「あ、少年」
学校からの帰り道。
いつもの橋の下。
そう言って手をひらひらと振ったお姉さん。
けれどその足元は、もう不安定じゃない。
「そこ、僕の場所なんだけど」
「まあまあいいじゃん。先輩優先。」
「・・・。」
僕が呆れて睨めば、お姉さんは声を上げて楽しそうに笑う。
もう悲しさの影は、ない。
前まで僕が僕がランドセルを下ろして座っていた石段には、いつもお姉さんが座っていて。
僕の日々の抵抗も虚しく、結局いつも地べたに座り込むことになる。
「どう?サッカーは上達した?」
「全然。井上の教え方が下手なんだよ」
「そうやってすぐ人のせいにするのがだめなんだよな〜」
ジトッと、横目で睨めばくすくすと笑う。
風が吹いて、お姉さんの髪と灰色のスカートを揺らした。
前よりも少し独特なデザインの制服にお姉さんは文句を言っていたけど、それもよくお姉さんに似合っていた。
胸に光るマークも、前とは違う。本当の、お姉さんのいる場所だ。
お父さんとお母さんは相変わらず仲が悪い。お姉さんもお母さんと仲がいいとはやっぱり言えないし、学校でも色々大変そうだ。僕もこれから中学受験をしなきゃいけない。嫌な事もある、悲しい事もある、でも今日はサッカーで綺麗なパスを出すことが出来たし、小テストでいい点数が取れたし、夜ご飯はハンバーグの予定だ。それだけで僕は、まあいっか、なんて思える。
なんとなく、なんとなくでいいんだ。
どうしようもない事ばかりだけど、
僕らはそれでも、
この世界で生きていく。