異界転生譚ゴースト・アンド・リリィ

前回のあらすじ

血まみれの犬みたいなにおいがする女の子を拾った限界女妛原閠(26)。
こんな世界、一緒に滅茶苦茶にしちゃおっか。



「テロリストって儲かんないもんだねえ」
「そもそも儲けのためにテロってるわけじゃねーかしら。というか儲けのためだったらそれはもうテロリズムじゃねーと思うかしら」
「でもテロ活するための資金稼ぎなんだし、それはもうテロの一環じゃない?」
「テロ活いうなかしら…………まあでも確かにこれもテロの一環かしら……?」

 健全なテロ活は健全な生活から。
 おはようございます。異世界転生系限界社畜女こと妛原閠です。
 そもそもテロ自体が健全じゃないんだからこの標語に実際意味はない。

 なんか知らないけど異世界に転生したっぽい私は、なんか知らないけど現地政府に殺されかけているテロリストの少女ユーピテルを救ってしまい、なんか逆に面白くなってきてなんか知らないけどテロに加担することにしたのだった。

 というのが前回までの私だったんだけど、いやー、テロ活って大変だね。
 まず最初にしたのがさ、ユーピテルを殺すことだったんだよね。

「お前のことはいまいち信用できねーかしら。でもプレイヤーを利用できる機会なんてもう絶対こねーかしら。だからひとまずは一緒に行動してやるかしら」
「うーん、ツンデレかメスガキか微妙なライン」
「じゃあ、さっそくお前へのテストもかねて、ワタシを殺してほしいかしら」
「…………うん?」

 せっかく傷を治してあげたのに、じゃあ早速殺してほしいかしらって言われて宇宙猫になったよね。
 異世界転生したばっかりのニュービーにはちょっと試練がでかすぎじゃなかろうか。

 でもこれにはちゃんとわけがあったんだよね。
 なんでもこのテロリスト、この少女としての姿が本体ってわけじゃなくて、他人に乗り移り続けてくタイプの精神寄生体みたいな存在みたいなんだ。というか人族の脳みそを利用して分散コンピューティングじみて自分を演算させてるネット生命みたいな。
 寄生したら人格完全に塗りつぶしちゃって元に戻せないし、同時に二人以上に寄生すると最悪自分同士で殺しあうような分裂を引き起こしかねないから、常に一人しか存在できないんだとか。

「もう何度も死んで来たかしら。サクッと済ませるかしら」
「ええ…………命の価値が軽いなあ」
「まあでも、死ぬっていうのは、死ぬほど痛いかしら。だからなるべく痛くない殺し方をするかしら」
「しかも注文が多い……」

 初殺人。って言っていいのかな。
 グロいのも嫌だし、ヒト殺すって本当無理なので、即死効果のある武器で痛みもなく死んでもらったけど、なんだろうね。そこまでショックでもない。すぐに別の体で戻ってきたのもあるけど、介錯っていうか、医療行為みたいな、そんな気持ちだったのかもしれない。
 いまならわかるね。
 あのころから私の感覚はだいぶユーピテルに破壊されてたよね。

 結局今に至るまで五回くらい殺してるし、ユーピテル以外の敵とか要人とかはもっと殺してるから何とも思わなくなっちゃったけど。

 ごろごろと馬車(馬……?)を走らせながら、私は荷台に積んだ数々の木箱と、それにもたれて帳面をにらむユーピテルをぼんやり見やった。
 いまの彼女は、ブロンドの成人女性の姿で、眼鏡と白衣もちょうどいいくらいにフィットしている。

「ぬぬぬ……うん? なにかしら?」
「いやあ、行商人ごっこも板についてきたなあって」
「食い扶持が一人増えたから稼がなきゃいけねーかしら」
「君ひとりだとごはんも宿もすっごいいい加減だったからじゃない?」
「お前がぜいたくを言い過ぎなのかしら! 風呂なんてたまにでいいかしら!」
「それは無理。絶対無理」
「目がマジかしら……」

