるがまま、手洗いうがいをしてすぐに勉強机についた。
宿題を半分やり終えたところで、夕食作りに区切りがついたのだろう、
お母さんが僕のもとへ来て目の前の椅子に座る。
「今日テスト返しだったでしょ。出して。」
「・・はい。」
ランドセルからテストを出して、お母さんに手渡す。
帰ってきたテストは、数学と、理科と、国語。
3枚のテストをお母さんはじっくりと、隅から隅まで確認する。その瞳はとがっていて。
・・・ああ、この時間、本当に嫌。
自分が隅っこへと追いやられていくのを感じる。
とても息苦しくて、目が回りそう。
テストを確認し終わったお母さんは、
はあ、と一度ため息をついた。それでまた僕の心臓は激しく音を立てる。
「・・・国語。」
「はい。」
「もっと頑張りなさい、この前も同じような所間違えてたじゃない。」
「・・・・。」
算数は、100点。理科は96点。漢字を間違えてしまった。
国語は、80点。漢字は全部出来ていたけれど、文章題が何問か間違っていて。
「授業ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ。」
「だったら出来るはずじゃない。」
でも、お母さん。平均点は60点だったんだよ。
なんて言葉は僕の胸の中で消化される。
言葉には出せない、何も話せなくなってしまうのだ。
「まあ、数学と理科はよく出来たわね。」
「・・・。」
「次も、頑張りなさい。テストお疲れさま。」
さあ、ご飯にしましょうか。そう言ってお母さんは
もう用済み、とでもいうようにテストを机の上に置いていく。
胸のざわざわが収まらない。
でも気にしない、そのうち無くなる。いつもの事だ。
「おいしい?」
「うん。」
「よかった。ハンバーグにしようか生姜焼きにしようか迷ったのよ。
でもどうせなら好物にしてあげようと思って。」
そう言ってお母さんは優しく笑う。
どう反応するのが正しいのか分からず曖昧に頷く。
ありがとう、が正しいのだろうか、分からない。
夕飯は予想通りハンバーグだった。
僕のお母さんはとても料理が上手だと周りの人はよく言うし、僕もそう思う。
仕事が忙しいお父さんと夕食を一緒に食べる事はほとんどなくて、
普段からご飯を食べるのはお母さんと2人きりだ。
時計を見れば午後6時を少し回った頃で、この時間、最近周りではやっているアニメが放送されている。
けれど僕はそのアニメを見たことがない。ご飯を食べながらテレビを見る事をお母さんは許さないのだ。
ゲームも1日30分の決まりがある。前まではゲームもやっていたけれど、
一度時間を破ってしまい怒った母さんにセーブしていないまま電源を切られて、それからやめた。
時間を忘れて一生懸命倒したあの怪人の名前ももう忘れてしまった。
外食もほとんどしない。お菓子もお母さんの許可がないと食べてはいけない。
僕の家には、そういうルールがたくさんある。
僕のためを思って。それがお母さんの口癖だし、本心なのだろうと思う。
別に不満もない。怒られることもあるけど、毎日美味しいご飯を作ってくれるし、
「原田くんのお母さん、綺麗だね。うちのママとは大違い。」なんて同級生に羨ましがられることもある。
僕はきっと幸せなのだ。素敵なお母さんだ、不満なんてない。
・・・ただ、時々すごく、息苦しくなるだけで。
先生に名前を呼ばれて、教室の前までテストを受け取りに行く。
僕の算数の答案用紙を満足そうに眺めた先生は、
「さすがね。」と笑って花丸のついたテストを僕に渡した。
曖昧に頷いてから席に戻る。
「・・毎日遊ばないで勉強ばっかしてるもんな。」
「ちげーよ、遊ばないんじゃなくて遊ぶ友達がいないんだろ。」
僕の100点、と書かれた答案用紙を覗き込んで
後ろからそんな話し声が聞こえてきたけど、無視。
勉強は嫌いじゃない。
