二コラはブレスに続いて言葉を紡ぐ。
「また、ここにいるリーズ嬢をあなたは辺境の地、それも獣が出る危険な森に捨てましたね?」
「ぐぬぬ」
「この国で自分の子を捨てることがどのような罪に問われるかご存じですね?」
責め立てる二コラに対して、余裕の表情を見せる伯爵。
「はっ! 何を若造が知ったふうな口を利くな! お前みたいな騎士が裁けるはずがないだろう」
「そうですか、あくまで改心しないのですね」
「改心? ふざけるな、なんでこんな自分の娘でないやつを育てねばならん」
「え……?」
リーズはその言葉を聞いて身体が固まる。
(娘じゃない?)
「お前は知らんだろうが、死んだお前の母さんの連れ子なんだよ、お前は」
「え?」
「父上! リーズには言わない約束です!」
「知らんっ! お前はほんと邪魔だったんだ。聖女だからとお前の母さんを娶ったのに、すぐに力尽きて聖女としての回復力を失った」
(聖女? 回復力……まさか私の傷が治るのって……)
「話はそれだけですか?」
「あ?」
「話はそれだけかと言っている!」
二コラは怒髪天を衝く勢いで怒り、伯爵をすごむ。
その目に圧倒されて伯爵は思わず後ずさった。
「私の妻を捨てた挙句、侮辱するとは」
「はっ! だからお前になにが……」
すると、部屋にいた騎士兵が全員その場に跪き、二コラのほうに身体を向ける。
その異様な光景に何が起こるのかと、伯爵は恐怖心を覚えた。
「知らなければよいものを、私は第一王子二コラ・ヴィオネだ」
二コラは堂々とその場で正体を明かすと、伯爵は目を丸くして思わずその場にへたり込む。
「第一、王子だと?!」
「ええ、辺境の地へはあなたの不正を暴くため、そして私の趣味で行っておりました。王都からは離れて身分を隠していたのでわからなかったでしょうね」
「まさか、じゃあ王も……」
「ええ、全てこのことをご存じですよ、ブレスの協力のおかげで早くことが進みました」
(第一王子、様? 二コラが?)
リーズは今まで過ごしていた優しい二コラと別人のような気がして、呆然としてしまう。
「そして、これは王命です。フルーリー伯爵、貴殿には当主の座から退いていただき、ここにいるブレス殿を次代のフルーリー伯爵とする! そして、子を捨てた罪は王都の獄にて償っていただきます」
「いやだああああーーーーーー!!!!!」
こうしてフルーリー伯爵は伯爵の座から降り、獄で処分を待つ身になった。
リーズと二コラは再び辺境の地の家へと戻ってきていた。
「二コラ……様」
「様はよしてくれ、今まで通りでいい」
「でも、まさか王子様だったなんて、知らなかったとは失礼いたしました」
「構わない、むしろかしこまられるとこまる」
リーズは二コラに近づくと、俯きながら自分の気持ちを言う。
「妻になるって話、正直初めは驚きましたが、だんだん一緒に過ごすにつれてあなたのその優しい部分や頼りがいのあるところに惹かれて好きになりました」
「え?」
「そうですよねっ! 困りますよね!? だってたぶん王子には立派な婚約者の方がいらっしゃって、私なんて」
「本当かい?!」
「え?」
リーズはあまりにも嬉しそうに自分の手をとって喜ぶ二コラに驚く。
「僕はね、君が一生懸命村のみんなのために働く姿を見て、本当に素敵な女性で、僕にはもったいないくらいだと思ってたんだ。だから君の気持ちを聞いて驚いた。うぬぼれてもいいんだよね?」
そう言うと、二コラはゆっくりとリーズの頬に手を添えて告げた。
「改めて言います、第一王子二コラ・ヴィオネはリーズを愛しています。私の妻になってくれませんか?」
リーズは涙が止まらず、声を震わせながら言う。
「はい」
そして、笑顔を見せて言った。
「私もあなたが大好きです!」