目覚めると、日は高く昇っていた。
 ここ数日、嫌な夢ばかり見る。何度も何度も繰り返し、汗びっしょりになって目を覚ます。夜も昼も関係ない。寝ようとしてなかなか寝付けず、うつらうつらして飛び起きる。それを幾度も繰り返している。
 布団に横になったまま、目覚まし時計に目をやる。十二時十分。もうすぐ昼休みだ。そういえば、腹が減っていたことを思い出す。最後にものを食べたのはいつだっけ。一昨日、カップ麺の最後の一つを食べてしまった。参ったなあ。そう思いながら寝返りを打つ。
 窓の外は、ひどく明るい。秋晴れの真っ青な空。ぽかりと浮いた白い雲が一つだけ。
 このずっと向こうで、青南高校にはいつもと同じ昼休みが訪れている。友人の顔を思い出す。また、嫌な夢を見てしまうに違いない。
 翔太は、疲れ切っていた。
 ――なんで、こんなことばかりなのかなあ。
 ほんの少し前まで、あんなに毎日が楽しかったのに。忙しくとも充実していて、好きな人たちと笑い合って暮らしていたはずなのに。まるであの夜の再来のように、あっという間にそれらは消え去っていった。
 ばちが当たったのかもしれない。そんなことさえ考える。元々自分は不幸に生まれついていて、幸せを望めば望むほど、悪い場所に落とされるのだ。愛する人も、通う学校も、働く店も、住む部屋さえも。崩れるように失っていく。それらを手にしていたこと自体、烏滸がましかったのかもしれない。
 美沙子はあれ以来帰って来ていない。もう二度と戻ってこないのかもしれない。
 次に住む場所を見つけなきゃ。学校にも退学届けを出して、働く先を見つけなければいけない。また情報誌をもらってきて、履歴書を買って、証明写真を撮って。退学するなら、せめてもう一度学校に行かなくちゃ。制服を着て、自転車を漕いで。提出したノートは、処分してもらおう。すぐに住む場所も何とかしないと。どこに行けばいいんだろう。十五歳の自分を相手にしてくれる不動産屋などあるのだろうか。
 よつば食堂の面々を薄く思い出す。彼らに泣きつけば、何か一つだけでも助けてくれるかもしれない。だが、これまで散々心配をかけ、気に留めてもらったのだ。その行為が美沙子の言った「泣き脅し」に値するのではと思うと、とてもそんな真似は出来ない。
 ――どうでもいいや。
 考えることに疲れ果て、翔太は再び瞼を閉じた。眠くはないが、起きている気力がなかった。もう全てがどうでもいい。このまま二度と目が覚めないことが、何よりの幸せだ。
 そう思う端で、最後の最後に気にかかるのが、彼女のことだった。自分が目覚めなくなったら、彼女はきっと悲しむだろう。自分が周囲と繋いでいたたくさんの糸。あっという間に千切れていったそれは、たった一本だけ残っている。その先にいる凛は、今どんな顔をしているだろう。