 この子、どうせ使い捨ての体だと思ってるからなのか、憎悪のエネルギーに突き動かされて突っ走ってるからなのか、食事も睡眠もかなりいい加減だったんだよね。お風呂もあんまり入んないし。
 でもそういうのって目を引いちゃうだろうし、いざというときに力も発揮できないだろうから、最低限のメンテナンスだと思いなよって諭したらわかってくれた。っていうか理屈ではわかってても面倒くささが勝ってたんだろうな、いままで。

 しかし私は譲らない。
 メンタル病んで死んだはずが、この世界に来た時にナニカサレタのか、ご飯とかお風呂とか滅茶苦茶心動かされるからね。特にお風呂。ご飯食べないのはあるあるだけど、汚いのは耐えられない。

 あとヒト殺した後とか手を洗わないとしんどい。禊だね、ある種の。

 荷台に積んだ木箱のうちいくつかは、売り物じゃなくて心臓が詰まってる。
 私が《強奪(スナッチ)》という《技能(スキル)》で心臓を抜き取り殺したやつだ。どんなやつだ。

 警備の厳重な屋敷に侵入して、誰にも気づかれないままに要人を拉致って殺す。
 しかも表面に傷がついていないのに心臓だけなくなっているという異常な死に方は他にはまねできないので、見せしめや、ある種のメッセージとして有効に使える、というのがユーピテルの言だ。
 この心臓の持ち主も今頃前の町の広場で衆目に晒されていることだろう。深夜にいい感じの角度とか二人で言いあいながら設置したから、ぜひ見ていってほしい。

 私にはそのあたりの荒っぽい理屈はよくわからないんだけど、要人たちはこれで自分とこのセキュリティが不安になり、がちがちに固めて出てこないようになるんだとか。無残に殺されたくないからユーピテルの邪魔をしたくても怯えてしまうんだとか。黒狼騎士団とかも動きづらくなるんだとか。
 わからん。

 私にわかるのは心臓抜き取ったときの感触が心底不快で気持ち悪くてしんどいのと、要人の心臓抜き取って持ってくとユーピテルが喜んでくれることくらいだ。骨投げられた犬か私は。
 屋敷とかに侵入する以上、家族の存在とかが見て取れるのもまた信じられないくらい辛いんだけど、自分が信じられないことにそれにも慣れてきてしまったしんどい。

「ところでその心臓ってどうするの? 売るわけじゃないよね」
「売り物なら豚の心臓の方がよっぽど売れるかしら」
「あれを豚っていうのも私理解できないんだけど……」
「図鑑でしか見たことないけど、確かにあれは別物かしら……」

 この世界、馬とか犬とか豚とかよくわかんないことになってるからな……。

 売るわけでもなければもちろん食べるわけでもない心臓の使い道は、やっぱり「脅迫」らしかった。
 これを小包で送りつけたり、私がこっそり枕元において来たりすることで、恐るべき暗殺者の存在をにおわせて行動を鈍らせるっていうテロらしい。

「うーん。世界を滅茶苦茶にしようとは言ったけど、ちょっと考えてたのとは違う方向だな……」
「こういう地道なテロはあくまで下準備かしら」
「地道なテロとは」
「心配しなくても、派手なほうの滅茶苦茶も準備してるかしら」
「それは、あー……楽しみにしていいやつ?」
「もちろんかしら! みんな大好き巨大生物兵器かしら!」
「そのみんなに私も入れられるの納得いかないんだけど……」

 それはどうしようもない最低の人殺し道中で。
 それは弁解の余地もない悪党たちの悪だくみで。
 それは誰からも非難されるだろう犯罪者の旅路で。

 それでも、それは私にとって新たな人生の第一歩なのだった。





用語解説

・《強奪(スナッチ)
 ゲーム内スキル。《盗賊(シーフ)》系統が覚える。
 通常攻撃と同時にアイテムを盗む。
 即死効果が乗った場合、「心臓」「生首」などの特殊なアイテムを入手できる。
『「盗んだ」んじゃない。「頂戴した」んだ。丁重にな』