放課後は図書室で勉強をした。翔太は凛に追いつくために最初は一人で通い始めたが、それを知った凛もついてくるようになった。
「いて」
 本棚の間を歩いていて、棚に右肩をぶつけてしまい声が出た。辞書を抱えて前を歩いていた凛が振り返り、苦笑する。
 始めは二人きりで勉強をしていることをクラスメイトにからかわれたが、やがてそれに慣れると誰も口出ししなくなった。推薦入学が決まっている少数の生徒以外は、自分の進学で手一杯になったのだ。
 三年生も部活を引退し、図書室を利用する生徒たちは日に日に増えていた。その光景を見ているだけで翔太の焦りは募る。高校に通うこと自体に憧れはあるが、志望はあくまで凛と同じ青南高校だ。だがその為には少なくとも学年五十位以内には入らなければ厳しいと担任は言った。つまりは、もう少しで射程圏内の凛とは違い、あと四十人抜きで最低ラインということだった。
 周りが一切努力しない、現状維持ならばまだ可能かもしれない。だがこうして皆が頑張り始めれば、必然的に偏差値は上がりにくくなる。どうしても焦りが生まれてしまう。
 ケアレスミスにため息を吐く度に、凛はそんな彼の頬や腕を軽くシャープペンシルの頭でつついた。
「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫って、何が」
「翔太くんが」
「根拠がないよ」
「根拠なんていらないよ。おまじない。翔太くんは、だいじょーぶ」
 歌うように囁くのに、思わず翔太も失笑する。
「そんなこと言って、もし榎本さんが落ちたらどうするの」
「私は大丈夫だもん。絶対に受かる。だから翔太くんも、合格する」
「意味がわからない」
 そんな会話を繰り返しながら、時に得意な科目を教え合った。翔太は数学が得意で、凛は社会が得意だった。国語は二人ともよく出来た。共に苦手な英語は教え合いながら、一生懸命に勉強をした。