眠い目を擦りながら、焼いただけの味気ないトーストを食む。ストーブのないキッチンは、十二月に入るといよいよ底冷えがする。靴下の指先を曲げ、せめて温めた牛乳を喉に流す。制服にこぼれたパンくずを指先で拾って皿に落とし、冷蔵庫脇のラックに乗っているテレビを眺めた。自習をするべく早めに学校に登校するため、時刻はまだ朝の七時前だ。美沙子はまだ寝ているから、極力テレビの音量は絞っていた。面接で時事について問われることもあると聞いてから、空いている時間は出来るだけニュースを見るようにしていた。
「あれ」
 思わず小さな声が漏れた。地方のニュースが放送される時間だった。テレビの画面に、見覚えのある街並みが映っている。どうやら昨夜、窃盗があったらしい。
 それだけでニュースになるのは珍しい気もするが、この町内ではこのところ三件立て続けに空き巣による窃盗が起こっていた。犯人はまだ捕まっておらず、この件は関連がありそうだとのことだった。
 物騒だなと完璧に他人事として思いながら、皿とコップを洗った。

 息を吐きかけて出来るだけ温めた手を、昨年学校主催のバザーで買った大きめの手袋に突っ込む。マフラーやカイロなんて持っていない。足早に学校に向かう。
 冷えた教室では、同じように自習に来た生徒が幾人か席についていた。彼らと同じように自分の席につき、鞄からノートと教科書を取り出す。数学なら目が覚めるかと考えていると、後ろの席の友人が話しかけてきた。
「翔太、朝のニュース、見た?」
 部活を引退してからやっと勉強を始めたという彼は、少し声を潜めている。野球部らしい坊主頭は寒くないのだろうかと、翔太はよく思う。
「ニュースって、なんの」
「泥棒。今までの空き巣犯が犯人かもって」
「ああ、見た」シャープペンシルをノックしながら、翔太は頷く。
「あれ、二組の鈴木の家だよ。知ってた?」
「バスケ部の」
「そうそう」彼は神妙な顔をしている。「俺の通学路の途中にあるんだ、あいつの家。だからすぐわかった」
 教室の何組かのグループも、同じ話をしているらしい。「泥棒」の単語が聞こえてくる。
「やべえよな」友人は、授業中よりずっと身の入った姿勢をみせている。
「大変だな」
 翔太の言葉に、彼はへへっと笑った。
「ま、翔太ん家は貧乏だから、狙われないよな」
「そうだよ。よかったよかった」
「僻むなって」
 そうして二人は小突き合った。
 二組の鈴木という生徒はその日一日欠席していたが、翌日に登校した彼の元にはたちまち人だかりができた。
 小規模でも父親が企業の社長をしている彼の家では、高価な時計や現金そのものが盗まれていた。先月にリフォームしたばかりの母屋で、盗まれた総額は八十万円相当に上るという。
 それを人づてに聞いた翔太は、金持ちは大変だなと思った。その悩みだけは絶対に持ち得ないのは、不幸だろうか。それとも一種の幸福と呼べるのかもしれない。