分かることが増えていくのは楽しいし、やったらやった分出来るようになるから。
特に算数は答えが一つしかないから好きだ。
逆に国語は少し苦手で、5点満点の問題で3点をつけられた時の
あの何とも表せない気持ちを感じるのが苦手だ。
「・・ただいま。」
「おかえり。」
玄関を開ければお肉を焼いている匂いがして、
今日の夕食はハンバーグかな、なんて予想をする。
「すぐ夕食出来るから、それまで宿題やっちゃいなさい。」
「・・うん。」
お母さんに言われるがまま、手洗いうがいをしてすぐに勉強机についた。
宿題を半分やり終えたところで、夕食作りに区切りがついたのだろう、
お母さんが僕のもとへ来て目の前の椅子に座る。
「今日テスト返しだったでしょ。出して。」
「・・はい。」
ランドセルからテストを出して、お母さんに手渡す。
帰ってきたテストは、数学と、理科と、国語。
3枚のテストをお母さんはじっくりと、隅から隅まで確認する。その瞳はとがっていて。
・・・ああ、この時間、本当に嫌。
自分が隅っこへと追いやられていくのを感じる。
とても息苦しくて、目が回りそう。
テストを確認し終わったお母さんは、
はあ、と一度ため息をついた。それでまた僕の心臓は激しく音を立てる。
「・・・国語。」
「はい。」
「もっと頑張りなさい、この前も同じような所間違えてたじゃない。」
「・・・・。」
算数は、100点。理科は96点。漢字を間違えてしまった。
国語は、80点。漢字は全部出来ていたけれど、文章題が何問か間違っていて。
「授業ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ。」
「だったら出来るはずじゃない。」
でも、お母さん。平均点は60点だったんだよ。
なんて言葉は僕の胸の中で消化される。
言葉には出せない、何も話せなくなってしまうのだ。
「まあ、数学と理科はよく出来たわね。」
「・・・。」
「次も、頑張りなさい。テストお疲れさま。」
さあ、ご飯にしましょうか。そう言ってお母さんは
もう用済み、とでもいうようにテストを机の上に置いていく。
胸のざわざわが収まらない。
でも気にしない、そのうち無くなる。いつもの事だ。
「おいしい?」
「うん。」
「よかった。ハンバーグにしようか生姜焼きにしようか迷ったのよ。
でもどうせなら好物にしてあげようと思って。」
そう言ってお母さんは優しく笑う。
どう反応するのが正しいのか分からず曖昧に頷く。
ありがとう、が正しいのだろうか、分からない。
夕飯は予想通りハンバーグだった。
僕のお母さんはとても料理が上手だと周りの人はよく言うし、僕もそう思う。
仕事が忙しいお父さんと夕食を一緒に食べる事はほとんどなくて、
普段からご飯を食べるのはお母さんと2人きりだ。
時計を見れば午後6時を少し回った頃で、この時間、最近周りではやっているアニメが放送されている。
けれど僕はそのアニメを見たことがない。ご飯を食べながらテレビを見る事をお母さんは許さないのだ。
ゲームも1日30分の決まりがある。前まではゲームもやっていたけれど、
一度時間を破ってしまい怒った母さんにセーブしていないまま電源を切られて、それからやめた。
時間を忘れて一生懸命倒したあの怪人の名前ももう忘れてしまった。
外食もほとんどしない。お菓子もお母さんの許可がないと食べてはいけない。
僕の家には、そういうルールがたくさんある。
僕のためを思って。それがお母さんの口癖だし、本心なのだろうと思う。
別に不満もない。怒られることもあるけど、毎日美味しいご飯を作ってくれるし、
「原田くんのお母さん、綺麗だね。うちのママとは大違い。」なんて同級生に羨ましがられることもある。
僕はきっと幸せなのだ。素敵なお母さんだ、不満なんてない。
・・・ただ、時々すごく、息苦しくなるだけで。