「原田、一緒にサッカーしようぜ。」
「・・いい、本読むから。」

「せっかく誘ってやったのに。」「いいよ校庭いこうぜ。」なんて後ろで誰かがボヤくのが聞こえる。

でも、別にいい。
同級生と遊んでもつまらないだけだ。
本を読んでいた方が、絶対楽しい。

休み時間、僕は基本的に席に座ったままだ。

学校はいつもつまらない。授業は退屈だしクラスメイトとは話が合わないし、
何より僕は笑うことが苦手だ。別に怒っているわけじゃないのに怖がられてしまったり、誤解されてしまったり。

別にそれでいいとも思っている。
その方が人にも話しかけられなくて楽なのだ。

「みんなで仲良くしましょう」なんて先生は言うけど、そんなのは絶対に無理だ。
きっと先生も分かってる、けれどそう言わなければいけない。

だから大人は嫌だな、と思う。

きっと僕たちよりもずっと生きづらい世界で生きているのだろう。
なんて想像すると嫌になって、首を振って考えるのをやめた。



「・・ねん、少年?」
「・・・ボーッとしてた。」

大丈夫?と心配そうに僕の顔を見るお姉さん。

「具合悪いの?」
「ううん。本当にちょっとボーッとしてただけ。」

僕がもう一度そう言えば、そっか、とお姉さんは頷いて
「具合悪かったらすぐ言うんだよ~」と一言。

「何その言い方。赤ちゃんなだめてるみたい。」
「拗ねるなって。」

僕が少しいじければ、
お姉さんは楽しそうに笑う。


あの日から、学校の帰り道にお姉さんの所へ行くのが習慣になっていた。

僕が行くとお姉さんはやっぱりそこに座っていて、決して降りてこようとはしない。
僕はランドセルをそばに下ろして、定位置となった石段に腰掛ける。

お姉さんとするのはくだらない話ばかり。

「今日もいい天気だね〜」
「そうだね、でもそのせいで今日の体育はマラソンだった。」
「いいじゃん。体力つくし。」
「長距離は苦手なんだ。」

僕がそう答えればお姉さんは「貧弱〜」と笑う。
・・貧弱の意味が分からなかったけど後で調べることにする。

「・・お姉さんはいつもここにいるの?」
「んー、少年と出会った日からはね、毎日。」
「そっか。」

お姉さんはいつも学校の制服を着ていて、でもどこの制服なのかは分からない。
背格好からしてなんとなく高校生なのかな、そう勝手に思っているくらいだった。

自分の事は何も教えてくれないし、僕のこともあまり聞かない。
だけど僕たちはこうしてどうでもいい話をしたり、話をしなくてもただボーっと川を眺めていたりする。
変な関係だけど、不思議と心地よかった。