前回のあらすじ
リリオの母親マテンステロと、その顛末。
母の話をし終えて、ではお父さんはどうだったのと尋ねてきたのは、ウルウでした。
ウルウも早くにお母さんを亡くして、お父さんも何年か前に亡くなっているのだそうでした。
私の父は、厳しい人でした。厳しくて、不器用で、そしてとても優しい人でした。
立場というものがある人でしたし、甘い顔ばかりしているわけにもいかない、辺境の辛さというものがありました。それでも情に深くて、義理に堅くて、母の死を一番悲しんだのは、きっと父だったと思います。
父は母を愛していました。いえ、いまでもずっと、母を愛しているのでしょう。後妻をもうけることもなく、妾を作ることもなく、ただ時折、とても悲しそうな顔で、母によく似た私の髪をなでるのでした。
「おつむの良さも似てくれればよかったんだけどなあ、と」
「それ違うところ悲しんでるよね。リリオの馬鹿さ加減に呆れてるだけだよね」
まあ、私の奔放さを手放しで喜んでくれる人ではありませんでしたし、よくできた兄と比較されることも少なくはなかったように思います。
私は何というか、いろいろと加減の利かない子供で、母の良い所と父の良い所を悪い意味で受け継ぎ過ぎたようで、一日中遊びまわって、それでようやく疲れ果てて眠りにつき、目覚めればまた元気いっぱいで遊びまわるという、子育てお父さんには大変申し訳なくなるほど元気だったと思います。でも仕方ないんです。私も遊び盛りだったんです。
「まあ、さすがに奥様が亡くなってからは少しは大人しくなったけどね」
「まあ少しはこたえましたからねえ」
でもなんだかんだ、父は私のありようを尊重してくれたように思います。
私がトルンペートを拾った時も、父はすっかり呆れたように、それでもトルンペートの治療を指示し、私付きの侍女としての教育を進めてくれたのでした。
「そう言えばあの時は痛かったでしょう。ごめんなさい」
「さらっとそういうことを言える辺り、あんたってどこか壊れてる気がするわ」
謝ったのになぜかけなされている気がします。
まあ、確かにあの時はちょっとやり過ぎました。突然飛び出てきたので驚いて、魔力の制御がきかずもうすこしでばらばらにしてしまうところでした。あの当時は人間とおもちゃの区別があんまりついていませんでしたから、危ない所でした。
今はもちろんそんなことしません。人間は壊せば死んじゃうってちゃんとわかってますからね。
まあそれでもトルンペートは無事に治療が施され、私の侍女として私に付き合ってくれるようになったのですから、素晴らしい出会いでした。
拾った私が面倒を見るはずだったのが、いつの間にか私の方が面倒を見られていたのはなんだか釈然としませんけれど、でもこういう関係が心地よいので仕方ないのです。
父は私が拾ってきたものをいつだって、きちんと面倒見てくれる素晴らしい父です。
「つまり全部放り投げてるってことだよね」
「よくまああれだけ面倒見れるなって感心するくらい、手配のうまい方よ」
「言ってもペットでしょ?」
「まあ、愛玩動物って言える範囲……かもしれないわ。ギリ」
そんなにギリギリでしょうか。
兎や犬、猫、猪、虎、狼。そんなものですよ、精々。さすがに飛竜は飼ってとは言いませんでした。私えらい。
「結局全部放り投げたんでしょ」
「適切な部門に管理を委託しただけです」
「こういうときだけ頭よさそうなこと言いやがって」
まあでも、お父様も愛玩動物と付き合いを深めていくうちに、母との離別の悲しみを少しでも忘れられるのではないかという、そういう娘の幼いながらの思いやりというものですよ。
「主に拾ってきたのは奥様が亡くなる前なんだけど」
「計画的犯行でした」
「嘘を言え」
それにしても、父によくなついていたプラテーノはいまはどうしていることでしょうか。母が亡くなった後は、ずっと父のそばにいてくれたプラテーノ。いい子でした。なぜか私には懐いてくれませんでしたけれど。
「プラテーノ?」
「狼よ。大型のやつ。森で暴れてたのを、リリオがぶん殴って『拾って』きたの」
「そりゃ恐れはしても懐きはしないよね」
あれっ。おかしいな。大体の動物はそんな感じで出会ってきずなを深めてきたつもりなんですけれど。
「加減を知らないリリオがぶん殴って生きていられる動物ってなに」
「基本魔獣。『拾って』これなかったのも結構いるわ」
「こわっ」
「あたしも世話してたけど、御屋形様がしっかり手綱握ってなかったら、あたしなんて今頃丸のみにされてたわよ」
「ペットの話だよね?」
「愛玩はしてたわ。一方的だったけど」
あれれ。なんか私の扱いがひどい気がします。でもいいんです。私は彼らのことを愛していますし、彼らも私のことを畏敬してくれています。それで充分です。ふーんだ。
「子供みたいにすねてるけど」
「子供だもの」
「子供じゃありませーん、成人でーす」
「じゃあ大人らしくしてようか」
「はーい」
あれれれ、うまくあしらわれた気がします。むーん。ぷんすこ
用語解説
・プラテーノ
リリオのペット。身の丈二メートルほどの巨大な狼。
辺境では普通の獣であってもみな大きく、魔獣のように魔力を持つという。
