それから一週間後、二人は再び一緒に青南高校へ向かった。
 普段あまり緊張を覚えることのない翔太だが、この日ばかりは不安で気分が悪かった。凛に悟られないようにするのに必死だった。
 倍率は、1.2倍。つまり、十人合格する裏で二人が落ちているということだ。
 ここまで来たのだ。何が何でも受かりたい。
 だがそれは、周りにいる中学生たち全員が思っている。同じように緊張した面持ちで駅から高校までの道のりを歩く人だかりを見ると、自信がなくなってくる。誰もが自分よりも賢そうに見える。
 いよいよ高校の敷地に入った。番号を書き出した模造紙が校舎前の掲示板に貼られている。
 いち早く自分の番号を見つけた生徒が歓声を上げた。それを尻目に、人だかりを少しずつ前に進む。
「あった!」
 自分の番号を見つけ、隣にいる凛が、ぱっと顔を明るくさせた。いくら射程範囲内で自信があったとしても、不安がないわけではなかったのだろう。
 翔太は、手元の生徒手帳にメモをした受験番号を、掲示板の中に探す。若い番号から数えていく。心音がどんどん大きくなる。
「あ」思わず間抜けた声が漏れた。「……あった」
「やったー!」
「うわ!」
 翔太の台詞を聞いた凛が、思い切り飛びついた。慌てて翔太は彼女を引きずり人のいない方へ逃げる。
「よかったね、よかったね! 翔太!」凛は翔太の両手を握り締め、満面の笑みで小さく飛び跳ねる。
「これで、また一緒にいられるね!」
 そんなことをはしゃぎながら言う。周囲の生徒たちに何ごとかと見られ恥ずかしく思いながら、それでも翔太は笑ってしまった。
 それぞれ報告のために一度家に帰った。とはいえ美沙子は翔太に電話を鳴らされることを嫌うため、特にすることはなかった。待ち焦がれた夕刻になると、二人は一緒によつば食堂に向かった。
 顔見知りの誰もが、その報告を喜んでくれた。
「凛ちゃんは想像通りだったが、まさか翔太まで受かるとはなあ」元さんが言うのに、翔太以外がどっと湧く。
「そんな言わんでもねえ。翔ちゃんやって頑張ったんやから」台拭きを手にした悦子が、テーブルを拭きにやって来た。
「冗談冗談。よう勉強してたもんな」
「言わなきゃよかった」
「拗ねるなっての。とにかく二人とも、よかったなあ」
 いつもの大声で笑う元さんの右手に、頭を掴まれて髪をくしゃくしゃにされる。迷惑なはずの行為なのに、普段の仏頂面をキープできなかった。これで高校生になれる。それも、凛と同じ高校にこれから通える。その喜びがようやっと実感になって湧きあがり、笑顔を隠しきれなかった。