リリオの母親マテンステロと、その顛末。
母の話をし終えて、ではお父さんはどうだったのと尋ねてきたのは、ウルウでした。
ウルウも早くにお母さんを亡くして、お父さんも何年か前に亡くなっているのだそうでした。
私の父は、厳しい人でした。厳しくて、不器用で、そしてとても優しい人でした。
立場というものがある人でしたし、甘い顔ばかりしているわけにもいかない、辺境の辛さというものがありました。それでも情に深くて、義理に堅くて、母の死を一番悲しんだのは、きっと父だったと思います。
父は母を愛していました。いえ、いまでもずっと、母を愛しているのでしょう。後妻をもうけることもなく、妾を作ることもなく、ただ時折、とても悲しそうな顔で、母によく似た私の髪をなでるのでした。
「おつむの良さも似てくれればよかったんだけどなあ、と」
「それ違うところ悲しんでるよね。リリオの馬鹿さ加減に呆れてるだけだよね」
まあ、私の奔放さを手放しで喜んでくれる人ではありませんでしたし、よくできた兄と比較されることも少なくはなかったように思います。
私は何というか、いろいろと加減の利かない子供で、母の良い所と父の良い所を悪い意味で受け継ぎ過ぎたようで、一日中遊びまわって、それでようやく疲れ果てて眠りにつき、目覚めればまた元気いっぱいで遊びまわるという、子育てお父さんには大変申し訳なくなるほど元気だったと思います。でも仕方ないんです。私も遊び盛りだったんです。
「まあ、さすがに奥様が亡くなってからは少しは大人しくなったけどね」
「まあ少しはこたえましたからねえ」
でもなんだかんだ、父は私のありようを尊重してくれたように思います。
私がトルンペートを拾った時も、父はすっかり呆れたように、それでもトルンペートの治療を指示し、私付きの侍女としての教育を進めてくれたのでした。
「そう言えばあの時は痛かったでしょう。ごめんなさい」
「さらっとそういうことを言える辺り、あんたってどこか壊れてる気がするわ」
謝ったのになぜかけなされている気がします。
まあ、確かにあの時はちょっとやり過ぎました。突然飛び出てきたので驚いて、魔力の制御がきかずもうすこしでばらばらにしてしまうところでした。あの当時は人間とおもちゃの区別があんまりついていませんでしたから、危ない所でした。
今はもちろんそんなことしません。人間は壊せば死んじゃうってちゃんとわかってますからね。
まあそれでもトルンペートは無事に治療が施され、私の侍女として私に付き合ってくれるようになったのですから、素晴らしい出会いでした。
拾った私が面倒を見るはずだったのが、いつの間にか私の方が面倒を見られていたのはなんだか釈然としませんけれど、でもこういう関係が心地よいので仕方ないのです。
父は私が拾ってきたものをいつだって、きちんと面倒見てくれる素晴らしい父です。
「つまり全部放り投げてるってことだよね」
「よくまああれだけ面倒見れるなって感心するくらい、手配のうまい方よ」
「言ってもペットでしょ?」
「まあ、愛玩動物って言える範囲……かもしれないわ。ギリ」
そんなにギリギリでしょうか。
兎や犬、猫、猪、虎、狼。そんなものですよ、精々。さすがに飛竜は飼ってとは言いませんでした。私えらい。
「結局全部放り投げたんでしょ」
「適切な部門に管理を委託しただけです」
「こういうときだけ頭よさそうなこと言いやがって」
まあでも、お父様も愛玩動物と付き合いを深めていくうちに、母との離別の悲しみを少しでも忘れられるのではないかという、そういう娘の幼いながらの思いやりというものですよ。
「主に拾ってきたのは奥様が亡くなる前なんだけど」
「計画的犯行でした」
「嘘を言え」
それにしても、父によくなついていたプラテーノはいまはどうしていることでしょうか。母が亡くなった後は、ずっと父のそばにいてくれたプラテーノ。いい子でした。なぜか私には懐いてくれませんでしたけれど。
「プラテーノ?」
「狼よ。大型のやつ。森で暴れてたのを、リリオがぶん殴って『拾って』きたの」
「そりゃ恐れはしても懐きはしないよね」
あれっ。おかしいな。大体の動物はそんな感じで出会ってきずなを深めてきたつもりなんですけれど。
「加減を知らないリリオがぶん殴って生きていられる動物ってなに」
「基本魔獣。『拾って』これなかったのも結構いるわ」
「こわっ」
「あたしも世話してたけど、御屋形様がしっかり手綱握ってなかったら、あたしなんて今頃丸のみにされてたわよ」
「ペットの話だよね?」
「愛玩はしてたわ。一方的だったけど」
あれれ。なんか私の扱いがひどい気がします。でもいいんです。私は彼らのことを愛していますし、彼らも私のことを畏敬してくれています。それで充分です。ふーんだ。
「子供みたいにすねてるけど」
「子供だもの」
「子供じゃありませーん、成人でーす」
「じゃあ大人らしくしてようか」
「はーい」
あれれれ、うまくあしらわれた気がします。むーん。ぷんすこ
用語解説
・プラテーノ
リリオのペット。身の丈二メートルほどの巨大な狼。
辺境では普通の獣であってもみな大きく、魔獣のように魔力を持つという。